第4話

お母さん、お父さん、ごめんなさい。


私の人生は、意味のあるものではありませんでした。だって、彼に愛されなかったから。お母さんとお父さんは、私の事を愛してくれていたかもしれません。でも私は、私が一番愛する人に愛されない人生には、到底耐えられませんでした。


愛されるための努力は、していたと思います。髪型も、服装も、性格も、趣味も、彼が好きなものにしました。彼のためなら、彼が口に出してくれたなら、私は何だって変えられた。


でも、彼は私を捨てて、他の女の所に行きました。他の女といる彼は、私といる時より楽しそうでした。


だから私はその女を、いや、あれは淫魔に違いない。きっとそうだ!私は淫魔を殺しました。他の害獣が彼を誑かす度に殺していけば、いつかは私だけが残って、私を正しく評価してくれると思ったから。でも、彼は私を口汚く罵りました。彼がそれほどまで感情的な言葉を私にぶつけたのは、それが初めてでした。


私は思いました。きっと彼の中には悪霊が取り憑いていて、それが私の邪魔をしているのだと。だから私は彼の腹を裂きました。彼の中に棲まう悪霊をこの手で引き摺り出してやろうと、何度も何度も何度も何度も、彼の腹に包丁を突き立てました。


でも、どれだけ刺しても、出てくるのは血と臓腑だけでした。悪霊なんて、彼の中にはいませんでした。彼は変わりませんでした。最期まで、私に呪いの言葉を吐き続けました。ああ、せめて最期に私への愛を誓ってくれたなら!私はそれだけを頼りに、彼のいない現世を生きることもできたでしょうに。


お母さん、お父さん、ごめんなさい。こんな風にしか生きられず、ごめんなさい。これ以上生きられず、ごめんなさい。最後まで厚かましいとは思いますが、この日記帳と一緒に置いてあったライターを、私のお墓に供えておいてください。

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火傷痕 藤宮一輝 @Fujimiya_Kazuki

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