第6章 初夏、素肌、汗――そして、密室シャワー

第23話 初夏です。制服が薄着になるの……、いいよな……



 中間試験も終わり。

 瑠偉の総合順位114位という成績についても、とりあえずは俺が勉強を手伝うということで決着がつき。


 勉強中もなんだか、妙に距離の近い瑠偉に俺が胸のときめきを押し隠しながら日々過ごす中。


 ――季節は6月を迎えようとしていた。




 ◇ ◆ ◇




「あっつ……」

「……おい瑠偉。お前、襟元あんま開けすぎんなよ」


 瑠偉が暑いと言いながら制服のシャツの襟元をパタパタ仰ぐのを、オカンのごとくたしなめる俺。


 お分かりいただけるだろうか。

 冬から夏の制服に変わると、それまで上に羽織っていたジャケットがなくなり、基本みんな上は半袖の白シャツになる。

 そんな中、俺はなかば強引に瑠偉にスクールベストを着るように強要した。


 胸が!!!!!

 透けないか心配!!!!!

 だからです!!!!!


 だってそうだろう。

 あんなぺらっぺらな薄い布切れ一枚で、俺の大事な瑠偉の、大事なところをちゃんと包み隠してくれるか心配で仕方がない。

 一応下にTシャツを重ねて着ることは許されているけれど、Tシャツだって濡れたら透けないとも限らないし。

 だったらせめて、スクールベストを一枚重ねてくれたほうがまだ安心できる。

 白シャツ一枚の瑠偉も可愛いんだけどね……。

 なんか爽やかでさ……。

 でも。


『お前が白シャツ一枚でいると可愛いすぎるから、それはせめて俺の前でだけにして欲しい。みんなの前ではスクールベスト着てくれ』


 と頼んだら、存外素直に言うことを聞いてくれた。

 まあでも、こうやってすぐ暑がって胸元を開けようとするから、その度に注意するんだけどな。


 妄想の中では『ねえ脩……。もう暑くて我慢できないよ。脱いでいい……?』と可愛く甘えてくる瑠偉を、『…………。仕方ないな……』と言いながら何度か脱がせたりもしたけど、それは俺だけの秘密だ。キリッ。




 それにしても――、ああ。


 高校生活というのは、どうしてこんなに目まぐるしいのだろうか。

 入学したと思ったら、あっという間に中間考査、そしてスポーツ大会の時期がやってくる。


 この有明高校にはいわゆる体育祭というものはなく、体育館と校庭を使った各クラス対抗のスポーツ大会というものが初夏に開催される。


 進学校故に、秋口に体育系のイベントをいれて万が一怪我なんかしたりして受験に影響させたくないというのも理由の一つだろう。

 その代わりに文化祭は秋に開催されるわけなのだが。


 ――そんなわけで明日は、有明高校全校スポーツ大会が開催されるわけなのである。



 ◇ ◆ ◇



「なんだ? あのちっちぇえの。すげえな……!」

「アメリカ帰りの帰国子女らしいぜ」

「は〜……。うわ、えっぐ。あんな動きよくできるなあ……」


 ……あいつ、目立ってんなぁ〜〜……。


 バスケの試合に出ている瑠偉を観戦しに来ると、周りのギャラリーが皆、瑠偉に注目していた。

 まあ、そりゃそうだよな。

 あんなにちっちゃいのに機敏に動くし、ドリブルとかパスカットとか結構えげつない。


 最初、スポーツ大会で誰がどの種目に出るかクラスで話し合いをした時、瑠偉がバスケに手を上げたのをクラス全員が『マジかよ……』『こんなにちっちゃいのに大丈夫か……?』みたいな空気が流れたが、結果このとおりである。


「え……? あれ女子じゃないの?」

「めっちゃ可愛くないか? あれ」

「1年の、真瀬……?」


 あ〜〜、やめてやめてやめて〜〜。

 目立っちゃう。俺の瑠偉がみんなに認知されちゃう。

 ……別に、俺のではないんだけど。


 でも正体が女であることを隠している以上、目立たない方が本当はいいのだ。

 そういう意味で、あまり目立たず認知されないことを切に願う俺だったのだが――。


(まーでも、あんだけキラキラしてちゃあそりゃあ目を引きますよね……)


 普段は割と俺の影に隠れて大人しくしている瑠偉だが、今日は違った。

 バスケットのコートの中で生き生きと運動している姿は、ただでさえ整った顔と佇まいを一層引き立たせている。


「……脩!」


 試合が終わって、俺を見つけて駆けてくる瑠偉が、それまでの試合中の張り詰めた雰囲気から普段の可愛い瑠偉に戻る。


「おつかれ、瑠偉」

「ねえ、見てた!? どうだった!?」

「おう。見てたし凄かったしカッコよかったぞ」

「…………! えへっ…………」


 ……おい。ここで照れるなよ。

 いや、別に照れてもいいんだけど!


 ただ、瑠偉の照れた顔を目の当たりにした周囲が再び『おい、見たか……?』『何あれ、めっちゃ可愛くないか……!? マジで男子!?』とざわめき出したのを、俺は心中穏やかではない気持ちで耳にしていた。


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