陰キャ脱却計画!
海月うに
第1話 陰キャ脱却計画 目指せ陽キャ!
わたし、
陰キャです。
それはもう、バリッバリの陰キャです。陰キャ中の陰キャ、キング・オブ・ザ・陰キャって感じ。
あ。陰キャって、分かりますか? 「陰気なキャラクター」の略なんですけど。
つまり、いけてない人、内気な人、暗い人、消極的な人、友達がいない人、コミュニケーション能力が低い人! ……ってことです。
わたし、全部当てはまってるんですよね。
だからか、皆にずうっと「陰キャ」って言われてます。
言われすぎて、もう慣れっこだったんですけど……実は、最近、好きな人が出来たんです。
同じクラスの、
清水くんは、みんなから、「貴公子さま」と呼ばれています。その人気はすさまじく、上級生にもファンがいるんだとか……。
彼は、笑うことがほとんどなく、いつも静かに本を読んでいます。
……で! その、読んでいる本が、わたしの好きな本ばかりなんです! もう本当に、本の好みが似ているんです。
それで、清水くんのことが、気になって。いつしか、彼の姿を目で追うようになりました。
そしたら、分かったんです。彼は、さりげなく皆に気を配っていること。いつもみんなを助けていること。
――必要以上に笑みを振り向かないだけで、すごく優しいってこと。
そんな彼に、わたしはどんどんと惹かれていき――好きに、なりましたっ……。
でも、相手は、人気者の清水くん。わたしは、くら~い陰キャ。不釣り合いなのは、言うまでもありません。
それで……わたし、思ったんです。
変わりたい、って。
清水くんの隣に立てるくらい、イケていて、社交的で、明るくて、積極的で、友達に囲まれて、コミュニケーション能力が高い、素敵な女の子になりたい、って。
思い立ったが吉日。その日から、わたしは、「陰キャ脱却計画」を始めました。
目指すは陽キャ。そう、陽気なキャラクターです。
しかし、これが、思った以上に難しく……とりあえず、少女漫画とファッション雑誌を買いあさり、自分なりに研究を始めましたが、 チンプンカンプン! 世の中に、こんな優しい王子様系男子なんて、いませんよぉ……。
うう……これなら、相似の問題を解くほうが楽です……。
そんなことを思いながらも、相談できる友達なんていませんし……。
途方に暮れていたそんなとき、思わぬチャンスが舞い込んできました。
それはちょうど、三日前のホームルームの時間――。
◇
その日は、夏休みまであと三日ということで、クラスが浮足経っていました。
ホームルームで、先生が、あの衝撃発言をするまでは。
「待ちに待った夏休みまで、残り三日だな。みんな、たくさんの予定を入れていることだろう。友達と遊ぶ人も、家族旅行に行く人も、おじいちゃんおばあちゃんの家に遊びに行く人もいると思う」
ここで、先生はちょっと目を吊り上がらせました。
「それが悪いことだとは思わない。しかぁし! 遊んでばかりで宿題をしないやつも、毎年いるそうじゃないか!?」
……先生、キャラ、変わりすぎじゃないですか?
「そこで、だ! 夏休み中に二日ある登校日に、テストを実施することにした! なお、点数が悪かった人は、追加で宿題が出るから覚悟しておくように。あ、二学期の通知表にも影響するぞ」
「「「ええええええええっ!」」」
耳がつぶれるかと思うほどの、大ブーイングっ! きっと、わたしを除いて、全員が声を上げていたと思います……。
「うそでしょっ!」
「マジかよーっ?!」
「最悪~っ!」
そんな声が、あちこちから聞こえました。
「よって、くれぐれも勉強を怠らないように。これでホームルームを終わりにする」
◇
――ふう、さっきのはすごかった……。
さっきの騒ぎがウソのように、誰もいないガランとした教室を見回して、ため息をつきました。
皆、そんなにテストがイヤなんですね……。わたしは、勉強は比較的好きなので、そのキモチはよく分かりません。
こう考えてしまうのも、わたしが陰キャだからでしょうか?
再びため息をつきながら、黒板の前に立ちます。
文字の上にサァーっと黒板けしを走らせると、はらはらと白い粉がこぼれていきました。
そう。見ての通り、わたしは、黒板消しをしています。
本来なら日直の仕事なのですが、どうやら忘れていたらしく。放っておけなくて、今に至ります。
はぁ、もうすぐ一学期が終わるなんて。本当に、時間がたつのはあっという間。
そんなことを考えながら、ひゅーひゅーと音をたて、黒板消しを動かしていると。
「あっれー! 小柴さんじゃんっ?!」
唐突に、元気な声が聞こえてきました。
振り返ると、ドアのところに、女の子の姿が。
ライトイエローのTシャツ、ジーンズ生地のハーフパンツに、七色のベルト。リボンで結んだポニーテールが、彼女の動きに合わせて、ぴょこっと揺れました。
この子は、確か……。
「ええっと……神崎さん?」
「そうそう! 同クラの、
やっぱり、神崎さんでした。
神崎さんは、クラスで一番明るい女のコです。たしか、小学三年生の時、この学校に転校してきたはず。
「どうしたの、帰らないのー?」
「あ、黒板消しが終わったら帰ります。神崎さんは、どうしたんですか?」
「あ、あたし? 忘れ物しちゃってさーっ」
そう言うと、机をガサゴソあさり始めました。でも、口も動き続けます。
「ねえねえっ! 柴田さーん、さっきのひどいと思わないっ?」
さっきの、とは、多分テストの件でしょう。
「ま、まあ……?」
「いいよねーっ、小柴さんは! 頭よくて……あっ!」
神崎さんは、作業を中断し、こちらに駆け寄ってきました。その目はキラキラと輝いています。
「小柴さんっ、あたしに勉強教えてくれない?!」
「えっ?」
「ねえ、お願いー! ピンチなんだよあたし!」
う……勉強は得意ですが、教えられる腕があるとは思えない……っ。
断ろうとして、はっと動きを止めました。
神崎さんは陽キャ、神崎さんは陽キャ……。
「はい、教えますっ。その代わり……!」
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