六 ショッピングモール② 

「ノートを遡るのかい? どれくらいあるの」

 私はたまぼごーろのプロフィール画面を改めてよく読んで、軽度の眩暈を感じた。

「八万ノート」

 私が頭を抱えていると、ミスキーガールが助手席から振り向いて訊く。

「.ioの何年生? いつごろ登録したの?」

「二〇二三年の二月だから、一年と数カ月前だね、すこしだけ私より先輩だ。それでもほぼ同じ期間で私が二万もいってないから、相当な『ミス廃』ではある」

 私はスマホをスワイプして、たまぼごーろのノートを遡ってみる。他のアカウントのノートを自分のタイムラインに再投稿する行為をMisskeyでは「リノート」というが、たまぼごーろののタイムラインには他の絵師たちのイラスト投稿をリノートしたものが多い。本人のノートもそれと同じくらいあったが、イラストの投稿以外にも「おはよー!」「おやすみすきー!」などの挨拶のカスタム絵文字だけのノートも頻繁に行われていた。

 スーパー偉業を後にして、Misskey.ioのサーバーの街へと向かう車中で、私はひたすらたまぼごーろのノートを読み続ける。すると、二〇二三年夏ごろのフォロワー限定ノートに、こんな文言が記されていた。



<もうFPSとか二度とやらんわーおもんねーわー>

<FPSがというよりFPSクラスタがもう嫌やねん>


「ベーコン太郎さん、たまぼごーろ君は、FPSについて何か言ってなかったかい?」

 私が訊くと、隣のベーコン太郎は首を傾げて見せる。

「どうだったでしょう、あまり聞いたことはなかったかも」

 そのとき、私の頭の中で何かが「噛み合う」音が聞こえた。「勘が働いた」とでも言い換えられるべきことかもしれない。

「ロン君、ゲーム関連の裏通りをもう一度探ってみよう、とくにFPS関連のチャンネルの裏通りを」

「了解」

 私の言葉に、ロンはぐっとアクセルを踏んで高速道路を加速する。

「それから、ミスキーガール、ベーコン太郎さん、これは私とリー君とロン君の三人で訊いて回ろうと思う」

「え? どうして?」

 ミスキーガールが目を丸くするのに、私は三列目の席のリーと目配せして、助手席のミスキーガールに言う。

「君たちが狙撃されたら私が悲しい。今回は少し待っててほしい」

「そんな、あなたが狙撃されたらわたしが悲しいのは一緒だよ」

 ミスキーガールの反論に、私は両手を合わせて拝むようにして言った。

「頼むよ、ここから先はとても危険なミッションになる。だからそうだな、現象ちゃんと不破ちゃんと一緒に、たまぼごーろ君ともういちど話せるように手伝ってあげてくれないかな」

 そうやって私がその場しのぎの提案をすると、ミスキーガールは不服そうに腕組みしてそっぽを向いてしまった。仕方ないのだ、こういうこともしなくてはいけない状況になりつつあるのだから。

 ランドクルーザーは高速道路を疾駆して、Misskey.ioのサーバーの大都会へ戻ろうとしていた。

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