熱きリスナー達
互いにアセスを倒されその反射により消耗した状態となって戦況は五分へ戻る。
エルクリッドはローレライをカードへ戻しカード入れへ、それを見たシェダも次で決めるべく最も信頼するアセスを引き抜く。
「誇り高き魔槍の使い手よ、その疾き技で勝利を貫け! 頼むぜディオン!」
「赤き一条の光、灯火となりて明日を照らせ! 行くよヒレイ!」
シェダは魔槍オーディンを持つ亡国の英雄にして魔人ディオンを呼び出し、エルクリッドは灼熱の炎を引裂き姿を見せる偉大なる火竜ファイアードレイクのヒレイを呼び出す。
お互いに最も実力があり信頼を寄せるアセス同士というのもあり一段と気持ちが昂り、熱き闘志は熱風となり吹き荒れる。
顔合わせも早々に先手をかけるのはディオン。目にも止まらぬ速さでヒレイの懐へ入り魔槍で刺し貫きに行き、すかさず飛び立たれて避けられはするが尻尾の先を掴んでしがみつく。
咄嗟に尻尾を地面へ叩きつけてディオンを迎撃するヒレイだが、その為に高度が下がった事と既にディオンが離れ魔槍を短く持って構え直してるのとを確認し、エルクリッドもすかさずカードを切った。
「スペル発動プロテクション!」
「
螺旋描く黒雷の突きが地面を刳りながらヒレイへ迫り、巻き上げられる
(ちょっとでも判断を間違えたらやられる……!)
亡国の英雄にして魔槍の使い手、百戦錬磨たるディオンに隙や慢心はなく常に相手であるヒレイを捉え続ける。
シェダにとってディオンの経験と知識は大きな武器であり、経験不足の彼を支える大きな存在だ。それを倒す事は勝負において大きなものとなるし、逆にエルクリッドもヒレイという長く共にいる相棒を倒されれば勝ち目はないと理解しカードを抜く。
「ヒレイ、油断しないでよ」
「油断できる相手でないのはわかってる」
声をかけるエルクリッドへ口内に炎を燻ぶらせながらヒレイが答え、そのやり取りを見つつディオンは魔槍を構え沈着冷静でいる。
「シェダ、
流れ落ちる汗と血を気にせずにいるシェダに声を飛ばし、何も言わずに彼はディオンに従って展開している
だが魔力の消耗はヒレイの召喚と維持、能力行使に伴い差は縮まっていく。そこまでディオンは考えたところでエルクリッド側もそれをわかっていると判断し、どう決めにかかるか思考を進めていく。
(飛ばれる事は問題にはならないが、どうしたものか……)
(一気に決めるか、ディオン)
白銀の外骨格を赤き鱗の身体に形成するヒレイを貫く為には十分接近しなければならない。当然それをさせない為にヒレイは飛翔なりで距離を取るだろうし、それに伴い炎を吐きつけてもくるだろう。
シェダの考えを受けて目を閉じながらディオンは考え、そして目を開けると共に魔槍を持つ手に力を込めた。
「長引かせる理由はない、決めるぞ」
「おう! スペル発動ウォリアーハート!」
ディオンに応えたシェダがカードを切り、一気に高まる力を感じながら魔槍の使い手は地を蹴り間合いを詰めんと迫る。刹那の動きにヒレイは翼を閉じて爪を閃かせ、目の前に掌底を放ち姿を現すディオンに防御させ弾き飛ばす。
「来るとわかっていれば見切れない速さではない……!」
横に構えた魔槍で防ぎ止めたディオンは大きく後ろへ仰け反るが足に力を入れて踏み留まらんとし、追い打ちとばかりにヒレイが炎を吐きつけた瞬間に魔槍を突き出しながら炎へ突っ込んだ。
瞬間、アセス同士が激突する形で止まり再び距離を取り直し、素早く魔槍を掲げ切っ先に黒き雷を集束させたディオンが魔槍を構え直しまっすぐヒレイを捉え直す。
「ツール使用、駿馬の
羽根つきの
瞬間、ヒレイの姿が消えて魔槍が空を貫くに留まり、それがエルクリッドの発動したスペルによるものと認識した時にディオンはすぐに後ろへ意識を向けた。
「スペル発動、陽炎送り! 今だよヒレイ!」
炎を纏った右掌をディオンへ振り下ろし、同時にヒレイに向けて黒雷纏う魔槍が繰り出される。
勝敗が決まる刹那に戦いの場が静寂に包まれ、エルクリッドとシェダが固唾を飲む中でヒレイとディオンの状態を捉えた。
ヒレイの爪とディオンの魔槍は双方の喉元間近で止まっており、次の瞬間にゆっくりと攻撃を引いて互いにフッと笑う。
「ディオン、何故攻撃を止めた。いや……貴殿の性格を考えれば当然か」
「相討ちではシェダの勝利にはならない上に我々の旅路においても不利にしかならない。察して手を止めてくれた事には礼を言う」
臨戦態勢を解き言葉を交わす両者の意思を感じ、エルクリッドとシェダは共にアセスをカードへ戻す。
ヒレイとディオンが相討ちとなった場合、両者のリスナーへその反射が襲いかかる事となるが、アセスが残っている分エルクリッドが勝利という形となる。
また超過分の威力を他のアセスへ与えてブレイクに持ち込めるオーバーブレイクのカードをシェダは抜いていたが、それを使ったところで結果は引き分けにしかならず勝利とはならない。
となれば旅の事を考えた際に両者が完全に戦闘不能となるのは避けるべき、とディオンが先を見越して攻撃を止めた事も、それを察しヒレイも攻めなかった事もエルクリッドとシェダは理解でき、互いにカード入れにカードを入れてから深くため息をついてうなだれた。
「マジか引き分けかよ……半年で追い抜いたつもりだったが、そう上手くはいかねぇな」
「あたしだって勝つつもりでいたけどさ……ここまで追い込まれてたんじゃまだまだ強くならないとって思ったよ。流石だね、シェダ」
「追い越さねぇと意味ねーけどな。ま、今は互角って事でいいさ」
互いに実力を認め合いながら背筋を伸ばし、その姿にノヴァが目を光らせながら拍手を送る。
熱きリスナー達の戦いに同じリスナーとしてリオも胸が熱くなり、かつての仲間を思い起こさせる戦いぶりにタラゼドも懐かしさと、受け継がれていく意志を感じながら静かに微笑んだ。
NEXT……
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