蒼の血(アビスのち)

凪さ

第一章 訓練生編

第1話 真実の顔

目の前に銃があった。もちろん使えば犯罪。持っても犯罪。頭は分かっていた。誰かの足音と共に「出て来い、殺してやる」という怒鳴り声が続々と近づいてきているのが分かった。もう目の前にいる。しかしまだ見つかってはいない。逃げ道はあるものの見つかれば確実に死んでしまう。どうする、どう逃げ切る。頭ではわかっているのに体は勝手に動き目の前の銃をとってしまった。走りだす。あいつに気づかれてしまった。「死にたくなかったら止まれ!」。もう声など聞こえていなかった。必死に逃げるが何かに躓く。もう目の前にいた。銃口を向け力強く引こうとしたがその瞬間意識がとんだ。


目を覚ました。「ここ、どこだ」。周りを見渡すとどうやら木造建築の建物の中にいた。目の前には知らない奴がいた。見た感じ、死んでいる。そんなまさかと思い自分の手を見ると銃を握っていた。その瞬間悟った。自分で殺したんだと。反射で銃を投げた。壁に当たり銃の弾倉が見えた。壊れていたのだろう。はっとした。弾倉を見ると銃弾が一つ入っていなかった。やっぱりこいつを殺してしまったのは自分なんだと思った。この銃とこいつをすぐに隠さないと。そう思ったが体が全く動かない。ただただこの感情に向き合うしかなかった。するとだれかの足音が聞こえてきた。やばい。このまま動かなかったら殺したことがばれてしまう。どうにか動かそうとすると動いた。走れる。この遺体を隠さなければ。徐々に足音が近づいてくる。その方向を見ると知らない人が立っていた。青年だった。見られてしまった。あの人を殺そうと思い銃を拾おうとした。その瞬間、青年に銃を先にとられ体を壁に押さえつけられた。身動きが出来なかった。


青年「やっと起きたかと思えば殺されそうになるとはな。」


この青年、強すぎる。離そうとしてもびくともしない。青年にくびをたたかれた。その瞬間首に衝撃が走った。抵抗をやむなくされ意識を失った。


目を覚ました。今日だけで二度も意識を失うとは。ただ壁に抑えられているのではなく、建物の柱に括り付けられていた。周りにあの青年はいない。紐をちぎって逃げようと思い「おっりゃーーー!」と踏ん張ったがちぎれなかった。


青年「やっと起きたか。この感じだと今度は殺されずに済みそうだな。」


踏ん張り声が聞こえ、近づいてきた。


自分「誰だあんた。さっきは壁に押し付けて今度は柱かよ」


青年「僕の名前は侑ゆう。しょうがないでしょ、放してたらさっきみたいに殺そうとしてくるかもしれないんだからさ。殺される理由、まったくないんだけど。」


自分「殺そうと思うだろ、殺人現場見られたんだからよ。あんたがもっと来るのが遅かったら最後の力ふり絞って遺体隠そうとしたけどあんたに見られたから銃使ってあんたを殺すしかないと思ってよ。」


侑「あー、なるほどね。君、人殺しちゃったんだと思ったのね」


自分「あの現場見たらわかんだろ。」


侑「あの現場、もう一度よく見てみたら?」


侑はそう言いながら柱に括り付けていた紐を外した。


自分「外していいのか?またあんたを殺そうとするかもしれねぇけど」


侑「大丈夫。何をしたって君には倒せないよ。とにかく見てみたら?」


自分「何度見たって同じだろ」


侑「いいから!!」


現場をよく見たが特に変わったところもない。


自分「別に何も変わってねえじゃねえか。」


侑「顔だよ顔」


顔をよく見てみる。血の気が引いた。人間のようで人間じゃなくも見える。


自分「病気でも…持ってたのか…?」


侑「まあそりゃそう思うのも無理ないか。そいつ人間じゃないよ」


自分「何いってるんだ。お前こそよく見ろよ。人間じゃないっていうんならなんだっていうんだよ。」


侑「十禍神じゅっかしん。その最下部に位置するアビスさ」


自分「十禍神?蒼?何言ってんだ?一つ聞きたいんだけどよ、要するに俺は人を殺してないってことか?」


侑「そうなるね。」


自分「なんだ!。てことは俺は殺人を犯してねえってことだよな。なら人生終わったわけじゃないしもうどうでもいいや。帰って寝よ。じゃあな。」


侑「どこに帰るつもり?」


自分「そんなもん家以外あるかよ」


侑「君しかいない家に?」


自分「悪いな、俺には家族、兄弟がいるんだよ、帰っても一人じゃねえよ。」


侑「七歳くらいの子と十二歳くらいの子と十五歳くらいの子、あと父親と母親のこと?」


自分「なんでそこまで知ってるんだよ、まあそういうことだ。」


侑「覚えてないの?その人たちならもう死んでるじゃん」


自分「覚えてない?。死んでる?さっきからあんたなにいってんだ。俺を引き留めたいのか知らねえけどよ、さっきから十禍神やら蒼やら変なこと言ってよ、嘘つくならもう少しましな嘘つけよ、どうせさっきの奴も人形だろ?」


なぜかわかった。自分の後ろに何かがいる。でも間に合わない…


侑「頭を下げろ。」


侑(もう来たのか)


その声を聴きすかさず頭を下げた。


すると後ろにさっきと同じような見た目をした物体が倒れていた。信じられなかった。明らかにさっきこの物体が俺の背後を動いていた。


自分「なんなんだよ、俺が狙われたのか・・・?」


侑「ああ。」


自分「なああんたなんで俺が狙われたんだ?」


侑「さっき言った話覚えてる?」


自分「十禍神とか蒼とか言ったやつか?」


侑「そう。十禍神はさっきや今みた化け物、蒼の総称。十禍神のトップ、蒼のトップが同じだがそのトップは祖と言われている。十禍神の源だ。そいつは下に仕えている全蒼の視界をすべて見ることができる。君の家族を蒼は殺そうとしたが君には逃げられ最終的にはやられた。その状況を見ていた祖が他の蒼を使って君を殺そうとした。こういうことかな」


自分「かなって。あってるかわからないみたいな言い方するじゃねえか」


侑「しょうがないよ、一般人で助かったのは君が初めてじゃない、他の護界院がたくさんの人を助けてる。けどその中で一般人を狙ってくる事象を聞いたことがない。」


自分「初めてってことか?」


侑「そうだね。だからわからない。君が特別なのか、あの蒼が特別なのか。とにかくいったん君の家行ってみる?」


自分「ああ。死んでねえことを祈るしかねえ。」

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