君は陽キャになり俺は陰キャになった。陽キャを辞めた世界で

楽(がく)

第一章

ゴミ箱に捨てた世界

第1話 陰キャ/陽キャ

俺、富樫雪は中学時代まで陽キャだった。

前は友人も居て幼馴染も居た。

とても充実した不良な感じの生活だった。

だけど高校に入学して俺は訳あって陰キャになった。


「はぁ」


そんな言葉を吐きながら長く伸びた髪の毛を見る。

そして眼鏡を外して伸びをしてから俺は周りを見渡す。

周りには陽キャが沢山居る。

3月に入学して4月になってから友人のコミュニティは既に形成完了。

俺は友人0で完全な陰キャ世界に入る事になった。

まあこれが俺の望んだ世界でもあった。


「ふあ」


欠伸をしてから俺は教室を出る。

それから俺は窓から外を見渡してからトイレに行こうとした。

すると背後から「富樫くん」と声がした。

背後を見ると中学校からの唯一の同級生で女子の知り合い。

偶然入学したこの学校が一緒だった萩原彗星(はぎわらすいせい)が居た。


「珍しいな。この学校で話しかけて来るなんて」

「君しか居ないからね。元の県外の学校の生徒なんて」

「...」


その姿を見る。

長い黒髪に...髪留めが2本。

中学時代と変わらない雰囲気の美少女だ。

でもこれといって知り合いではないので...まあ顔見知りぐらいだった。


「...この学校では俺に関わらない方が良いぞ」

「ん?どうして?」

「俺は陰キャだから」

「...嘘を吐くのは良くないよ」


俺の隠し事を知っているかの様に笑みを浮かべる萩原。

一瞬だけドキッとしてしまったが彼女は「...まあ黙っていてほしいなら」と言いながら手を振った。


「また後でね」


そして俺に対して微笑みながらそのまま踵を返して去って行く。

萩原。

俺はもうそっち側の人間じゃないんだよな。

そう考えつつ俺はふっと自分を嘲てからそのままトイレに行った。



教室に戻ってからホームルームが始まる。

4月24日が始まる。

そしてホームルームの為に教員が入って来てから俺達を見渡す。

楓智也(かえでともや)先生。


「今日も元気か。お前ら」

「「「「「はい」」」」」

「突然の話だけど今日はな。女子の転校生が居るんだ」

「はい?!」


そして教室が絶句する中。

楓先生が横を見てから「んじゃ。入ってくれるか。長瀬茉莉(ながせまり)さん」と声をかけた。

長瀬...?

俺は一瞬だけ疑問符を浮かべながら「まさかな」と呟きつつ外を見る。

するとドアが開いてから女子が入って来る。


「長瀬茉莉です。宜しくお願いします」


髪の毛は茶髪。

少しだけぎこちない感じの...美少女だった。

俺は驚きながらその顔をじっと見る。

こ、コイツ!?

思って俺はふいっと慌てて顔を逸らした。


「宜しくな。長瀬。...という事で長瀬の席はっと」


クラスの反対側に腰かける長瀬。

間違いない。

長瀬茉莉は...俺の幼馴染(だった)少女だ。

だけどこちらには気が付いてない様だ。

そりゃそうだろうな。

当時と俺は全くの違いがある。


「...ちょうど良い」


長髪でしかも性格も変わり。

眼鏡をかけ始めた俺が気付かれる可能性は0だ。

完全な陰キャだしな。

思いつつ俺は前を見てからホームルームを受ける。

それからホームルームが終わった。



質問攻めにあっている長瀬を置いてから俺は売店に来た。

それから乳酸菌飲料を買って飲んでいると「やっはろー」と声がした。

顔を上げると萩原が居た。

萩原は俺の横に腰かけてから紅茶花〇を飲み始める。

コイツは何やっているんだ。


「お前。俺と関わるとろくな事にならないぞ」

「それはどういう意味で?」

「お前は陽キャだろ。...俺は陰キャだ。だから正反対。天と地の差がある」

「うん。でも私は富樫くんの過去を知っている」

「それは言い訳にならない」

「良いから」


何を考えているんだコイツは。

そう思いながら俺は溜息を吐きながら空を見上げる。

それから考えていると「ねえ。富樫くん」と萩原が言った。

俺は「なんだ」と返事をする。


「なんで陰キャになったの?」

「それは...知っているだろう。あの事もあったしな」

「学校を敵に回したってやつかな」

「そうだ。だから俺には陽キャに戻る資格は無い」

「うーん。でも冤罪だよね?」

「冤罪でもな」

「うーん...納得がいかない」


まあそれで進路も全部...。

考えながら俺は苦笑しながら「だから俺に関わるとろくな事にならない」と萩原に目の前を通る男子生徒を見ながら告げる。

すると萩原は太陽を見ながら「私はこれからも富樫くんに声をかけるよ」と笑みを浮かべてから俺を見る。


「いやだから...俺は陰キャだって」

「陰キャ陰キャってうるさいよ?」

「陰キャって知ってる?目立ったら駄目なのよ?」

「だって富樫くんはさ」


そこまで困惑気味に萩原が言った時。

萩原を「すいちゃーん」と窓から呼ぶ声がした。

呼ぶ言葉に萩原は「ごめん。また今度ね。富樫くん」と手を優しげに振ってからそのまま踵を返して中庭の入り口から去って行った。

何だってんだよ全く。


「やれやれ」


萩原もそうだけど。

いやまあ萩原は良いとして長瀬に気が付かれない様にしなくては。

面倒な事になってしまったな。

そう思いながら俺は乳酸菌飲料を見た。

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