13
「ははは……まあとにかく、気を付けて帰ってきてね」
『おう、それじゃあ』
そんな声を聴いて受話器を下ろしてから、小さく息を吐いた。
兄との通話を終えて、少し安堵出来た。
今日の件、振りかかった火の粉を払っただけで、元々の問題が何か解決に向かって進んだ訳ではない。
だけどずっと曇っていた大好きな兄の表情や声音が少し晴れたのだと思えば、きっと起きたであろう戦いには大きな意義があった。
そして兄も必死になって頑張ったのだ。
次は自分の番。
「あ、電話切っちゃったの? まだもうちょっと話したい事が……」
「あ、ほんとだ……なんかそれっぽく終わっちゃった」
「まあ兄ちゃん忙しくしてるだろうし……仕方ないか」
「一応帰れる目途が立ったら帰ってくるみたいだし、その時にまたゆっくり話そうよ。ボク達には今しかないわけじゃない」
「……うん、そうだね」
「その為にも続き、始めようか。バタバタしてて止まってたし」
「コーヒー淹れて来るね。ブラックでいい?」
「お砂糖ドバドバで」
「はーい」
少しだけ声に覇気が戻ってきたリタがキッチンに消えていくのを見送りながら、ソファに腰を沈め、自作の資料を手に取る。
自分だけが助かる手立てはとっくの昔に出来ていて、そしてリタだけを救う為の手立ても、全く何も見えない闇の中に居る訳ではないのだ。
……できればどちらもが大前提。だけどそれが現実的ではないのなら、せめてそれだけでも。
もし自分に限界が来た時に二人で共倒れにならないように。
その時にリタが妙な事を考えて実行してしまわないように。
せめて大好きなリタだけでも生き残らせるために。
今はもう少し。もっと。とにかく。やれるだけの無理をする。
リタの為に。
自分やリタの為に頑張ってくれる人達の為に。
自分の為に。
より良い未来を選べるように。
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