第28話 旧鉱山

 旧鉱山に近づくと、さっきまで追ってきていたコボルトたちは、いつの間にか姿を消していた。


 だが、代わりに──空中から、不気味な羽ばたきと共にハーピーが襲いかかってきた。


 ハーピーは、以前、鉱山から街道に抜ける道で遭遇したあの人面鳥。人間のような顔に、鋭い瞳。そして巨大な鳥の身体に生えた汚れた羽。その足には、鋭い鉤爪があり、獲物を狙って急降下してくる。


 オレは、迫り来るハーピーの突進を鉄の盾で受け止め、すかさず攻撃魔法を放つ。


「ファイアアロー!」


 炎の矢が、ハーピーの背を追って空中を駆ける。矢は逃げるハーピーに命中し、バチッという音と共にハーピーは光の粒となって霧散した。


 だが──それが合図だったかのように、さらに多くのハーピーたちが一斉に空から殺到してくる。まるで空が黒く染まるかのように、無数の影がオレに襲いかかってきた。


「ならば、まとめて燃やす!」


 オレは両腕を広げ、全体攻撃魔法を連続して詠唱する。


「マルチファイアブレード! ファイアレイン! ウィンドレイン! ウォーターレイン!」


 炎の刃が旋回し、火の粉が空を焼く。風の粒が渦を巻き、水の粒は辺りを打ち据える。


 ──だが、明らかに威力が落ちている。


(くそ、やっぱり……火と水の属性が干渉して、お互いを打ち消している)


 それでも効果は十分だったようで、複数のハーピーが傷を負い、後方へと退いていく。空中に、静かな間が生まれた。


 オレは退いたハーピーに狙いを定め、再び炎の矢を放つ。


「ファイアアロー!」


 しかし、炎の矢はハーピーの手前、空中でスッと掻き消えた。


(……やはり。オレの魔法、思ったより射程が短い。普通の矢の半分も飛ばないか?)


 距離を詰めるしかない。オレはハーピーに向かって走り出すが、ハーピーたちは一定の距離を保ちながら後退する。


(面倒な奴らだ……!)


 苛立ちと共に立ち尽くしたその時、突如として頭上から圧迫感のある気配来て、そして響く。


「ズッドーーン!!」


 地面に激突した岩が、粉砕音を立てて弾ける。見ると、頭ほどの大きさの岩がオレのすぐ横に落ちていた。


 慌てて空を仰ぐと、ハーピーの数体が岩を両足で掴み、上空からこちらを正確に狙っているのが見えた。


「ズッドーーン! ズッドーーン!」


 次々と岩が落とされる。もし一発でも直撃すれば、命はない。


 オレは反射的に身を翻し、鉱山の坑道を目指して全力で駆け出した。


 進路を塞ぐようにハーピーが舞い降り、鋭い爪で襲いかかる。だが、こちらも黙ってはいない。


「ファイアアロー! ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール!」


 炎の矢と球体の連続魔法がハーピーを吹き飛ばし、なんとか道を切り開く。そうして、ついに坑道の入口へと辿り着いた。


 岩を落とす攻撃は、坑道に入れば無効だ。オレは振り返り、周囲に残るハーピーを排除する。


「マルチファイアブレード!」


「ファイアアロー! ファイアボール! ウィンドボール! ウォーターボール!」


 攻撃魔法を撃ちまくる。


 少しすると、周囲のハーピーたちは全て撃破され、静寂が訪れる。そして、視界にポップアップが現れた。


『シーフのレベル20。アンロックのスキルを獲得』


(よし……ついに来た。鉱山で会ったあのシーフが使っていた《アンロック》スキル……これで、男爵の城に潜入できる)


 一旦坑道を出て、周囲の様子を慎重に伺う。ハーピーの姿は、もう見えない。安心してハーピーとの戦場へ戻ると、足元にいくつかの輝くものが落ちていた。【小魔石】だ。


【小魔石】×22個を手に入れた。


 警戒を緩めず、オレは周囲の魔物の存在を探る。


「スキャン!」


 スキルの発動と共に、意識に赤い光点がいくつも浮かび上がる。遠くに、数体のハーピーの残党。そして──振り返ると坑道の奥にも、赤い光点が現れた。


(坑道の中にも魔物……?)


 オレは用心しながら坑道に足を踏み入れる。


 中は薄暗く、湿り気を帯びた空気がひんやりと肌にまとわりつく。足元には水たまり、天井からは冷たい雫がポタリ、ポタリと落ちる。


 オレは【エバキュエーションキット】から懐中電灯を取り出し、前方を照らしながら慎重に進む。


 しばらく進むと、赤い光点が目前に近づいた。そこにいたのは──粘ついた音を立てる、スライムが2匹。


「ファイアアロー!」 「ファイアボール!」


 火の魔法に弱いスライムたちは、抵抗する間もなく焼き尽くされた。


(なぜ、こんな場所にスライムが……?)


 疑問を抱きながら、再度スキャンを発動する。


「スキャン!」


 坑道の奥深く、無数の赤い光点が浮かび上がる。


(……これは、ただの旧鉱山じゃないな)


 オレは灯りを掲げ、ゆっくりと奥へと足を進めた。


 そしてオレは学ぶ。


〈空を飛ぶことの有効性〉


 と言うことを。

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