あるいは、蛇
奥行
如何に体温を下げるかに苦心する徒然
殺してやる、と念じながら走り込んだ。
ストレスを発散させる術が他に何も思い付かず(1番手っ取り早いのは相手の頭を鈍器で粉微塵にする事だがそれは選択肢に入れてはいけない)、斜め上の何も無い空間に向かって殺してやる、殺してやると呟きながら狭い部屋の隅から隅をグルグルと走り込んだ。
その間、風呂場で浴槽に水を溜める。
ドドドと勢いのある音を聞きながら絶えず殺意を吐き出し続ける。
殺してやる。
殺してやる。殺してやる。
暑いとそれだけで思考が低下する。
無意味にサンダルの汚れについて考えたりするし、ゴミ出しが朝にしか出来ない事が許せないし、それはまるで興味のない政治の責任に思えるし、隣人の笑顔にも裏があるように捉えて自動的に殺意が湧く。
走り込めば体温も当然上がるが、そこに思考は向いていない。何処に行くあてもない殺意をどうにか吐き出し続ける。
滝のように汗をかいて、ふうふう息をしながら風呂場へ向かい、服も脱がず飛び込むようにして浴槽へ浸かる。人として生きるには些か不向きな性質だった。どうしたって夏は来るし、動くと体温は否応なしに上がる。
この時、やっと生きた心地がするのだ。湯気が立ち上るかと思うほどの身体を引っ提げて、水風呂に飛び込んだこの瞬間だけ。
ふう、と息を吐き、チャポチャポ水面を揺らして首や肩、頭に顔に水を掛ける。
ゆらゆら、ゆらゆら。揺れる。
そうしてしばらくして、やっと頭の中に、何をそんなに怒ってたんだっけ?と声がするのだ。怒るほどの事はなにも起こっていないのに。どうせみんな死ぬし、それは自分だってそうだし、万人に好かれることは出来ないし、永遠に生きる事は出来ないのに。
そこから、2時間は浴槽の外に出られない。身体が温まるとまた意味もなく憤怒に取り憑かれるからだ。呪いを吐くだけの人でない何かに成る。
あるいは、
あるいは、蛇 奥行 @okuyuki
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