第10話 重ねられた手
スマホを手に取り、結衣からのメッセージを確認する。
〈昨日の報告書をまとめてからチェックアウトします。駅で落ち合いましょう。〉
短く事務的な文面だ。
〈承知しました〉
とだけ俊太郎は短く返信し、送信ボタンを押す。
文章も絵文字もない、淡々としたやり取りに、胸の奥のもやもやとした気持ちが余計に重くのしかかる。
まだ整理しきれない気持ちを抱えたまま、身支度を整える。
服を着直し、荷物をまとめ、少し時間を置いてから一人でホテルを後にした。
駅に向かう道すがら、街の
駅に着くと、すでに結衣は改札の向こうに立っていた。
互いに視線を交わすが、どちらからも口を開く気配はない。
ぎこちない沈黙の中、結衣は少し
俊太郎も視線をそらさずにはいられず、どう振る舞うべきか迷いながら、無意識に歩幅を合わせる。
帰りの新幹線に乗り込み、結衣の隣の座席に腰を下ろす。
結衣はすぐに窓の外を見つめ、流れる景色に目を
俊太郎は何度も声をかけようとするが、言葉はのどの奥で絡まり、結局息を飲むだけだった。
空気は静かで、周囲のざわめきさえ遠く感じられる。
沈黙が長く続き、俊太郎は自然にひじ掛けに手を置いた。
すると、柔らかい感触が手の上に重なり、指がそっと絡められる。
結衣の視線は窓の外のままだが、その一瞬だけで、二人の間に言葉を超えたやり取りが生まれた。
熱や行為の余韻、そしてまだ整理しきれない感情が、指先から静かに伝わってくる。
俊太郎は息を整えようとし、ゆっくりと肩の力を抜く。
心の中では「これでいいのか」という戸惑いと、抗えない感情が混ざり合って渦巻いていた。
それでも、結衣が隣で窓の外を見続ける姿に、少しの安心と、見つめ合えないもどかしさを同時に感じる。
指先で絡む温もりが、二人の心の距離を微かに縮めていることを、俊太郎は無言のまま実感した。
景色は淡々と流れ、二人の呼吸もまた規則正しく重なる。
言葉はない。
けれど、この沈黙の中で二人は確実に何かを共有していた。
――昨夜の過ち、抗えない欲望、そして後悔。
それらが静かに、しかし確かに胸の奥で混ざり合い、やがて言葉以上の余韻となって残る。
隣で指先を絡めたままの結衣の存在が、目に見えないほど微妙な距離で、しかし確実に俊太郎の意識を占め続ける。
後悔と欲望の余韻が静かに流れる車内で、二人の心は言葉を超え、互いの存在を確認していた。
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