第7話

僕たちは村を出た。


 これまでも、何度か試みたことはあった。だけど、いつもどこかで失敗し、僕は殺され、また朝に戻ってしまう。


 でも今回は違う気がする



 



 僕たちは歩き続けた。


 朝焼けに染まる森を抜け、昨日聞いた街への道を進む。


 彼女は僕の隣を歩きながら、時折、こちらを見上げた。


 「……なんだ?」


 そう聞くと、彼女は少し困ったように微笑んだ。


 「ううん。ただ、こうしてあなたと一緒に歩くのが……なんだか、不思議で。」


 「不思議?」


 「いつも、あなたは私を守ろうとしていたでしょう? でも今は、一緒にいる感じがする。」


 僕は何も言えなかった。


 彼女は知らない。


 これまで僕が何度も死んできたことを。


 何度も彼女を守ろうとして、そのたびにすべてを失ってきたことを。


 でも――


 それでも今、彼女は僕の隣にいる。


 それだけで、少しだけ救われる気がした。


 これが、最後のループになる。


 僕が、最後にする。


 そう決めていた。


 街が見えてきたころ、僕たちはふと足を止めた。


 「……ねぇ。」


 彼女が、ぽつりとつぶやく。


 「もし、また何かが起きたら……今度は、私も戦うよ。」


 驚いて、彼女を見た。


 彼女は、まっすぐな目で僕を見ていた。


 「あなたが全部を背負わなくていい。私も、一緒にいるから。」


 胸の奥が、じんと熱くなる。


 ああ、そうだ。


 僕は、ずっと間違えていたのかもしれない。


 彼女を守ることばかり考えていた。


 でも、本当に大事なのは――


 彼女と、生きること。


 「……ありがとう。」


 小さくそう言うと、彼女はふっと微笑んだ。


 そして、僕たちは街へと歩き出した。


 運命を終わらせるために。


 生きる未来を掴むために。


 ――僕たちの、最後の旅が始まる。



 僕たちは街へたどり着いた。


 初めて見る光景のはずなのに、どこか懐かしさを感じる。


 それもそのはずだ。


 僕は何度もこの場所に来ようとし、そして失敗してきたのだから。


 でも今回は違う。


 彼女は隣にいる。



 ――“鍵”は、僕自身だったんだ


 ループが失敗し続けた理由が分かった


 それは、僕が「彼女を救うこと」たげを思い続けたこと。

 

 僕が今に囚われ、未来を考えようとしなかったこと。


 その執着こそが、ループを繰り返させていたのだ。


 「……これで、もう終わる。」


 彼女が僕を見上げる。


 「終わる、って?」


 僕は静かに息を吐いた。


 「もう、繰り返さない。俺は、今だけじゃなく未来を見る。」


 「……それって。」


 彼女の手が、そっと僕の袖を掴む。


 「私は……またあなたがいなくなってしまうんじゃないかって、それが……」


 「大丈夫。」


 今まで、彼女に嘘をついたことはあったかもしれない。


 でも、この言葉だけは絶対に嘘にしない。


 僕は彼女の手を取り、しっかりと握りしめた。


 「一緒に行こう。」


 「……うん。」


 彼女は少しだけ泣きそうな顔をしたあと、ふっと微笑んだ。


 その瞬間――


 世界が、動き出した。


 これまで、何度も見たはずの街の風景が、まるで初めて訪れた場所のように鮮やかに映る。


 朝が、確かに続いていく。


 未来が、今ここから始まる。


 もう、繰り返すことはない。


 僕たちは、この先の時間を生きていく。


 どんな困難があろうと、もう振り返らない。


 もう、彼女を守るために戦うだけの人生ではない。


 彼女とともに、未来を生きる人生が、今ここから始まるのだから。


 僕は彼女の手を強く握りしめ、一歩を踏み出した。


 それが、僕たちの本当の旅の始まりだった。


 ――終わり。そして、始まり。

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