第37話 集結
「まずは全員で、ダークロードを潰すんだ……!」
宝を目前にしたホールに、集まってきた新たなギルド勢。
「我らの最大の敵が、ヤツであることは間違いない」
さっき別ギルドの面々を容赦なく倒した教団騎士が、この加勢を悩むことなく受け入れる。
こうしてギルド勢と教団騎士の、突発的な協力体制が誕生。
生まれた大きなパーティを前に、息を飲む。
思わぬ形で始まった、多勢に無勢。
「これは……チャンスだ」
後着のギルド勢から、そんな言葉が聞こえてきた。
戦いが長引けばそれだけ、後続もやってくる。
そうなれば、まずは勝ち続けてきたダークロードを潰そうと考えるのは当然のこと。
しかも『不殺』を掲げている俺たちは、その力を全開で振るえない。
この状況は、確かにやっかいだ。
「いいえ、チャンスなどではありません」
しかしサクラは、あくまで冷静にそう言い放った。そして。
「――――来ます」
そう、確信と共に告げた次の瞬間。
「「「っ!?」」」
俺たちを取り囲んでいたギルド勢の前に、一直線に飛んできた収縮の空気弾。
突然解放されると、猛烈な爆風が荒れ狂う。
「「「うおおおおおおおお――――っ!?」」」
間近にいたギルド勢は、すさまじい勢いで吹き飛ばされて跳ね転がった。
「あ、あれは……っ!」
「来やがった!」
流れる風の中。
生まれた道を悠然と進んでくるのは、三人の黒づくめ。
間違いない……!
あれはリリィとマーガレット、そしてリコリスだ!
「ナイトメアガーデンだ! ナイトメアガーデンが来やがった――っ!!」
ざわめくギルド勢たち。
戦いの行く末を見守っていた探索者たちも、その異様に思わず息を飲む。
……な、何だこの光景。
全員揃うとなんか……いっそう恥ずかしいな!
そのリーダーらしい俺が一人、羞恥に悶えていると――。
「……隙を見て、先に進んでください」
隣りにいたサクラが、そう言って歩き出した。
「あの子を、よろしくおねがいします」
そう言い残して、真っすぐにリリィたちと合流。
居並ぶ、四人の黒づくめ。
「ここから先には、行かせないよ」
そう宣言した短剣の二刀流は、マーガレットだろう。
「覚悟はよろしい?」
大型の戦斧を、肩に抱えているのはリリィ。
そして言葉もなくうなずいて見せたのは、リコリスで間違いない。
「あなたたちの相手は、ナイトメアガーデンがいたします」
最後に合流したサクラが、太刀をギルドと教団騎士の連合チームに向けて言い放った。
「……い、いくぞ! 今度こそナイトメアガーデンを、ダークロードを潰すんだ!」
「「「オオオオオオオオ――――ッ!!」」」
雄叫びと共に、駆け出すギルド勢。
「いくよ」
それを見て、駆け出したのはマーガレット。
「なにっ!?」
その速度は、圧倒的。
先行してきていた剣士二人の前に一瞬でたどり着くと、そのまま両者の間を駆け抜ける。
「「ぐああっ!?」」
その際に放った二刀流の斬撃は、かまいたちの様に剣士たちを斬り飛ばした。
「うおっ!?」
さらにその先に迫っていた男の短剣も、わずかな挙動だけで弾いて飛ばす。
「オラァァァァァァ――――ッ!!」
そんなマーガレットの前に立ち塞がったのは、大柄な戦士。
両手で掲げた大きな剣を振り下ろそうとした瞬間、すでにマーガレットの姿は懐にあった。
「なっ!?」
驚く暇すら与えない。
短剣の柄をアッパーで叩き込まれた大剣使いは、脳を揺らされ一撃で倒れ伏した。
「は、速すぎるッ!」
あがる悲鳴の中を、マーガレットは嵐のように駆け抜けていく。
そんな同僚の姿を見ながら、悠然と歩みを進めるのはリリィ。
「……行くぞ!」
そのもとに、集まってくるギルド勢。
「行くぞォォォォォォ――――ッ!!」
完全な包囲網ができあがってもなお、全く動じない姿に不気味なものを感じながらも、一斉に特攻を仕掛ける。
「甘いですわね」
すると小さな声でつぶやいたリリィは、身長を超えるほどの戦斧を背中から取り出した。
そしてそのまま、豪快に一回転。
「はあっ!!」
「「「うわああああああああ――――っ!?」」」
教団騎士の剛剣すら上回る圧倒的なパワーで、まとめて敵を弾き飛ばした。
しかしギルド勢にも、機転の利く者がいる。
この特攻が返されたなら、その直後の隙を狙う。
そんな作戦の下、一つ遅れて飛び込んできたのは、めずらしいハンマー使いの男。
「オラァァァァァァ――――ッ!!」
高い跳躍から、全力で叩きつけにくる。
「なっ!?」
しかしこれをリリィは、片手で軽々と受け止めてみせた。
そのまま脚を振り上げれば、炸裂する蹴り。
「グアッ!!」
蹴り飛ばされた男は転がった後、慌てて顔を上げる。
「こちらは、お返しします」
そこには、クルクルと回転しながら落ちてくるハンマー。
「ひっ……!」
リリィが片手で投じたハンマーは頭のわずかに上を越え、背後数十センチのところにめり込んだ。
「いくぞ」
ここで、教団騎士たちも動き出す。
四人がかりで一人ずつ打倒する形を狙っているのか、目標はリリィだ。
「させない【風王乱舞】」
そんな動きに気づき、先手を打つ形で放ったリコリスの魔法が発動する。
この空間の中央に生まれた猛烈な風の収縮が、凄まじい勢いで炸裂。
盛大な爆風を生み出した。
「「「「っ!?」」」」
その威力を前に、体勢を崩す教団騎士たち。
視界を塞ぐほどの砂煙の中へ駆け込んでいくサクラは、先ほど自分が打倒した教団騎士を狙って走り出す。
「【一式・雷刃】!」
「ぐああああああああ――――っ!!」
高速接近からの一撃は、剣の峰を騎士の生身の腕に直撃させた。
ガントレットを失っていた騎士があげた悲鳴は、砂煙によって視界を奪われたギルド勢には、恐怖の引き金となる。
「行くなら……今しかない!」
圧倒的な強さを誇るナイトメアガーデンが、いつ攻撃してくるか分からない。
誰もが自分の身を守るために、意識を狭く集中している今がチャンスだ。
俺は駆け出し、苛烈な戦いを目前に悲痛な面持ちを見せていた少女のもとへ。
「ゆくぞ」
「えっ?」
「この隙に、宝のもとへ進むんだ」
戸惑う少女の腕を引き、俺はホールを駆け抜ける。
そしてそのまま一緒に、宝の部屋を目がけて突き進む。
続く道にやがて、魔力によって明滅する幾筋もの魔法石脈が現れ始めた。
「わあ……」
その先には、大きな空間。
そして魔力を凝縮させた輝く宝石塊がある。さらに。
見た瞬間に大物と分かる、この空間の主。
膨大な魔力に釣られる形でこの場所を縄張りとした、五階層の最強種が待ち受けていた。
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