第38話 ナンパされているルームメイトを助けました。いや、もうそれ女子だろ
『いいよ……、脩……』
どこでも……、僕の好きなところ触って……?
そう言って、パジャマの前ボタンを大胆に開き、瞳を潤ませながら俺を見つめてくる瑠偉。
そんな瑠偉は、なぜかさらしも巻かず、開かれたパジャマの間から滑らかな素肌の胸の谷間を見せている。
『……あっ、や……』
俺の手を自らの柔らかな場所に導いた瑠偉は、俺の手の上から揉みしだくようにぐいぐいと押し付けてくる。
手のひらから伝わる気持ちの良い感触――。
『ねえ……、脩。それだけでいいの……?』
もっと……、僕の奥の奥まで。
触ってくれないの――?
◇
な〜んてお礼は、まあどう考えてもあり得ませんよね……。
電車の窓の外を流れていく景色を眺めながら、今朝見てしまったふしだらな夢を思い出し、何度目かわからない猛省をする。
――実際にあれから、瑠偉から告げられたのは『今度の土曜日、一緒にプラネタリウムを観に行こう』というお誘いだった。
『その日は、僕が脩をおもてなしするから』と。
そう言われて場所と時間を告げられた俺は、こうして今、瑠偉との待ち合わせ場所に向かっているわけである。
(俺……、そんなに欲求不満なのかなあ……?)
見ようと思って見たわけではない夢に罪悪感を覚えながら、そんなことを考える。
でも、無理もないのではないだろうか?
同じ部屋で、あんなに可愛い女の子が、あんなに可愛い姿を見せているのを間近で見ながら見ないふりをしているのだ。
無意識のうちに欲求だって溜まったって仕方がないのではないかと思う。
俺が、幼馴染を守ると決めたのに。
この体たらく。
今日こそは意識を引き締めて、しっかりしなければ、と思いながら『……それにしても』とこれから待ち合わせしている瑠偉のことを考えた。
(なんでわざわざ、同じ部屋に住んでるのに別々で出て待ち合わせするんだろう?)
これも瑠偉のお礼の一環なのか、はたまた演出なのか。
それとも特に意味はないのか。
(まあ、行けばわかるだろ)
そう思いながら俺は、電車に揺られて待ち合わせ場所の駅まで向かったのであった。
「ねえねえ、おねーさん可愛いね。一人?」
「暇なら俺らとお茶しよーよ」
瑠偉に指定された待ち合わせ場所に着くと、世にもわかりやすいナンパが二人がかりでなにやら女子一人に絡んでいるのが目に入った。
(いやあ、いるんだなあ。ああいうステレオタイプなナンパが)
そんなことを思いながら、あのナンパされてる女の子は大丈夫なんだろうかとさりげなく視線を走らせると、ちらりと女子の姿が見えた瞬間、なんだか嫌な予感がした。
(……まさか、なあ……)
「あの、人と待ち合わせしてるんで……」
――嫌な予感が的中しました。
いや、もう声でわかっちゃうとかさ。
俺も大概ですよね。
そう思いながら俺は、二人がかりでナンパされている女子の元まで歩いていくと、意を決してその輪の中に入っていった。
「すいません。その子、俺のツレなんですけど何かありましたか?」
「しゅう……!」
はい。
そうです。
まあ皆まで言わなくてももうわかるよね。
駅前で、二人組の男にナンパされていたその女子は、まさに俺が待ち合わせをしていたルームメイトの瑠偉でした。
「ちっ、なんだよ男連れかよ……」
「はいはいサーセンお邪魔しました〜」
ステレオタイプのナンパ男たちが、テンプレみたいな捨て台詞を吐いて去っていく……。
そんなことを思いながら奴らを見送ると、俺は改まって瑠偉に向き合った。
「脩、あの、助けてくれてありがと……」
「いや、俺の方こそ待たせてごめんな」
そう言い合い、無事待ち合わせを果たした俺と瑠偉だったのだが。
……………………。
いやあああ……、もうこれ女子だろ?
あの時、俺と谷に『どの格好が好き?』と聞いてきた時に俺が答えたのとほぼ同じ服装。
違う点といえば、スカートの代わりにキュロットスカートを履いているところだ。
「……変? この格好……」
俺が思わずジロジロと格好を見てしまったことに不安を覚えたのか、瑠偉が『似合ってない……?』と不安げに尋ねてくる。
「いや……」
似合ってるわ。
似合いすぎるほどに似合ってるし、可愛すぎるほどに可愛い。
そりゃあこんな格好で立ってたらナンパされるわってくらい可愛い。
でもな……。
「お前な、男なんじゃなかったのかよ」
と、ツッコミを入れたくなる気持ち、わかってもらえないだろうか?
なんで女子の格好しとんねん。
え……、でもこれ、ギリ男子の服装って言われたらそう見えなくもないのかなあ……?
「……だって、こういう格好が好きって、脩が言うから……」
……………………。
どう思います? 皆さん。
男のふりをしている超可愛い美少女から『こういう格好が好きだって言ってたから、そんな感じの服を着てきました』って言われたら。
可愛いかって思いませんか!?
思うよ!
俺は思った!
「……お前、俺がこういうのが好きだって言ったから、男なのにわざわざそんな格好してきたのか?」
「…………うん」
俺の問いかけに、瑠偉がこくりと頷く。
………………いや………………。
もう可愛いでしょこれ…………?
でもって、そこまではっきり『俺のためにしてきた』って言う子に、文句言える……?
俺は言えない。
うう、可愛い……。
正直、俺の目の前でこの上なくドストライクな女子の格好をしている瑠偉に、ときめきしかなかった。
……よし。
言うぞ。
俺は言う。
せっかく瑠偉がここまで気合い入れて身体張ってきたんだから。
ここで言わなきゃ男じゃない、と思う。俺は。
めちゃくちゃ恥ずいけど、気合いを入れて俺は口を開いた。
「…………、まあ、俺はその格好、きゃわいいと思うけど…………」
……………………噛んだ。
大事なところで噛んだ…………(涙)。
「ほんと……! 可愛い……?」
しかし、瑠偉はそんな俺のダサい噛み具合など気にならなかったらしく、俺の言葉に素直に嬉しそうにキラキラと表情を輝かせた。
うっ、可愛い。
「よかった……! 引かれたらどうしようって本当はドキドキしてたんだ。でも、脩に可愛いって思ってもらえてよかった」
そう言って心底ほっとしたように胸に手を当てる瑠偉は、そんじょそこらの女子では太刀打ちできないほどに美少女だ。
俺も、今日ここで瑠偉と待ち合わせをすると知っていたからわかったが、何にも知らずに今の瑠偉の姿を見ても瑠偉だと気付かなかったかもしれない。
それくらい――、今日の瑠偉はいつもより女の子で。
俺の目の前で一生懸命おしゃれして笑う瑠偉に、俺は胸のときめきを抑えるのに必死にならざるを得ないのだった。
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