アラカルト

宮藤才

第1話

 ある朝目を覚ますと、僕は50歳になっていた。

 いやある朝と言うのは正確ではない。確かに僕は50年生きている。しかし僕の記憶は幼少期から20歳を過ぎた時あたりでほとんど新しい経験記憶といったものが存在しないのだ。


大学を出て社会人になってから、30年近くを過ごした。そして3年前会社を辞めた。理由はいろいろあるのだが、どれが決定的なものだったかと言うと、1つとは言えない。様々な焦りや疑問や、葛藤が積み重なりどうにもならないほどに行き詰まってしまったのだ。そして会社を離れ、アルバイトや派遣仕事やら、様々なことをして、どうにか日々を暮らしていた。それと並行して正社員の道ももちろん探した。しかしどうにも上手く行かなかった。

 いちどドロップアウトした人間なら経験があるかもしれないが、この世の中と言うものは、一度大多数の集団を離れてしまうと、再び群に戻る、社会復帰をしようとする人間を許さないところがある。それはいわゆるホメオスタシスとも言えるかもしれない。人間は変化を嫌う生き物であり、新しい道に進みたいと言う人間を表向きには、応援したりもするが、いちどよそ者、敵と認定してしまえば、まるで今までの関係性が嘘だったかのように、冷淡にコミュニケーションそのものを断絶し、それを仲間同士で共有するのだ。そこに関しては、野生動物と変わらない。例えば狼が群れを離れるのは、その個体に問題があるか、弱っているかなどの理由があると言う。そしてときには群はその答えを噛み殺すことさえある。そう考えるのであれば、まだしも人間の方が優しいのかもしれない

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アラカルト 宮藤才 @hattori2525

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