とある軽音部員の話。

蛍石

ぷろろーぐ。

「千鶴、一緒にご飯食べよ!」


……またこの夢か。


一体何回見れば気が済むのだろう。


見慣れた教室の風景。

昼休み特有のクラスの喧騒。

束の間の休息にクラスメイトは話を咲かせているはずなのに、彼女に見つめられると途端に周りから音が無くなる。


友達が多くて、何もかもが私とはまったく違う人。


彼女と目を合わせるのが怖くて、スカートをぎゅっと握りしめて床を見つめる。

なにか答えなきゃいけない。

それは分かっている。

でも、口を開いたところで出るのはかすかな音だった。

気持ち悪い。

胸の奥から込み上げてくる胃酸が伴わない吐き気をこらえるために、目を閉じた。

次に視界に映ったのは、真っ白な世界。


……サメのぬいぐるみのふさふさのお腹だった。

その腹に顔を埋めて、猫吸いならぬ、ぬい吸いをする。


満足するまで吸ったら起き上がる。


今日も今日とて何も変わらない憂鬱な一日が始まった。


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