終末世界で釣りを。
デン兵
第一話「再開の西港」
太平洋からの冷たい風が吹き付ける北海道、釧路市。西港の埠頭は、かつて多くの漁船や貨物船が行き交う賑やかな場所だった。だが、永久凍土から解き放たれたウイルスが文明を終わらせて以来、ここは人影ひとつない廃墟と化していた。
陸上自衛隊の駐屯地を拠点とするケンスケは、いつものように物資調達のため、この場所にやってきた。彼は繊細でネガティブな性格だが、元自衛隊員としての訓練で培った粘り強さと、正義感を持ち合わせていた。特に釣りは苦手だったが、入隊前に果たせなかった鮭釣りのリベンジを果たすべく、彼は竿を構えていた。
フカセ釣りの仕掛けを海に投げ入れる。しかし、魚の気配はない。諦めかけたその時、遠くからエンジンの音が聞こえてきた。ケンスケは警戒しながら身を隠す。まさか、自分以外の生存者がいるとは。2台の車が埠頭に停まり、見慣れた顔が降りてきた。
ヤンキーチックな見た目だが根は優しいコウキと、真面目で優しいタクロウだった。彼らは学生時代の友人だ。互いに生存していたことに驚き、そして喜び、3人は再会を分かち合った。
「お前、こんな場所で何してんだよ?」とコウキが尋ねる。
「鮭釣りのリベンジだよ…入隊前に失敗したからな」とケンスケが苦笑いする。
するとコウキはニヤリと笑い、「そんなことだろうと思ったぜ。だから俺たちも釣具を持ってきたんだ」と言い、タクロウも頷いた。
3人が積もる話をしていると、目の前の海で巨大な魚が跳ねた。体長4メートルほどはあろうかという、金色に輝く鮭だ。おにぎりしか食べていなかった彼らの食欲に火をつけた。3人は一致団結し、この金色の鮭を釣り上げることを決意する。
まずはフカセ釣りで挑んだが、金色の鮭は餌に全く食いつかない。ただ他の魚を追いかけて跳ねるばかりだ。この様子を観察していたタクロウが、「フカセじゃなくてルアーで誘導する方がいいんじゃないか」と提案する。釣り玄人のコウキは最初は渋ったが、タクロウの真剣な目に押され、ルアーでの釣りに切り替えることにした。
すると金色の鮭は、すぐにコウキのルアーに食いついた。しかし、その力は想像をはるかに超えていた。糸がすぐに切れ、高価なルアーを持っていかれたコウキは怒り狂った。
「くそっ、なんて日だ!」とコウキが叫ぶ。
だが、ケンスケは冷静だった。物資調達の際、ホームセンターで手に入れたマグロ用の釣り糸のことを思い出したのだ。すぐに糸を張り替え、再びルアーを投げ入れる。今度はケンスケの竿に食いついた。糸は切れない。だが、必死にリールを巻くも、金色の鮭は再び針から外れてしまう。
「なんて日だ!!」
誰もいない埠頭に、ケンスケの叫び声が響く。だがその時、タクロウの竿に金色の鮭が食いついた。今度は深く針が刺さったのか、外れない。タクロウは必死にリールを巻くが、貧弱な体格の彼は、どんどん海に引きずり込まれていく。
「タクロウ!」
ケンスケとコウキは、限界が近いタクロウを支える。そして、3人は力を合わせ、竿を力いっぱい振り上げた。金色の鮭は大きく空を舞い、ついに彼らのクーラーボックスへ。
その日の夜、3人はバーベキューコンロを囲み、金色の鮭を捌いた。メスだったようで、身もイクラも金色に輝いている。ケンスケは直感した。もしや、永久凍土から発生したウイルスが生物を強制的に進化させているのではないか、と。
それは、単なる食料ではなく、彼らがこの終末世界で掴んだ、希望の光だった。積もる話をしながら、彼らはこの奇跡の味を噛み締めた。
「よかったら、俺の拠点に来ないか?」
夜が更け、火を消したケンスケが2人に提案する。それは、再び孤独なサバイバルに戻るのではなく、この友情と共に生きていくという、彼の新たな決意でもあった。
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