第15話 魔王を倒した勇者王子

「ハアアッ!!」

「グハ――――ッ!!」



 禍々しい大地に聳え立つ魔王が住まう城の最上階で激闘の果て、僕はこの世界に混沌を齎した魔王の首を勇者しか持つことが許されない聖剣で飛ばした。



「……倒した、のか?」

「えぇ、恐らく?」

「…………」



 タンク役の騎士ディルクと後衛役の魔法師ルーランが揃って首を傾げ、支援役の聖女アリアが呆然とする。


 そんな彼らに、聖剣に付着した魔王の穢れた血を払った僕は、後ろを振り返ると小さく頷く。



「あぁ、僕たちの手で遂に魔王を倒した」

「「っ!!」」

「よ、よっしゃ――!!」



 ルーランとアリアが息を呑んだ時、激戦を繰り広げた大広間にディルクの喜びの雄叫びが響き渡る。


 そう、僕たちは遂に倒したのだ。


 この世界を支配しようと魔界から降臨してきた人類の敵を。


 終わった、これでようやく……



「アルベルト!」



 ディルクとルーランが喜びの抱擁をしていると、魔王が死に際に放った瘴気の浄化を終えたアリアが、聖剣を鞘に収めた僕に抱き着く。



「アリア」



 母親譲りのストロベリーブロンドの髪を揺らし、蜂蜜色の瞳に涙を溜めて僕を見上げる彼女は、僕の婚約者であるティナの義妹で当代の聖女である。



「これでようやく世界が平和になるわね!」

「あぁ、そうだな」



 優しく微笑んでアリアの頭を撫でると、アリアが擽ったそうに目を細めると甘えるように真っ赤になった頬を寄せる。



「アリア、今日まで聖女としての役目、よく頑張ったな」



 平民だった彼女がある日突然、神から聖女としての力を授かったことで、魔王という恐ろしい敵と戦う運命を背負わされた。


 それがどれだけ大変なことか、力を授かった時は分からなかっただろう。


 そして、僕たちと一緒に魔王討伐の旅に出てその大変さを知り、魔王のみならず、数多の強敵を前にして、本当は恐怖で足が竦み、今すぐ逃げたいと思った時は数えきれないほどあっただろう。


 それでも、彼女はこの世界の平和のために、神から与えられた聖女の力を使い、僕たちと一緒に戦ってくれた。


 それがどれだけ心強かったことか。



「ううん、アルベルトが勇者として頑張ったお陰よ!」

「そうか」



 満面の笑みを浮かべる彼女に甘く微笑むと、魔法師と喜びの包容をしていた騎士が揶揄ってきた。



「おぉ!! 相変わらずお熱いことですなぁ」

「よせよ、ディルク。アリアが困ってしまうではないか」

「そうですよ、ディルク。アルベルト様には婚約者がいるのですから」

「ハハッ、そうだったな!」



 そうだ、僕には婚約者がいる。


 僕がずっと恋焦がれている婚約者が。


 笑みを浮かべながらもディルクを咎めていると、ディルクが何かを思い出し、感慨深そうに僕たちを見つめた。



「けど、僕はアルベルト様とアリアはお似合いだと思いますけどね」

「ディルク!」

「だって、勇者と聖女で美男美女だぞ。どう考えてもお似合いじゃねぇか。行く先々で立ち寄った街の人達も2人を見て『お似合いだ』って言っているし、それにほら、アルベルト様の婚約者ってその……あまり良い噂を聞かないから」

「あぁ、そうだね」



 そう言えば、魔王討伐が始まって……いや、アリアが聖女認定され、エーデルワイス公爵家に養子に入った時からそんな噂が立ち始めていたな。


 全くの事実無根だというのに。


 すると、僕に抱き着いていたアリアが僕の耳元で囁いた。



「私は別に構わないんだけど。私も、アルベルトのことずっと前から大好きだったし」

「…………」



 危ない、男を誘惑するような計算された声で囁かれ、ついこの場でこの女を消そうとした。


 いつの間にか僕のことを呼び捨てにしているこの女には、まだ聖女としての役目があると分かっていたはずなのに。


 可愛い笑みを浮かべながらも、空色の瞳に淫靡な熱を灯らせるアリアに僕は心底不快でしかなかった。



「おっ! そう言っている隙に2人で何か話していますね? もしかして、結婚ですか?」

「ディルク!」

「アハハハッ、すみません。つい、浮かれてしまいました」

「いや、構わないよ」



 本当は、不快で不快で仕方ないのだけど。


 一応僕、まだ勇者だからここで物騒なことを起こすわけにはいかない。


 愛しいティナと再会するまでは、まだ。

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