恋の化学式
百華
恋の化学式
「__そして、二酸化炭素はCO₂ で一酸化炭素がCOですねー。あ、そうそう先生が学生の頃はねCO₂を乗り越えてCOになったら、_まあ三角関係乗り越えて今で言うリア充になったら一生関係が続くみたいなことも言われてましたけど、______」
まーたきよりんの雑談が始まったよ。授業潰れるからいんだけどさ。とか考えながら板書を写し終えたノートをぼーーっと見つめる。でも、今日の雑談はちょっと当たりだ。
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
「すずー、今日の雑談ちょっとおもろくなかった?ちょ、きよりんに話に行こや。」授業が終わると、私の心を読んだかのようにすぐに親友のももが話しかけてくる。
「きよりーーん!!!」
「おい、清川先生だろーー?」
「今日の話さー、______」
ほとんどももが話していて、私は隣に立っているだけだったけどももが楽しそうだったから別にいい。やっと話がついたのか、流れで私の席で2人で話す。
「てか今日の雑談さー、今のすずになんか似てね?」__「はぁぁぁぁ?!何バカなこと言いよん?!」席について第一声がこれなのだから、困ったものだ。
「いや、だってさ、実際に今さ、佐東と星崎に迫られてるやん。あの2人まじで分かりやすいわぁ、ほんまにおもろいしずっとすずの方見てるで?」…まぁ事実だ。でも、だからって__、「別に言わんくてもいいやん。ほんまに好きかも分からんのんやけん。」そんな私にやっぱりももは即答する。「いやいや、絶対好きやけん。まさにCO₂状態やん。ほら見てみあれ。はよどっちか選んでCOになれよー。」
その言葉に引っ張られて、思わず2人を交互に見る。学級委員長で眼鏡をかけた優しい佐東は、意外とモテるらしい。明るくてクラスの中心的存在の星崎。やはりこいつもモテるらしい。めんどくさい奴らに好かれたけど__、私なら、と思ったところで「えー、佐東?笑」とももが言ってくる。これまためんどくさい奴を親友にしてしまったようだ。まぁ、こんな性格だから好きなんだけど。なんて思っていると、次の授業はもう始まっていた。
__1日というのは、あっという間だ。特に好きな授業が続いている時なんかは。4限目。ふと時計を見ると、針は両方12を指していた。昼休みまであと10分。ももがちらっと目配せをしてくる。その表情は妙ににやけていて、こっちまでにやけてしまいそうだった。ももがそんな表情をして目配せをしてくる理由なんてもう分かりきっている。それから10分は、ももと目で会話をしていた。そんなことをしているからか、昼休みはあっという間にやってきた。
「「日下部さん」」「すずー」三つの声が重なって、私の名前を呼んでいるということだけが分かる。奇しくも三人は、椅子を持ち寄って私の席へ弁当を持ってやってくる。ももは相変わらず、さっきの表情で近づいてきて当たり前のように弁当を広げ始める。他の二人はというと、なんか怪訝な顔をして、同じく弁当を広げ始めている。そんな二人をも、ももはさっきの表情で見ていた。この状況に少しばかり呆れながら私も弁当を広げる。そんな私らの状況は、周りから見ても面白いのだろう。クラスメイトの視線を集めながら弁当を少しずつ口にする。そんな中でも初っ端から星崎は話しかけてきた。「今日の髪型かわいーね。短命ヘアってやつ?似合ってる。てか5、6限の体育のグループって男女合同じゃないといかんやつよね?一緒に組もでー!」そう言いながら、佐東の方を不敵な笑みを浮かべて見る。側から見ても分かりやすい。「ありがとー、そう短命ヘアってやつ!てか私運動結構は得意なんだけどついて来れる?」当たり障りのない答えをしながらも星崎との会話は続いていった。もちろん、ももはずっと同じ表情でこっちを見ながら弁当を食べていたし、佐東もたまにちらっと様子を伺うくらいで黙々と弁当を食べていた。
みんな弁当もほぼ食べ終えて、星崎との会話のネタも切れた頃。タイミングを見計らったかのように佐東が手を握っきた。__いや、掴んできたと言った方が正しいだろうか。その手は息一つするうちに、指が絡んできて思わず全身の熱が顔に集まった。ゆでだこ状態になった私を、ももは鼻の下を伸ばしながら見つめてくる。一方で、星崎はまたもや分かりやすい表情をして横目に見てくる。「「どしたん?」」とぼけている佐東とももにむず痒い気持ちになりながらも「別に?」と答えるが、顔の熱はまだ全身には戻っていないようだった。
___ここ1、2ヶ月はほとんど毎日この四人で弁当を食べていた。でも、ここまで進展があったのは5回くらいしかなかったと思う。でも、その5回と今日でやっと分かった。佐東が好きだ。真面目で優しくて私の気持ちを察して掴んできた、佐東が。佐東の方を見ると、柔らかい笑顔で星崎と私を見て、その笑顔にも思わずどきりとしてしまった。星崎はというと、完全敗北といった表情で弁当が入った包みを枕にして机に突っ伏していた。ももなんかは「ラッキー、CO₂がCOになる瞬間目撃ー、きよりんに報告やー!」と一人能天気なことを言っていた。「まぁまぁ元気出せってぇ!!!」と、星崎の背中をバンバンッと叩いて励ますもも。こんな状況でも、ももだけはいつもと何ら変わってなくて安心する。ぎゅっと繋がれたままの手を見ながら、そう思った。
結局、体育の時間は四人でグループを組んでバドミントンをしたけれど、不思議と星崎との気まづさはなかった。むしろ、吹っ切れてももと仲良くバドミントンをしている姿を見て、新しい恋が始まる予感すらもした。キュッキュッという音と、クラスメイトの話し声が体育館中に響く。今しか聞けない青春の音に、顔が綻ぶ。学生の一瞬一瞬って、人生の宝物だ。柄にもないことを思いながら、高く飛んできたシャトルを一歩後ろに下がってももの方へ打ち返した__。
体育終わりのSHR。制汗剤の匂いと少しの汗の匂い、そしてエアコンの匂いが混じった空気が教室を纏う。なぜか臭いとは思わない。これも青春の一つなのだろう。「起立、礼、さようなら。」という、小学生の頃から変わらない挨拶は、学級委員長である佐東の担当だ。佐東に釣られてみんなが「バイバーイ」だとか、「部活だるー」だとか、あるいは先生に向けて「さようなら」なんて言う人もいる。その中で佐東は、「一緒に帰ろ?」とあざとらしく言ってくる。返事はもちろん「いーよー!」だ。クラスメイトの視線を横目に二人で教室を出る。不意にももと星崎が目に入った。やっぱり私の予感は的中しそうだ。まぁ、まだまだ発展途上のようだけど。「ももー、先帰っとくけんねー!」いつも一緒に帰っているももに向かって言う。「はいはーい!」適当な返事が帰ってきたかと思えば、次の瞬間にはもう星崎と話しているももがいた。今度は逆に私がにやけた顔で二人を見る。かと思えば、佐東に手を握られた。「早よ行こ。」と無愛想だけど、頬を赤くしていう佐東に“ちょっと待って“なんて言えるはずもなく、まさにされるがままの状態だった__。
校門を出て少し経った頃で、ようやく手を離してきた佐東に、「恋になったらちょっと大胆になるんだね笑。」と少しからかいを含めながら言う。「うるさい。好きなんやけんいいやろ別に…。」とさっきみたく答えられて、私まで頬が赤くなる。少しの沈黙が続きながらも歩いた後、近くにある公園に立ち寄っていった。改装工事が始まるのだろう。遊具には規制線が貼られていて、空いているのはほとんどブランコだけだった。流れで二人でブランコに乗る。「あのさ、俺たちって付き合ってるって都合よく解釈してるんだけど、これって俺だけ、?」キーッキーッと緩く揺れるブランコに乗りながら「んーん、私も都合よく解釈しとったけん、佐東__、央葉だけじゃないよ。」と答えるが、急に呼び捨てで呼ぶ私に動揺したのだろう。嬉しそうな顔をしながら「そう、よかった。」と言う央葉には動揺の色が隠せてなかった。
「あ、自販機ある。どれがいい?」
と、さっきの気を紛らわすかのように、さらっとお金を入れて聞いてくる。あー、こーゆーとこ、やっぱ好きだなぁと思いながら、その好意を受け取る。
「んー、これにしよっかな。」
人差し指の先にあるのは、夏季限定のパインソーダだ。
「それじゃ俺もこれにしよ。」
ガコン、ガコンとジュースが落ちてくる。プシュッという音と主に、缶の飲み口からパインの甘酸っぱい匂が鼻に抜ける。
「ん、おいしー。あと、これからよろしくお願いします笑。_すず。」
なんてベタな会話をしながら、そのCO₂が含まれたジュースを私は一口、こくりと飲んだ。夕日と同じ色に染まった頬が元の色に戻るのは、まだ先のようだ__。
恋の化学式 百華 @momoka1208
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