エピローグ

エピローグ どうして、私が如月脩という男の子が好きか



 ――どうして、私が如月脩という男の子を好きになったか。



 そんなことを聞かれても、そんなの私自身にだってわからない。

 気がつけばいつのまにか好きになっていて、今では誰よりも大好きな人だ。

 大体、誰かが誰かを好きになるのに、明確な理由がある人なんてほとんどいないんじゃないだろうか?


 でも、ひとつだけ確かに言えること。

 それは幼稚園の時、脩だけが、私を男とか女とかいうくくりに入れずに、優しくしてくれたから。


 女の子たちからは男の子の格好をしているからと仲間に入れてもらえず。

 本当は女だと説明しても『女の子なのに変』と言われて結局は同じ。


 男の子たちは、一瞬は仲間に入れてくれたけれど、男の子の遊びについていけない私をそのうち面倒がるようになった。


 脩だけだ。


 男とか女とか関係なく、『お前ひとりか? しかたねえな』と言って、私とずっと一緒にいてくれたのは。


 その時からずっと、私は脩の背中を追い続けてる。




 ◇ ◆ ◇




「……俺は今日、体育で少し、いやだいぶ疲れてる。そしてお前は男にしては可愛すぎる。……これ以上スキンシップを取り続けたら、俺はおかしくなる気がする」


 この学校に入ってから3ヶ月が経ち。

 相変わらず、私のことを男の子だと思い続けている脩に『今日の体育がしんどかったからマッサージし合いっこしよう』と提案した時。

 二人でマッサージをしあった結果、脩がそんなことを言い出したので、私は言ったのだ。


「……いいよ? ……おかしくなっても」


 ――と。

 脩になら、全部あげるのに。

 私の――何もかもを。


 そう思いながら『ちょっと違うな』と思う。

 脩になら、じゃなくて。

 脩にだから、全部もらってほしいのだ。

 私の何もかもを。


 いっそ、ここで既成事実を作ってしまってもいいのかもしれない。

 ちらりと、そんな乱暴な考えが頭をよぎる。


(脩に。私の奥の奥の、深いところまで。全部、触って欲しい)


 それは、きっと嬉しくて、幸せで、気持ちがいいことだと思う。

 脩は優しいから、強く押せば文句をいいながらも聞いてくれそうな気もする。


 そんなことを思いながら私がどこかこいねがう気持ちで脩の手を私の身体に触れるように導くと、その手が触れる直前でぐっと抵抗力を増した。


「……ダメだろ。やっぱり」


 決意のこもった、私の大好きな声でそう告げる。


「……なんで? 気持ちよくなれるかもしれないよ?」

「気持ちがいいとか、そういうことじゃないだろ。今大事なのは」


 流されそうになるのをぐっと堪えながら理性を保とうとする脩の表情に『ああ、私やっぱり脩が大好きだなあ』と胸がときめく。


 頭が良くて、理性的で、人に優しくて思いやりがある。

 大好きな脩。


「お前だぞ? 来年も進級して俺と一緒のクラスになりたいって言ったのは。だったら……、こういう、軽率なことは避けるべきだ」

「ケイソツなこと」

「ああ」

「ケイソツなこと、って何?」

「………………」


 私が素直に尋ねると、脩が少しだけ顔を赤らめ、困ったように表情を歪める。

 ――あ、この顔、可愛い。


「だから……、例えば。お前と俺が、部屋でいかがわしいことをしてるんじゃないかって思われるようなこととか。お前が、女なんじゃないかって疑われるようなこととか……」

「イカガワシイこと」

「…………お前、わかってて俺に言わせてるんじゃないよな…………?」


 あ、この顔も可愛い。

 脩に対する『大好き』が溢れすぎて、今この瞬間も抱きついて顔中にキスをしたいくらいだけれど、きっとそれは脩の言う『ケイソツ』で『イカガワシイこと』なので、今のところは我慢をする。

 今のところは。


「イカガワシイこと、はわかるよ。要するにえっちなことでしょ」

「えっ……」

「えっちなことなんて、こんなところでするわけないじゃん。男の子同士なのに」


 嘘だけど。

 あわよくば、脩が押してくるならいいと思ってたけど。

 未経験だけど。


「ねえ、交代しよ? 僕、もう脩にたくさん気持ち良くしてもらったから。今度は僕が脩を気持ち良くしてあげるよ」


 そう言いながら脩の背後に周り、ぴったりと背中にくっつきながらゆっくりと肩のツボを押す。


「ねえ……、どこを重点的に気持ち良くしてほしい?」


 脩が触れて欲しいところ、どこでも触ってあげるよ……?

 耳元でわざと囁くようにしながら、肩から肩甲骨を伝って太ももまで触れていくと。


「……俺、もう寝る」


 と言って、ぐいっと交わされてしまった。


「あっ、脩〜」

「うるさい。俺はもう今日限界まで疲れてるから寝る。おやすみ」

「脩……」


 そう言って、自分のベッドに入り込もうとする脩にさりげなく一緒の布団に入り込もうとすると、


「お前は自分のベッドで寝ろ!!」


 と怒られてしまった。

 あ〜〜、どうしよう。

 可愛すぎて爆発しそう。

 

 本当は、脩がうっかり手を出してくれてもいいと覚悟を決めてルームメイトになったけど。


(来年も、脩と同じクラスになりたいのも本当だし。できればこの学校生活をもう少し続けたいから)


 脩の言う通り、今のところは、大人しく言うことを聞いて自分のベッドに潜り込む。


「……おやすみ、脩」

「……おう」


(……大好きだよ)


 と言うのは、聞こえないくらいの小さな声で。


 大好きな男の子と一緒にいたい。

 ただそれだけのために。

 私は、男の子のふりをして男子全寮制高校に押しかけてきて、ルームメイトとして居座っている。








【第一部 完】

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俺のことを好きな幼馴染(美少女)が男のふりして男子全寮制高校に押しかけてくる。そしてルームメイトとして居座る 遠都衣(とお とい) @v_6

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