第3話 また助けられてしまいました……
ええい、まずはこのゴロツキどもか。未だ俺たちに向かってゆっくり動いているが、とりあえず顎に向かって蹴りを。
「や、め、ろ……! う、わ、あ――ガッ」
「ぐあッ」
よし。二人とも無事に気を失ったな。
それを見て金髪もスキルを切ったようで、ゴロツキはどさっと地面に倒れ込む。
これで一件落着……とは行きそうもないが。
「――この、最低の人買いは。再会して言葉まで交わしたのに、どうして私のことを思い出していないんですか……!」
「……どうしてもなにも。お前みたいなやつは知らん」
「この……っ。一度ならず二度も……! 忙しい私が、わざわざ暇を見て来てあげたというのに!」
憤る金髪娘。
しかし、何を言われても分からんもんは分からん。
如何にも貴族的な、きれいに手入れされた艶やかなふわふわの金髪。仕立ての良いコート。
それに、襟元からわずかに見える服は……聖職者の? ますます分からんぞ。
だが、かつて俺の奴隷だったルナと親しそうにしているところを見るに、まさかこいつも……?
「じろじろとデリカシーのない……! 私のことを覚えてもないのに、イヤらしい! これだから男はッ」
「……お前が言うから、思い出せないかと見てたんだろうが」
「一目で思い出せない時点で、貴方がどうしようもないクズなのは変わりないんです! だったら頭を下げて名前を乞うくらいしたらどうですか! ……ルナのことは、思い出したくせに……っ!」
なんだこのうるさい女は。なんでここまで言われないといけないんだよ。別に俺から助けてくれとも言っていないのに……。
ちっ。だが一応……ゴロツキを止めたのはこいつの仕業みたいだしな。
仕方ない、名前くらいは。
「……それでなんと言うんだ、お前の名前は。あいにく、お前みたいにキャンキャンうるさい知り合いは覚えがないんだがな」
「言うに事欠いてキャンキャン……!? この私を誰だと思って――っく、もういいですっ。貴方みたいな男に会いに来たのが間違いでした! ……やっぱり貴方にとっての奴隷なんて、金儲けの道具でしかなかったんでしょう!」
「ふん。別に、名乗らないなら名乗らないでいいがな。それに、奴隷は金儲けの道具でしかないだって? ――当たり前のことだ」
「この……クズ……っ!」
ハッ、なんなんだ一体。名乗らないならさっさと帰ったらどうだ。
さっき買ったこいつのこともあるし、ルナとも最低限会話くらいはしてやらないといけない。俺は暇じゃないんだ。
「ねえ、ちょっと落ち着こうよ。喧嘩するために来たわけじゃないでしょ?」
「そうですが……もう、この男のことは十分に分かりました……! 私たちが恩を返す必要はないです! ルナも聞いたでしょう? 私たちをただの道具としか思っていない、さっきの言葉を!」
「それは聞いたけど……。でも見てよ、腕の中のあの子。もう敵もいないのに抱いたまま。さっきの言葉が本心なら、さっさと歩かせてるんじゃないかな」
「どうせ私のことを警戒でもしてるんじゃないですかっ? ルナと違って、私のことはちっとも覚えてないようですし!」
「もう、私に当たってもしょうがないでしょ。シアだってヴィクターさんのことずっと探してたのに」
「それはっ。でも、私がバカだったんです……! こんな男、再会する価値もなかったんですから!」
「も〜。じゃあ、シアは先に帰る? 私は約束したから残るけど」
こいつら、俺を目の前に好き放題言って……。別に人でなし扱いは事実だから構わんが。
にしても、あの金髪娘の名前はシアというのか。確かに愛称がシアの奴隷に心当たりはあるが、こいつとはあまりにも性格が違うぞ。
それに、スキルだって違う。さっきこいつが使ったスキル、あんな力を使う奴隷に心当たりは……。
と、そう首を捻っていた、その時だった。
未だに言い合いを続ける二人の足元で、さっき俺が蹴倒したゴロツキの一人がピクリと動く。
それに気づいた時には――。
「さっきは、よくも!」
「――狙いは金髪か!」
男が起き上がり、何やら右手を光らせながら金髪娘に突き込もうとする。
位置的に俺から少し遠いが、周りを見ていなかったルナと金髪では!
――クソッ! せっかくほとんどスキルを見せずに済んでいたというのに!
やむを得ん!
「おい、動くなよ!」
そう叫んだと同時。ルナは抜剣しようとしてるが、不意を突かれて間に合わない。
一方の金髪娘はというと、なぜか俺に視線を向け。
――少し怯えた目に、甘ったれのように垂れた眉尻。助けを求めるような視線。
こいつ、やっぱり……もしかして。
「――お前。アナスタシア、か……?」
「――ッ」
目を見開く金髪娘――いや、アナスタシア。
当たり、か!
だが今は。ルナとアナスタシアに迫る脅威へ防御を――。
俺はスキルを発動した。
「【大気支配】!」
ゴロツキに向けた右手が光り、次の瞬間。
まるで見えない壁に遮られるように、虚空に攻撃を弾かれるゴロツキ。
「こい、つ……!
そして、体勢を崩したところへ詰め寄って、さっきより強く顎を蹴り抜く。
ゴロツキは悲鳴も出さず、地面へ倒れ込んだ。
そして、そばに来た俺に向かって。
アナスタシアは拗ねたように地面を見て言ったのだ。
「思い出すのが遅過ぎます……」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます