影を討てーShadowー
妖魔との再会
影が来る。
逃げても影はついてくる。
走ろうとも影はくる。
何かするわけではないが、常にそれはある。
だが影を喰うものがいるなら?
影に潜み影を喰い影を泳ぐものがいる。
影を守る為に影から逃げる、そして影であるが故に消す事は叶わぬ。
ーー
十二星召ニアリットとの戦いを制してまずは白星で一歩を踏み出せたエルクリッドとシェダ。仲間達と共に次に向かうのは地の国ナームと水の国アンディーナの境界南にあるキアズミの港町である。
その街のすぐ近くに建てられている水上の城に住まう十二星召が一人リリル・エリルとの戦いに備え、拠点としながら星彩の儀の参加者と戦いその資格を得る基盤作りだ。
以前はエルクリッドを奪回する為に乗り込んだ為のもあり、桟橋から見える太古の城の印象はまた違う。また街としての規模はさほどではないが、今は同じように拠点とし戦いを繰り広げるために集まったリスナーや、彼らを相手に商いをする者達も集まり朝から賑わいを見せている。
また、星彩の儀を行う為の専用の闘技場が水上に作られ、今は静かに波に揺られながらその時を待っているかのよう。
「さ、て、と、どーしよっか? 宿とってから……ってのはなんか混んでそうだから難しいかな?」
「僕の記憶だとこの街の宿はそこまで規模は大きくないですから、もう満員かもしれませんね……」
「じゃあ野宿するしかないねー。ま、いいんだけどさ」
宿が埋まって泊まる場所がないというのは旅をしていてザラにあるというもの。野宿の方が場所を見つけさえすればしやすいというのもあり、街の近くであれば行動もしやすい。
そんな事を思いながらノヴァへエルクリッドが答えると、不意に後ろから耳元へふっと息を吹きかけられ、思わず声を上げて身体を跳ねながら反転しケラケラと笑っていつの間にか現れていた人物と対面する。
「久しいなエルクリッド、愛も変わらずそそる身体をしている……」
肩を露出させ着物を羽織るだけの大胆な服装をした十二星召リリル・エリルの不意の出現にエルクリッド達は目を丸くしつつも、彼女が細めた目で品定めするようにエルクリッド、それからジェダやノヴァ達を捉えるとふぅんと声を漏らしながら腕を組む。
「以前より成長しているようだの……今のお主らならば妾も全力を出しても良いな」
リリルと直接相対し戦いを制したシェダは、彼女が自分に勝ちを譲ってくれたという点で少し心残りがあった。もっともその時は試練という形で試すのを優先したのだろうが。
彼女の言葉に応じるようにエルクリッドが一歩前へ出ていざ勝負を、となりかけたところでタラゼドがすっと間に入ってリリルと顔を合わせ、ニコリと微笑みながら戦いにはまだ早いですよと伝えた。
「我々はこれからあなたへ挑む資格を得なければなりません。その為の準備を……と話していたところなのです」
「ほう? なら我が城へ泊まれば良い、お主らと戯れる事を対価としてくれるならば……」
「それならお断りいたしますね」
笑顔でタラゼドがリリルに否を突きつけ、それには舌打ちで返しつつリリルは背を向け態度を示す。
悪人ではないが己の趣味嗜好を最優先とするリリルにはエルクリッド達もほんの少し苦手意識はあれど、彼女が自ら赴いてきた事にはただの挨拶ではない事を感じ取る。
「それで、何か御用ですか? 挨拶だけで出向くには、と思いますが」
「エルクリッドと戯れるつもりではあったがの……察しの通り少々仕事をせねばならぬ」
クスクス妖しく笑いながらもリリルはタラゼドへ答え、次の瞬間にいつの間にか持っていたカードを投げ渡しそれを確認させた。
投げられたのはカード、ではなく何かのキアズミ周辺の地図が描かれているものだ。その端の方で光点が点滅しつつゆっくり街へ近づいており、それが何かをすぐにタラゼドは見抜く。
「神獣、ですか?」
あぁ、とリリルが答えエルクリッド達は目を見開く。神獣が近くに来ている事は予想外の事、いや、いずれ何処かでとは思っていたがこんなに早いとは思ってはいなかった事だ。
とはいえ今のところエルクリッド達も神獣特有の巨大な存在感は感知できず、それは街にいる他のリスナー達も同じ。だが十二星召のリリルが出向くということは、そう遠くない場所に既に来ていると言える。
「そういえば……神獣に関して規約が追加されてたが、お主らは聞いておるか?」
「いえ、あたしらニアリット様のとこからまっすぐここに来たので」
「ならば話しておこう、街の方にも報せを出す所だったからの」
確認をとってからリリルが口にし始めるのは、神獣と星彩の儀についての新たな規約。元々神獣やそれに匹敵する精霊や魔物を退けた場合でも挑戦権を得られるというものであったが、彼女が話すのは神獣を得た場合に関するものだった。
「神獣を獲得した場合、その力を全て引き出せる状態に限り十二星召に勝利したものと同じとする、というものだ。つまり神獣を完全な形で得た者も我らに勝ったものと同じ、それだけの力を持つと認定するという事だの」
以前エルクリッドも神獣イリアを獲得こそしたが、使えたのはスペルとツールとしてのみ。全て引き出せる状態で得る事はその神獣に真に認められたも同じ。
十二星召の力が神獣と等価ならば、神獣が認める事が十二星召の勝利と等価なのは合点が行く。当然、存在そのものが天災たる神獣に挑む事は危険極まりない事である。
もっとも、それでも伝説のカードとして知られるその存在がいるのをリスナーが見逃す事はなく、挑み続けるのもまた事実なのだが。
「どの神獣が来ているかまではあえて言わぬ。妾は城とこの街を荒らされなければ良いからの……せいぜい気をつけていくが良い」
するりとエルクリッドの鎖骨から首筋を撫でるように触ってからリリルはその場から立ち去り、その妖艶なる振る舞いには苦笑いで返すしかなかった。
場の空気を変えるようにシェダが咳払いをし、とにかくだと大きめの声を出しつつ次の行動に触れる。
「撃退でも資格を得られるなら、挑まない手はないと思うぜ。どっちみち必要になるし、な」
シェダの旅の目的は神獣のカードをつかい、その力で故郷ダストにかけられた呪いを解き肥沃な土地へ戻すこと。いずれかの神獣でそれが成されるという所までは突き止めているし、また神獣イリアならばノヴァが求めるカードであるので無駄にはならない。
無論そう都合良く行くわけではないのも間違いはない。だがいずれにせよ神獣を撃退すること、挑む事は今後の為に繋がるのは間違いなく、エルクリッド達も頷き意見は一致する。
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