呪い愛 〜仲の悪い異母姉妹〜

shoko(仮)

第1話 序

「何ですか、これは!?」

「死体だが。」 


 父は至極真面目な顔をして、そう答えた。


 もういやだ、一刻も早く王都にある屋敷に帰りたい。


 俺は我が家の領地内にある城に帰省していた。城に入ると、異様なにおいが鼻を貫いたので、嫌な予感がして父の書斎に来てみればこのざまだった。


 書斎の真ん中で、腐りかけの死体が椅子に縛り付けられている。見た目から察するに女性であった。父はその女性の死体の前で屈み、死体を見物していた。


 父は所謂『黒魔術』にはまっている。俺が成人すると、父は俺に宮廷での仕事と王都の屋敷を押し付けて、自分の領地に引きこもるようになった。そして、不老不死のためとか悪霊退散のためとかで、よく分からない調合や儀式を好き勝手やるようになった。


 俺は父を刺激しないように話を合わせた。


「えぇ~と、どうして? 誰の死体なの? 魔女さんの助言でやってるのかな?」


「この家の呪いの発端を明らかにするのだ。」


 その言葉に俺はピクリと反応した。魔術とかお化けといった類の話は信じないが、これは別だ。


 我が家――トレフルミーナ侯爵アルバ=モンデレ家には『呪い』がある。あれは『呪い』の言葉以外で形容することは確実にできない。


 父は淡々と事の成り行きを語った。


「コンルウォワ様(父は魔女のことをそう呼ぶ)に『呪い』のことを相談したんだ。そうしたら、あの御方曰く、『モンデレ家末代の娘にその所以あり』と仰せられたのだ。そこで、末代の娘、二人いるのだが、その墓から死体を掘り起こして一時的に蘇生し、呪いの発端を語らせようというわけよ。」


 呪いの発端? モンデレ家末代の娘? 二つも死体を掘り返したのか? 

 

 頭がくらくらしてきた。けれども、俺は真剣にこの話を考えようとして、両頬をバチンと叩いた。

 

 モンデレ家とはこのアルバ=モンデレ家の前身となった家である。

 

 約160年前、モンデレ家の末代には二人の娘がいた。

 

 本来ならば、そのどちらかが遠い親戚にあたるオーレリアン・ド・アルバと結婚し、彼は入り婿としてモンデレ家を継ぐはずだった。

 

 しかし、結婚の前に、姉妹が同じ日に同じ死に方をするという事件が起こった。

 

 それで、モンデレ家は断絶。オーレリアンはモンデレ家の分家出身かつ、モンデレ家の娘と婚約していたという縁で、トレフルミーナ侯爵とモンデレの家名を受け継いた。


 これが、我がアルバ=モンデレ家の由縁である。

 

 確か、古い文書に書いてあった末代の娘である姉妹の名前は『エレオノール』と『フェリシー』だったはずだ。


 しかし、2人のことについて古文書には、それぞれの人となりの簡素的描写、2人の亡くなった事件の捜査記録しか記されていなくて、つまり、謎が多い。


 ここまでのことを整理すると、目の前の死体はそのエレオノールかフェリシーのどちらか。何故か今の今まで白骨化せず、今宵、蘇生される。


 俺は今、目の前の光景が信じられなかった。


 しかし、同時に己の探求心も燃え上がっていた。


 『呪い』は何故始まった? 古文書に書いてあった姉妹の死の真相は? どうすれば『呪い』は解ける?


 もう、死臭のことは気にならなくなっていた。


 父が口を開いた。


「今から、侍従たちに蘇生を行わせる。ラベンダーの間でも同じことをやっているから、見に行ってもいいぞ。」

 俺はどうしようか迷った。このまま残って『彼女』の話を聞こうか、ラベンダーの間の死体を見に行こうか……。


 

 ・このまま残る → 第2話 書斎にて へ

 ・ラベンダーの間へ行く → 第3話 ラベンダーの間にて へ

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る