十二封 閉ざされた帰り道に。

 不覚にも美味しいと思ってしまった。今まで紅茶なんてものはミルクティーやレモンティーしか飲んでこなかったし、こんな大層なカップに注がれたのなんてもってのほか。彼女の踊りはピタッと止まり、またもやふふっと笑いながら再度椅子に足を組んで座った。


「それは良かったわ。初めましてですもの、飲みやすいのを用意したの。お口に召して何よりですわ」


「それで、道具というのは、具体的に何を集めたらいいんですか?」


「そうですね。いえ、今日は辞めておきましょう。お疲れでしょう? また後日でもいいわ」


「えっ、いいんですか? 今日じゃなくて」


「えぇ、そこまで急ぎでもないもの。この日までに、というのはありますけれど、まだ日にちはありましてよ」ニコッと微笑んだ彼女の気遣いは、この紅茶同様、暖まるものがあった。


「じゃあ、お言葉に甘えて……。また明日きます」


「えぇ、そうして頂戴」


「家まで傷一つ、付けずに送り届けてちょうだいね、フューレン」


 そう命令されたカラスは一つ頷き、私の肩目掛けて羽ばたいてきた。肩に乗った後は、相変わらず翼の毛繕いをしていた。呆れ、よりもあんた名前あったんだの驚きの方が強かった。

 

 床に置いてあったバッグを肩にかけ、彼女に一礼して後ろの扉に向かった。


「あっ。あの、来た時にはもう道が塞がれていたんですけど、どうやって帰れば……?」肝心なことを忘れていた、帰り道がないじゃないか。


 きょとんとする彼女に、私はなにか変なことをいってしまったのかと不安になった。だがそれも束の間、あぁという彼女の声に、変なことではなかったのだと安堵した。


「そのまま茨に歩き出してもらって結構よ。痛みなんかはないから、それも安心して頂戴ね」


 ただの目くらまし? なのだろうか。無事に帰れることに胸を撫でおろす。分かりましたと一言、また扉へと歩き出した。ドアノブに手をかけ、扉を閉める際に見た彼女の服は戻っていて、その表情はとても穏やかに笑っていた。

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