第2話

夜明け前の森は、ひどく静かだった。風が枝葉を揺らす音だけが、無機質に響く。僕は村の外れを抜け、彼女が横たわる場所へと足を進めた。


向かう途中、彼女のことを思う、その中で昨日の言葉を思い出す。


 彼女は僕に「君だけでも、生きて」と言った、じゃあ死ぬのは罰を受けて楽になりたい自分の為の行動でしかないのか?彼女の願い通り生きるべきではないか?心が揺らぐ


そうこうしているうちに目的地に着いた


いるはずの彼女がいない。まして、血の跡さえ無い


場所を間違えたのか?

何で間違えるんだよこんな大事なことを、本当に自分が嫌になる。


自己嫌悪に陥る中で他の場所も回ったが、それらしい痕跡が一つもない。


---何かがおかしい


その後も探し続けたが見つけられない 


村の奴らが何かしたのか?


これ以上闇雲に探しても仕方ないし、村の奴らから話を聞くしかないな


村へ戻ろう




気持ちを抑えて村の奴らから話を聞こうとしたけど、エリシアって聞こえた瞬間からこっちの話を聞かなくなるから、会話すら出来なかった。


「アイツみたいなのは、どこにいたって嫌われるさ」


「どうせ死んでしまえばいいんだ、あんなの」


「アイツが死ぬなら、村もきっと少しは良くなるだろうな」


「呪われたような目をしやがって」


違和感がある。直感だけど、この違和感はエリシアの死体と関係している気がする。まずは、これを確かめよう。情けないが、これくらいしか今やれる事がないからな


落ち着いて考える為に家へ向かう


 なんだか景色が妙に滲んで見える。体が重い。喉が乾いて、息が詰まる。村の朝はいつもと変わらないのに、僕だけが異物になったような気がした。


 それでも、足を引きずるように家へ向かう。


 扉を開けた瞬間、ふっと懐かしい香りが鼻をかすめた。


 花の香り――いや、違う。


 血の匂いだ。


 瞬間、胸の奥が締め付けられる。


 背筋を冷たい指でなぞられたような、息の詰まる感覚。ゆっくりと、部屋の奥へ目を向ける。


昨日と同じ服を着て、昨日と同じ髪をなびかせ、昨日と同じ瞳で僕を見つめていた。


 「……おはよう」


微笑む唇が、血の色をしていた。


頭の中が真っ白になる。手のひらがじっとりと汗ばむ。


 逃げなきゃ。いや、違う。これは夢だ。疲れ切った頭が見せた幻覚に決まってる。


 そう思って、目をこすった。


 でも、何も変わらない。


 彼女はそこにいる。


 まるで、何事もなかったかのように。


 「どうしたの?」


 首を傾げる彼女の喉元に、昨日見たはずの傷はない。切り裂かれ、血に塗れたはずの肌が、何事もなかったように綺麗なままだった。


 だけど――


 僕は知っている。目の前で彼女が死んだ事を


 なのに、なぜ。


 頭の奥で警鐘が鳴る。寒気が背筋を駆け上がる。


 「……君は……」


 言葉にならない声を振り絞った瞬間、彼女はふっと笑った。


 「ねえ、どうしてそんな顔をしてるの?」


 優しい声。いつもと同じ、けれどどこか違う声。


 「まるで……わたしが死んだみたいな顔」


 心臓が跳ねた。


 目の前が、ゆっくりと歪む。


 確かに彼女は僕の目の前で死んだ筈だ


 だけど――彼女は今、ここにいる。

 

 ぐらりと世界が傾く。


 息が詰まるほどの違和感が、僕の全身を締め付ける。


 これは、何かがおかしい。


 いや、違う。


 最初から――何もかも、間違っていたんだ。


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