夢虫

ねこすけ

 夢虫


 俺は今、クソみたいな生活を送っている。

 

 ……恋人のサアヤが死んだ。俺が、俺がサアヤにプロポーズをしたあの日。渡した指輪を幸せそうに眺めていてくれたあの夜に……車にはねられて亡くなった。

 あの時と同じまんまのスーツを着たままビールの缶も捨てず、ひたすらにボーッとテレビを見ていた。

 

 ある日、偶然見たニュースがあった。研究目的で飼育されていた夢虫が研究所から逃げ出したらしい。しかも、夢虫は繁殖力が凄まじく、あっという間に飼育されていた時の倍に数が増えている。

 

 まぁ、そんなニュースは関係ない。サアヤがいなくなった俺は一体どうやってこの世界を生きていけば良いのだろうか。


 ボーッとテレビを見つめていると……ブーンッという虫の羽の根が聞こえた。どうやら窓が開けっぱなしだったようだ。


 そう思っているとチクッと首元に痛みが走った……少しすると、俺はひどい眠気に襲われた。


――――――


「おー……」

 

 誰の声だ?聞き覚えがあり、聞いていると泣きたくなるような声だ。


「おーい!優斗!どうしたのよ?デートの途中でいきなりボーッとしちゃって!私の新しいワンピース見てよ!」


 ……サアヤ?サアヤだ。なんで?どうしてサアヤが……


「なあ、サアヤ……お前、生きてるのか?」


「おいコラ、勝手に可愛い彼女を殺すな!ワンピースを褒めるどころか罵倒よりも酷いこと言わないでよ!優斗」


 サアヤはムスッと顔を変え「ワンピース可愛くなかったのかな……」と少し落ち込んでいた。


 あぁ、あぁ……あの時の可愛いサアヤが目の前で生きている。ということは、あぁ……きっとあれは夢だったんだ。サアヤは生きていた。


「ああ、可愛いぞ。お前のワンピース、俺が好きだって言ってたレトロワンピースだろ?よく似合ってる。可愛い彼女を持つってのは幸せだ」


 サアヤは幸せそうに顔を蕩けさせ、ウキウキとしながらデートを開始した。


 カフェでコーヒーを一緒に飲んだり、ショッピングモールで二人のペアリングを買ったりして幸せな時間を過ごした。


 数日後、俺はスーツを着て、ポケットの中に婚約指輪が入っているかを確認した。今日、俺はサアヤにプロポーズをする。

レストランでおめかしをしたサアヤに向かって、

 真っ赤になってあるであろう俺は、サアヤの前に跪き、こう言った。

 

「サアヤ、俺と……俺と結婚をしてくれませんか!?絶対の絶対に幸せにする!」


 こんなダッサイ俺のプロポーズを笑いもせずに、目に涙を浮かべてコクコクと首を縦に振るサアヤは……次第にボトボトと溶けていった。


 ……やめてくれよ、サアヤを消さないでくれ、俺のサアヤを溶かさないでくれよ。これは現実なんだろ?


 パッと目が覚めると……散乱した缶ビールの缶とたくさんのカップ麺の残骸。汚い部屋にはサアヤの姿はどこにもいなかった。


 ……あぁ、あれは夢だったのか。神様はひどいな、こんな幸せな夢を見た後に、現実なんかに戻ってしまったら

「生きたくなくなっちまうだろ……」


 ――――――


 幸せそうに、首を紐に垂らした優斗の部屋では、今だにテレビのニュースが流れていた。

 

 『ここで、夢虫に関する速報がございます。夢虫は、宿主の体内に産卵をして、宿主に幸せな夢を見せ、目覚めた後に自殺をさせるという習性があります。皆さま、夢虫に注意をしてください。決して夢虫の夢にムチュウにならないでください。もう一度言います。決して夢虫の夢にムチュウにならないでください』


              end……

 

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夢虫 ねこすけ @iloveyoumetoo

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