第3話 おばあちゃんちの匂い
「まいちゃん、よく来たねえ」
おじいちゃんとおばあちゃんに笑顔で出迎えられ、古い日本家屋の玄関をくぐる。子供っぽいデザインのピンクのスニーカーを脱いで、おばあちゃんちの匂いの中に突っ込んでいく。おばあちゃんの家って必ず、古くてちょっとだけ懐かしいけどやっぱり慣れない、この独特の匂いがするのはなぜなんだろう。父方の方のおばあちゃんちでもこんな感じの匂いを嗅いだ気がする。ミステリーだ。
そうこうしている間に私は居間に通されて、冷たい麦茶とアイスを振る舞われる。お父さんがボストンバッグを運んできてくれた。テレビではてんで興味のないニュースなんかがやっていて、どこからか風鈴の鳴る音がする。そのいかにも夏って感じの空気を古い扇風機が掻き回してさらに夏をブレンドしていて、とにかくうっとりするような日本の夏だったけど私はそれを堪能する暇もなく、壁にかけられたカレンダーに釘付けになっていた。やっぱりだ、2020年8月2日、月曜日。あの夏だ。
ガリガリ君を食べながら考える。私はもう戻れないんだろうか。この小学3年生のまま人生を再スタートして、身体年齢と精神年齢が5年分解離したまま一生を終えるのか、中学までの記憶を利用して前よりうまくことを運べそうだしそれはそれでおいしいけど、やっぱりモヤモヤする。てかやっぱり夢なんじゃないだろうか。麦茶をひとくち飲むと絶妙にガリガリ君とマッチしない微妙な味が口内に広がって、やっぱり現実だと再認識する。この味は夢じゃ作れまい。
「じゃあ、お父さんはもう行くけど。おじいちゃんおばあちゃんの言うことをよく聞いて、いい子にするんだぞ」
「はーい」
今より白髪の少ない頭を見送って、改めてガリガリ君と向き合う。さて、どうすればいいんだろう。
そもそもなんでこんなことになったんだろう、私は確かお使いに行って、ヨーヨーを手に入れて、それで思い出したんだ。
蝉の声とつまらないニュースが絶妙にマッチしたこの場所に、前に来た時のことを思い出す。どうやって出会ったんだっけ。
麦わら帽子のあの子。その姿は夢の中みたいにぼやけて映るけれど、夢じゃない。だって私はそこにいるんだから。
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