第3話 感服する俺の話
ラシン様のこっそり収集していたご趣味の御本を、ふむふむさせてもらっていたらあっという間に4日がたってしまった。
ちょっと夢中になりすぎてしまったようだ。
最後の本を書棚に戻して、俺は気怠さに横になる。
もふっとクッションの敷き詰められたそこに体を預けると、深い眠りに誘われて、すぐに夢の国へ吸い込まれる。
ピュン!!
ピュン!!
カ、カカ、カカカカカ〜
カが多い〜
??
ハーおじいちゃんが歌っている気がしてハッと目をあけると、あたりはすっかり暗くなっていた。
テーブルには軽くつまめる焼き菓子と冷たいお茶が置いてあり、ラシン様が寝ている間にやってきたのだと知る。
そういえば、ちょっとお腹がすいたかも?
俺は立ち上がり、テーブルに向かう。
焼き菓子をもぐもぐしているとチカっとお庭に金色の輝きが見えた。
何かな?
窓際によって目を凝らす。
チカッ!!
強い光が放たれる。
よく見れば、庭の奥に小さな溜池がありそこで光っているようだ。
蛍かな?蛍にしては明かりが強いし……??
パチンと音がして部屋が明るくなる。
ラシン様が灯りをつけてくれたようだ。
「大師様、お目覚めでございますね。暖かいスープはいかがですか?」
「いただきます……あと、お庭が光っているんですが、お水のそばでは何を育てていますか?」
「??光ですか??……」
ラシン様は俺の質問に不思議そうにしながら、灯りを消した。
すると、じわわぁ〜と光りはじめ、同じ場所がチカ!とする。
「…………本当ですね……」
「ちょと見ても良いですか?」
「えぇ、確認しましょう」
ラシン様は庭に続く扉の鍵を外して推し開く。
少し冷たい空気がふわっと入りこみ、身体にまとわりついていた眠気が飛んだ。
外用のスリッパを用意してくれたので、それを履いて外に出る。
外は様々な草の匂いが濃厚に香っていた。
これは、見た目を裏切らない多様な種を栽培しているようだね?
俺は、今まで読んだ本の中に記載されていた民間療法の媚薬にされている薬草未満の草や花、昆虫の記載を思い出す。
「この庭は建物の中にありましてね……代々爵位とともに受け継がれてきたものです」
「歴史を感じますね」
一朝一夕にはできないお庭である。
この庭に集められた草や薬草は、大事に大事に今日まで守り育てられてきたのだろう。
「なので、手を加えることはほとんどなく、現状維持をつとめ、時々稀に新しい種が追加されます……奥の溜池は昔は黄金が湧いてくると言われていたんですよ」
「ほう!!黄金!!」
「それもあって、王に屋敷ごとの献上を迫られそうになったこともあります、当主は、溜め池に毒を放り込み毒沼にし、そのせいで200年ほどは枯れておりました」
葉っぱを『ごめんね?』しながらかき分けて湖のそばにいくと、黄金はさらに強くなった気がした。
水音がチョロチョロと静かに響く。
「13、4年前に突如、水が吹き出し今のように溜池に戻ったのです」
「ほうほう……それはすごいですね?」
なら、元のお水のように黄金が湧いてきたのかもね?
ワクワクしながら金色の光を探ると、そこには……金湧草がピョン!していた。
なるほど?この子が風に揺れて水面に映った光がキラキラしていたんだね?
「…………これは??……見たことない種ですね……」
「水が戻ったことで種が発芽したのかもしれませんね?」
薬草さんはゆったりぃ〜な性質をもつものも多いので、13年、14年かけての発芽もないことはない。
「本当に黄金のように光っていますね」
「金湧草ですから」
「?!」
ラシン様が驚きに俺を見る。
あ、知らなかった?
「私も見るのは2回目ですが、同じですよ?これは金湧草で間違いありません」
見間違うような色じゃないしね?
何より、なんとなくわかる。
最初の時は、多分?って感じだったが2回目なのでさすがに見間違うことはない。
「これが……金湧草??」
「金湧草はずっとは金色には光っていないので、朝になれば普通の草のようになります」
「そ、そうなのですか?」
「えぇ……金色になっている時にしか調合効果がでないので、調合時に金色に戻して調合するんです」
「な、なるほど……?」
「ラシン様、少しお水をなめても?」
「…………あの、毒薬で一度は枯らした水ですが……だ、大丈夫ですか?」
「…………大丈夫では?周辺の草に影響があるようにはみえませんし?」
何の毒薬かはしらないけれど、200年くらい前の話なら、効能は抜けているだろう。
というか、本当に毒薬をいれたのかも怪しいしね?
父上だったら毒薬をいれたふりをして溜め池を埋めるなり、湧水を別の場所に流すようなルートを作るだろう。
黄金付きならともかく、毒まみれの屋敷で生活するのは、ちょっと……と思うのが普通の感覚なので、毒薬を撒いたとした方が、有象無象の干渉を避けることができるからだ。
これほどの草や薬草を集めていたお庭を持っていた歴代の当主なら、当然、それらに影響が出る方法は安易に選ばなかっただろうと思うので、対外的には、毒薬を撒いたとして欺いていた可能性の方が高い。
「……私の作ったもので恐縮ですが……一応解薬をどうぞ」
「ありがとうございます」
基礎薬の瓶を受け取り、蓋を外し、いつでも飲めるようにスタンバイしてから、しゃがんでお水を一口いただく。
ふむ?……まろやかなお水??
いや……後味に、舌の先に本当にわずか、若干だが……硫黄の匂いがつく。
これ、温泉じゃないかな?
すっかり冷めているが、なんとなくただの水とは違う感じがする。
「大師様」「あ、はい」
促されて、基礎薬で解毒をする。
む?甘い?
かなり腕の良い薬師が作った基礎薬のようだ。
……ほう?
父上と同じグランドマスタークラスと言っていたが、ラシン様の調合の腕は父上を軽く凌駕するSUGEEEな技量だ。
このレベルの基礎薬は、初めて出会う。
今まで旅したどの国の薬師達よりも腕が良いのは間違いないだろう。
「素晴らしい基礎薬ですね」「?!」
「絶え間ない研磨の歴史を感じる基礎薬です」
間違いない!!この基礎薬は大陸一の基礎薬である!!俺ですら、敵わない基礎薬であると
認めよう!!
「素晴らしいお手前です。私が出会った中で最高の基礎薬です!!」
彼の腕は俺よりもちょっぴりいい!!
大陸はとても広く、薬師さんも国によって多種多様である。栽培が得意な薬師さん、調合が得意な薬師さん、華おじいちゃんのように知識が沢山の薬師さん!!薬師といっても色々な分野があり、皆、得意分野が違っている。
そして、彼こそが、調合が得意な薬師さん!なのだ。
俺も調合は大好きだ。だが、まだまだであった。最近、外国に出て知らないことを学ぶことに夢中になっていたが、やはり調合は毎日して、腕はまだまだ磨かねばならない。
「ラシン様、ありがとうございます。私はどうやら慢心があったようです……あなたの基礎薬によって気付かされました。上にはまだ上があるのだと……」
「………え?……は?」
「私も腕を磨き、貴方のような薬師になります」
「!!……た、大師様……その、私よりも大師様の方がよっぽど」
「いえ、私の調合の腕は貴方よりも劣るのです。この基礎薬が明らかにしております」
「……」
俺のはっきりとした敗北宣言に、ラシン様は開きかけた否定の言葉を飲み込んで、じっと俺を見る。
カァーンした仲間であるが、俺は、今彼を改めて好敵手!!と認定し直した!!
俺は彼の基礎薬を超えてみせる!!
「……大師様が、そうおっしゃるならば……」
ラシン様はじっと俺を見て少し照れをうかべた。
「……大師様は、実にまっすぐでいらっしゃるのですね……」
「??」
俺が首を傾げると、彼はふふっと笑む。
それは、以前の時とは違って心の底からの笑みで、感情がのったものであった。
「私が貴方のお立場ならば……一番になれるならば……認められないように思えます」
「……勿論、私も一番を目指していますよ?だからこそ、自分よりも素晴らしいものは認めるのです。私の知らない事を知る薬師達の叡智もまた一朝一夕にできるものではなく、私のように一番を目指そうとする者達の積み重ねなのです……それらの素晴らしさは否定できません」
「……」
彼は目を丸くする。そして、静かにわずかに視線を月明かりに向けた。
「なるほど……そういうお考えもたしかにあります……ね……」
その言葉は、夜の闇と少しの肌寒い気温のせいか、少し寂しい感情が混ざっているようにも響く。
「……大師様……なぜ、私たちが『惚れ薬』にこだわったのか……お話をしてもよろしいでしょうか」
「……えぇ」
彼は近くの椅子にハンカチを敷いて席を促すので、俺はそこに座った。
彼もまた隣に座る。
「あの物語が実話だと以前にお話ししましたが、あの騎士の思い人こそが、私の一族の者だったのです」
「………ほう」
なるほど。そういえば、あの恋敵は、お姫様と結構いい勝負していたよね?
絶対王政の貴族社会において、お姫様という位の高い身分の彼女が、騎士様に惚れた時点で、有無を言わさず普通なら結婚、なんだったら恋敵はこっそり処されて闇に葬られる流れである。だが、劇中、社交界で堂々のマウントをしあったりしていた二人である。
騎士様の思い人(婚約者)の家も結構な家格のやんごとないご令嬢だったと言われれば、二人が対等な関係だったのは納得である。
「結婚式で騎士に花嫁を選ばせるという最後の審判の日、姫は惚れ薬を騎士に飲ませます……それによって騎士は姫を選ぶのですが……あの惚れ薬を作ったのもまた我が一族なのです」
「……ふむ、大人の事情を感じます」
俺の感想に、ラシン様は苦笑いを浮かべる。
「『惚れ薬』はあった……そう証明されています……ですが、後年我が一族がどれほど挑戦してもその薬はなしえなかった……その事で『惚れ薬』は成功していなかったのでは……とも言われております」
「…………すみません、よくわからないのですが、ラシン様一族はどちらを証明したいのですか?」
「……」
ご先祖様の名誉にかけて『惚れ薬』はあったという証明がしたいのか……それともご先祖様が完成された薬は『惚れ薬』ではなかった……すなわち、騎士が思い人の彼女を当然に選ばなかっただけなのだとしたいのか……。
前者は家の不名誉な噂を払拭し、後者は姫の『惚れ薬を使って男を横取りした』という不名誉を払拭することができる。
「さぁ……どうだったのでしょうね……」
それは、かつての先人達が挑み続けた道で、たしかに動機となる何かがその時にはあったのだろう。
だが、あまりにも長い年月をかけて歩いてきた道になったため、先人から渡されたものを成すことだけが全ての目的になってしまったのだ。
「私は……もし人の心を変えられる薬があるのなら……使ってみたいと思う心はあります」
ふむ?……誰かにではなく、その使ってみたいは彼自身だよね?
「全てを投げ打ってでも誰かに夢中になる……そのような感情を味わってみたいと思うのですよ……」
「…………なるほど……」
武人が、戦場でのギリギリの状況でハイになるあの感じと同じ?
辺境は強い男を見ると戦いたくてウズウズする気質があると大隊長達に聞いたが、そういう中毒性に似た感じ?
ただ、どうだろうか。
そのお薬で、本当に感情まで動かせるのだろうか?俺はちょっと眉唾だよ?
中毒で思い出すのは、グローススローちゃんだが、あれも『よくわからないけど、なんとなく食べたくなる。』みたいな感じになるらしい。具体的な美味しいの内容がいまいち掴めないので、記憶のみに作用するようだ。
そういう感じに、脳の伝令にバグを起こさせるだけのお薬だとしたら……誰かに夢中になる感情は味わうことは難しいであろう。
ふむ、そう考えると『惚れ薬』の効能は、もしかしたら、記憶に関するもの……記憶を改竄する効能かも知れない。
既存のレシピの中には、意識障害、記憶混濁などの効能を引き起こすものがある。毒薬に分類されてるが、国家機密を知るような国の中枢の人が退役したり、離職した時に服用することもあり一定の需要がある。
つまり、記憶系に関する効能をピンポイントに与える薬もなくはないのだ。
それと、実の所、このレシピの材料がそうではないかと疑る理由でもある。
カカカカカ草の調合で出来上がる薬は『除去薬』である。身体の中に入った異物だけを取り除くというピンポイント機能だ。
この効能が基本と考えると『ピンポイントで記憶を除去する』というのもなくはない。
『惚れ薬』の構成としては、カカカカカ草の力で、まず一旦ピンポイントで記憶を除去し、そのあとマニ草と龍鱗木の力で、なんらかの効能(近くにいる人を好ましく感じる等々)が入るのではないかと推測される。
マニ草も龍鱗木についても俺が知る情報があまりにも少ないため、なんらかの効能についての部分の推測もし辛いのが現状だ。
あと、それはそれとして、ラシン様も美しいので、きっと祖先の騎士の思い人も相当に美しかったのだろうと想像する。
お姫様に求愛されれば普通の貴族なら王家を選ぶ。いくら権力持ちといえど、先約の貴族家に操を立て続けた騎士は、かなり本気で惚れこんでいたのだろうと推測できる。
ふむ……?あの劇、よく考えたらかなり王族の姫さまをばかにした内容じゃなかった?
最終的に騎士が選んだのは姫であったが、それは惚れ薬の効能であるとされてきた。
というか惚れ薬というドーピングまで使われて、思い人は裁定無効を訴えなかったの?
父上だったら、絶対に泣き寝入りしないで『抗議!裁定無効!』の申し立てをするだろう。
うん??
ちょっとまてよ??
……。
騎士様を辺境に置き換えると……。
辺境に恋した姫様が、メリッサ家(父上)との仲を割こうと奮闘する話である。
あれこれするが父上SUGEE!すぎて歯が立たなかった姫様は『惚れ薬』を所望する。
しかもお薬担当はメリッサ家!
……。
惚れ薬を作ったのは父上だよね?
え?まてよ?つまり、父上が惚れ薬を作っちゃったなら、その時点で『もう辺境いらねぇし、もってけ!』みたいな気持ちってことじゃないかな??
現実、メリッサ家と辺境伯家の関係からはそれはないけれど、この国のラシン様のご先祖様と王家ではそういう話があったのだ。
……。
騎士に飲ませたのは惚れ薬……?
ラシン様の一族はどんな気持ちで、何を目的にしてそのお薬を作ったのか??
劇中、騎士はずっと、思い人に夢中だった。
一つの心を乱されることなく、ずっと思いを人をお慕いし続けていた。
彼は真摯な愛を貫き……。
最後に最愛の人が贈った薬に屈したのだ。
『騎士様とお姫様は仲睦まじく幸せに暮らしました』
姫も騎士も幸せになったんだよね?
騎士も幸せに暮らしたの?
あんなにずっと慕っていた思い人を捨てて?
ルイたんならすぐに解ける恋愛問題であるが、大人の一歩を踏み出したばかりの俺にはちょっと難しい問題のようだ。
「ラシン様、この国の王家の歴史を知りたいのですが、資料はありませんか?」
「?……ありますが……王家のですか?」
「えぇ、そこに惚れ薬の重要なヒントがあるかもしれません!」
俺の言葉に、ラシン様が驚き眉をあげた。
丁度、雲がゆっくりと動き出して、月明かりがラシン様に差し込む。
その白い肌が、月明かりの黄金に照らされ、とても美しく妖艶に輝く。
やはり、ラシン様はとても美人である。
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