第23話 二日目のダンジョン
「宗一郎さん、今日もよろしくお願いします」
「こちらこそ」
騒がしかったマーガレット宅での朝を終え、俺は今日もサクラとダンジョンを進む。
過去の俺は、一体何をしようとしていたのか。
なぜ『進め』と言葉を残したのか。
そして記憶喪失になった理由も、ダンジョンなら何か分かるだろうか。
「それでは、参りましょう」
サクラはご機嫌で、俺を先導する。
「今日も、私で良かったのですか?」
「昨日色々教えてもらったけど、やっぱりサクラが一緒だと頼もしかったからさ」
「っ! そうなんですねっ」
満面の笑みを浮かべるサクラ。
もちろん今日も、誰と一緒にダンジョンに行くのかっていう問題が噴出した。
最終的に決断を求められた俺は、「サクラがいいかな」って言ったんだけど……。
それからずっと上機嫌のサクラは、足取り軽くダンジョンを進む。
「五階層攻略も後半戦って言うけど、実際のところ『宝』ってどう探すんだ?」
「それでしたら、魔宝石の鳴動を見るのが一番ですね」
サクラはそう言って、3,4センチほどの魔法石を手に取った。
「宝が近づくと、魔宝石に変化が見られます。まずはその変化が起きる場所を探す形です」
「なるほどなぁ」
ダークロードこと俺がバリアの魔物を倒したことで、新たな区域が解放されて一晩。
各所に散っていった探索者たちは、この広い未踏地帯を進行中だ。
「…………あの」
「ん……?」
聞こえてきたのは、気を使った感じの声。
振り返ると、そこには純白の長い髪をした緑眼の少女がいた。
あまり感情を見せない表情をした彼女は、同じ組織の一員リコリスだ。
「これを」
合流して来たリコリスは、華奢な身体にまとったローブのような物の中から、折りたたんだ紙片を差し出してきた。
「これは?」
「マップ」
受け取って確認すると、そこには五階層後半部分の詳細な地図が描かれていた。
「マーガレットとリコリスは昨日、一日かけて五階層新区域の情報集めと、地図作りをしていたんです」
見れば各所の罠の注意点や採掘素材なども載っていて、もちろんまだ完成はしていないが、相当便利な作りになっている。
「これはすごいな」
思わずつぶやくと、リコリスは首を振りながら応える。
「誰にでも、できることだから」
「マップがあれば、階層全体の形状や未到達部分から、ある程度『宝がある場所の方向』も絞れます」
なるほど。
誰かが進んで、行き止まりだと分かった場所にはもう行く必要がない。
そういうのも分かるから、ある程度向かうべき方向が見えてくるんだな。
「リコリスは控えめですが、能力は確かです」
そんなサクラの評価に、また「そんなことない」と首を振るリコリス。
俺に対しては明らかに、まだ様子見といった感じだ。
……この警戒を残した感じが、むしろ安心する。
二年ぶりの再会のうえに記憶喪失のやつが相手なら、これが普通なんだよなぁ。
そう考えるとリコリスは、ダークロードの洗脳が弱いのかもしれない。
とてもいいことだ。
思わず、深くうなずく俺。
するとそこに、騒がしい声が聞こえてきた。
「ひひひひひっ。やったな!」
「魔物の一匹や二匹押し付けられたくらいで、悪く思ってくれるなよ!」
馬鹿笑いしながら駆けてくるのは、荒くれ者といった感じの探索者たち。
その手には、粗削りな魔法石塊を抱えている。
「これで一儲けできたな、今夜は飲むぞ!」
「ひひひっ、俺は賭けで倍にしてやる!」
笑い合う探索者たちは、ギルド勢と呼ばれる連中だろう。
新たにこの場へやって来た別隊の仲間を見つけて、声をかける。
「おう、お前ら今日は何狙いだ?」
「決まってんだろ、お宝で一攫千金だ」
応えた男は、見るからに高級そうな金装飾の短剣を握って笑う。
レザーベルトには宝石が飾られていて、その派手さがすごく成金っぽい。
「そっちに行くのは止めとけよ。俺たちが押し付けた魔物と戦ってるやつらがいるからよ」
「ったく、お前らはしょうがねえな」
「「「ぎゃはははははははっ!」」」
笑い合いながらすれ違う、二つのギルドパーティ。
「さあ行くぞ。次の宝を頂くのはダークロードじゃねえ、俺たちだ!」
「あの強欲野郎に、これ以上お宝を取られてたまるかってんだ!」
宝狙いの探索者たちは、息をまいて歩き出す。
まさかそのダークロードが、目の前にいるとは思ってもいないだろうなぁ……。
何せ当事者である俺でも、今だに信じられてないんだから。
「一部のギルドは、鉱石などの採掘をすることで稼ぎをあげています。その上で宝も狙っている感じですね」
ダークロードが悪く言われたせいか、不満そうな顔のサクラ。
「中には人数が少ないパーティ相手に、力づくで採掘場を奪うような者もいるんです」
続く言葉に、リコリスもうなずいた。
……でも。
確か第一層から第四層まで、全ての『宝』を独占してきたのがダークロードなんだよな。
さらに挑発的な態度まで取ってたみたいだし、目の敵にもされるのもムリはない。
ていうか、なんでそんな余計なことをしてたんだよ過去の俺……っ!
「少し、様子を見に行ってもいいでしょうか」
俺がそんなことを考えていると、サクラが『ギルド勢が押し付けた魔物』がいるという方向を見ながらそう言った。
被害を受けたパーティのことが、心配なんだろう。
「もちろん」
リコリスも特に反対することはなく、俺たちはサクラの後に続く。
道を進んで行くとそこには、魔物が倒れ伏していた。
「良かった、どうやら無事に打倒できたようですね」
安堵の息をつくサクラ。
これで心配事もなくなり、俺たちはそのまま続く道を進む。
こっちのルートはまだ地図もできてないし、行ってみる価値はあるだろう。
するとしばらく進んだ先に、伏したまま動かない魔物の姿が見えた。
「さっきのパーティが、前にいるっぽいな」
「そうですね」
倒れている魔物を横目に、さらに先へと進む。
しばらく歩いた先に、見えたのは――――。
「また、魔物が倒れています」
それはダンジョンなら、別におかしなことではないだろう。しかし。
「「「っ!?」」」
三人、足を止めずにはいられない。
なぜなら、これまで三回見かけた魔物は倒れ方も大きさも、傷の位置までもが同じだからだ。
「なんかこの区域……おかしくないか?」
「はい、おかしいです」
思わずこぼした俺の言葉に、サクラとリコリスが小さくうなずいた。
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