ホライゾン・トワイライト
@tetugensou
地平線の夕暮れ
これは、私の思い出の一つ。
リンちゃんと会えた話・・・・・・
──去年の2学期の初めの頃──
学校に来なくなった大親友の訃報を知らせれた
暑さが残り、虫の音が響く日だった
原因はいじめ
そこから私の時は止まりっぱなし
いじめの主犯は変わりなく学校生活を送っている
私の親友を奪ったくせに
誰とも話す気が無くなった
再び失うのが怖いから
学校に楽しさを感じなくなった
どうでもいい授業を受けるだけ
そんな生活にもほんの少し慣れた中学3年の春
クラス替えで一緒になった子
顔見知りで名前も知らない
「琴音ちゃんだよね?」
「・・・・え?」
いきなり話しかけられて困惑した
「あたしリン!これからよろしくね、コトちゃん!」
「えっと・・・・何ですか急に?」
「友達なんだし敬語じゃなくていいじゃん?あたしことはリンちゃんって呼んでね!」
差し出された手を握ろうとは思えなかった
少し目を逸らすといじめの主犯達がヒソヒソと話してる
しっかり見る間もなく
「ねぇ~え~、握手は?」
と、視界に顔を入れて来る
無言で握手した
どうやら私は“リンちゃんの友達”になったらしい
次の日も、その次の日もリンは私のところに来た
「ねぇコトちゃん眠たいよぉ、寝てない自慢してもいい?」
「・・・寝ればいいじゃん。」
気づけば言葉を返していた
「コトちゃんようやく話した!」
ハッとした時にチャイムが鳴って授業が始まった
案の定リンは寝てた
授業終わりも、移動中も
「爆睡したわ、だからもう寝ないわ!」
「・・・あっそう。」
「リアクション薄~、もうちょい何か話してよ。」
「急いでるから。」
そう言って私はそそくさと理科室に向かう
小学校が同じな訳でもなく、部活も違う
それなのにいつも話しかけてくる
季節が巡って中間テストも終わった頃
地味な嫌がらせをしてきてた主犯達は、ピタリと何もしなくなった
「コトちゃん、あたし数学のテスト爆睡して0点だったよ。もう逆に凄くない?」
「・・・平均点下げてるじゃん」
夕暮れの下校中
リンとだけは話せるようになってきた
「てかさぁ~、数学のおっさんウザくない?平均点低いぐらいで怒鳴り散らしてさぁ。」
「・・・でもそれリンちゃんのせいでもあるじゃん。」
しばらく間を開けた後
「ねぇコトちゃん、もっかい言って?」
「え?」
何かヤバいことを言ったような気がした。でも
「今リンちゃんって言ったよね!?」
気づいたらリンちゃんって呼んでいた
「・・・別に、聞き間違いでしょ。」
そう言いながらも赤くなった顔は誤魔化せない
また一つ、自分の中の何かが変わった気がする
リンちゃんはどうやら前から人気者らしい
私と話してない時でも基本、誰かと話してる
でも帰る時とかはいつも私のところにいる
廊下を歩いてる時、主犯達が嫌がらせをしているのを見た
私は声を掛けられなかったが、リンちゃんは一直線に向かって行って
「もう、やめなよそういうの。」
そう言うと主犯達は離れていった
「そんじゃ、コトちゃん行こ~」
リンちゃんのいる場所に居場所のような何かを感じる
数週間経った日、体育館で校長がどうでもいい話をしている
「もう夏休みなので、え~怪我に気を付けて・・・・」
そんな話を聞かされている中で
「暑~い、あのハゲいつまで話すんだよホント。」
リンちゃんはブツブツと文句を言っていた
「もう少し静かにしようよ。」
「いいじゃんこんぐらい、てか夏休み入ったら何する?」
「・・・特に決めてないけど」
「じゃあ遊ぼ!」
校長の話を無視して夏休みどこに行こうかを話し合った
あーだこーだ話した後、プチ旅行をすることになった
当日、駅で待ち合わせて田舎の古い2両編成の列車に乗る
鈍めの音を響かせて走る列車の中は夏の匂いが漂う
プチ旅行と言っても列車に乗ってどこかへ向かうというだけ
一時間ほど経ってから降りた駅はホームが一つしかない古臭い駅
木の匂いがする待合室を抜けたところで風が吹いた
「お~っとっと、危ない危ない。」
リンちゃんが大きな麦わら帽子を押さえる
「こっちこっち~」
風に髪を靡かせながらもどこかに向かった
草の道と古びた住宅街を抜けた先には踏切があり、そこから先は潮の香りがする海が広がっていた
目の前を列車が通り抜けていく
私もリンちゃんも景色に見惚れていた
しばらくしてから
「コトちゃん、海だよ海~!」
そう言ってリンちゃんは砂浜に走った
私もそれを追いかけて、波を見てリンちゃんと一緒に遠ざかって
しばらくしてリンちゃんが
「キャッチして~!」
と言った瞬間、麦わら帽子が飛んできた
急いで取ったと思ったら、後ろにそり過ぎて倒れそうになる
「コトちゃん危ない!」
リンちゃんが走ってきて私の手を握ったが、時既に遅く
バッシャーン!──
二人とも海に倒れた
「うわ~、びしょびしょだ。コトちゃん大丈夫?」
「・・う、うん」
結局、岩場に寝そべって乾くのを待つことにした
暑い日差しと光を反射してギラギラ光る海を見ながら過ごした
「これって青春だね~」
「・・・そうかなぁ?」
「青春だよ~・・・うん。」
他愛もない会話にカモメの声が挟まる
そんな時間をどれだけ過ごしたかは覚えてない
気づけば空は夕焼け模様に変わろうとしていた
「そろそろ帰るか~。」
立ち上がったリンちゃんは砂を掃って、海を見つめてから駅の方向に向かった
「コトちゃん、疲れた~。」
「私もだよ。」
「ねぇ、少し寝てもいい?」
「え?まぁいいけど。」
そう言うとリンちゃんは私の肩に寝始めた
まだ乾き切ってない髪の毛が頬に少しだけ当たる
窓の外から見える夕焼け空を私は見続けた
大親友と最後に遊んだのもこんな感じの空だった気がする
列車は段々と暗くなっていく空を駆け抜けていく
乗換駅でリンちゃんを起こした
お互いが列車に乗ること自体慣れて無かった為、次の列車では私が寝た
「コトちゃん、もう着いたよ~。」
目を覚ますとそこはいつもの風景、いつもの小さな町に戻っていた
街灯の光が微かに照らす薄暗い夜道
「あたし達親友だね~。」
“親友”そのフレーズにどこか懐かしさを感じた
それから、夏休みはよくリンちゃんと遊んだ
いつもぶかぶかの麦わら帽子を被って来た
そんな夏休みも終わってまたいつもの学校生活に戻ろうとしていた
でも、今度の始業式は嫌な気がしない
多分リンちゃんがいるからだと思う
体育館で行われた始業式、やっぱりリンちゃんは文句を言っていた
友達はリンちゃんしかいないけど学校は楽しい
私の心の悲しみを吹き飛ばすようにリンちゃんは話しかけてくれた
夏も終わり紅葉と稲穂が下校途中の道を包んだ
「あたしもコトちゃんと同じ高校行く!」
唐突にそう言ってきた
「でもリンちゃん行きたい私立の高校あるって言ってたじゃん。」
リンちゃんは首を振って
「だってコトちゃんいないから~。」
と言うことで私とリンちゃんは模試を受けた
後日の結果で私はB判定だった
次の日、学校でリンちゃんの席に行くと珍しく落ち込んでいる様子
「どうだった?」
私が聞くとリンちゃんは一枚の紙を見せてきた
詳細な点数と大きなDの文字
まぁそんなことだろうと思った
「じゃあ、今日から勉強だね。」
秋の終わりから勉強習慣が始まった
基本的には放課後の図書室で勉強
リンちゃんの心はとても折れやすいことを知った
「ねぇ~、分からないし。てかこれ絶対ムリじゃん!」
「も~、だからこれはこうして・・・・」
あっという間に時間が溶けていった
秋の景色も消えて冬が始まろうとしている
昔、親友とここで勉強したことをふと思い出した
「コトちゃんどしたの?」
リンちゃんが首を傾げながらこっちを向いた
「昔の友達のことを思い出しただけ・・・・」
「ふーん・・・・」
窓ガラスに吹き込む風の音が微かに聞こえる
しばらくしてリンちゃんが
「私なら忘れて過ごすかな。」
と言った
でも、忘れられるようなことではない
ニコっと笑ったリンちゃんは
「あたしがそばにいるから、ね?」
そう言ってまた勉強に戻った
そんな日が続いて外はもう雪で白くなり始めている
2回目の模試で私はAを取れた
翌日、校門の前にリンちゃんが立っていた
「コトちゃん、見て見て!」
嬉しそうに見せてきた紙にはBの文字
「頑張ったよあたし!」
肩を掴んでぐいぐいしてきた
「分かったって、分かったから落ち着いて。」
リンちゃんは大親友を失った時の心の穴をふさいでくれる
でも、何かが引っ掛かった
こんなに仲がいいのに、よく分からない違和感がした
リンちゃんが変わった人なせいだろうか
「雪って汚れを払うって意味があるだって~」
得意げに話すリンちゃんを見るのが楽しかった
「じゃじゃーん、給食のあまりのパン~!」
下校中にそれをおいしそうに食べていた
揺れるマフラーと白い吐息をボーっと眺めて
「そんな目で見ても分けないからね?」
そう言われて目を逸らして
「別に、私はいらないけど。」
そう言ったらリンちゃんは笑って
思わず私も笑って
久しぶりの楽しい日常。
積雪がピークに達した正月
人混みの少ない小さな神社で初詣をした
もちろんリンちゃんもいる
(今度は失いませんように)
手を合わせて静かに願った時
「コトちゃんと一緒にいれますよーに!」
と大声で言った
リンちゃんらしい願い事だ
「あんまり大声で言うことじゃないでしょ。」
「何でもいいじゃんそんなこと!」
段々と雪が解けて来る時期
ほんの少し緊張しながら臨んだ受験本番
部屋にはペンを滑らせる音が絶えない
少し首を痛めながらもほぼ全て解いた
最後の教科が終わってリンちゃんと合流する
「リンちゃんどうだった?」
「大体全部解けた!」
やり切ったような顔を見て少しだけ安心した
「あたし絶対受かったから、だからコトちゃん落ちないでね!」
学校でほぼ毎日言われてた
雪も解け切って寒さが和らいだ合格発表日
合格者の数字には私の番号とリンちゃんの番号が並んでいた
目を見開いて番号を見つめるリンちゃんの肩に手を置いて
「良かったね。」
そう言うと大きく頷いた
その日の夜、私は親友の夢を見た
と言ってもメールを打っているところ見てるだけ
そこで目が覚めた
そしてふと思い出した
自室の押し入れの中を漁った
すると、去年まで使っていた古い携帯電話があった
バッテリーを入れて起動してみると親友からの着信メールが一件だけあった
送信時刻は親友を失う1分前
訃報を知らされるまで着信に気づかなったメール
怖くてずっと読めずにしまっておいた
リンちゃんがいる今ならなんとなく読める気がする
恐る恐るメールを開いた
「まずはごめん、多分もう会えないから
いじめられてることを言えなくてごめん
でも、琴音ならきっと新しい親友ができるよ。」
私はメールを黙々と読んだ
そして最後に少し引っ掛かった
「でも気を付けてね、いじめの本当の目的は私じゃなくて琴音だから。」
私は心の中の謎が解けた
信じたくない仮説が出来上がった
次の日、学校に着くといつも通りにリンちゃんが話しかけてきた
そして放課後、屋上で会う約束をした
昼休みになってリンちゃんがどこかに行った隙にカバンを見た
中から見慣れたリボンが一つ
予想が確信に変わった
放課後、約束通りに屋上に向かった
廊下の蛍光灯がチカチカ光っている
階段を上り屋上に着くとリンちゃんがいた
いつも通りの無邪気な笑顔
「コトちゃん話ってなに?」
柵に寄りかかった後、カバンからリボン出した
「このリボン、この場所で昔の親友に渡したの」
リンちゃんに見せると途端に青ざめ、動揺した
「・・・・やっぱり」
私はポケットからナイフを取り出してリンちゃんのお腹に突き立てた
「私の親友を奪ったのはリンちゃんなんでしょ?」
「なっ、なに言ってんの?そんなわけないでしょ!」
「いじめてた奴らがリンちゃんの前でおとなしいのも、いじめを仲裁したことに文句を言われなかったことも
リンちゃんが手を回していたからでしょ?」
リンちゃんは固まった
「このリボン、親友は失くしたって言ってた、だから学校中探したけど見つからなかった
でも、それがリンちゃんのカバンの中にあったんだよ。」
「・・・・そうだよ、私が犯人。」
ようやくリンちゃんが口を割る
地平線が夕焼け色に染まっていた
「・・・どうして、どうしてそんなことしたの?」
「それは・・・コトちゃんに私を大事にしてほしかったから。
リンちゃんの心情がようやく分かった
「コトちゃんの親友羨ましかった、私も大切にされたかったの。」
「だからいじめたの?」
「・・・・うん。」
私はリンちゃんにナイフを刺そうとした
でも、途端にリンちゃんと過ごした思い出がフラッシュバックし始める
脳裏に焼き付いたリンちゃんの笑顔で視界が揺れた
手が震えてナイフを離す
「やっぱり殺せない。」
「コトちゃん・・・」
私はリンちゃんを許せなかった
罪を償って欲しかった
でも死んで欲しくなかった
なら、出来ることは一つだけ
「リンちゃん・・・」
「・・・何?」
「ごめん。」
「えっ?」
「同じ苦しみを味わってね・・・・そしたらまたいつか会おう」
そう言って私は屋上から飛び降りた
「コトちゃんダメ!」
リンちゃんが伸ばした手が届くことは無かった
ドサッ──
カラスの声に混ざる鈍い音は私の耳にも聞こえた
(あぁ、即死じゃないんだな)
階段を駆け下りて来たリンちゃんの声が聞こえる
リンちゃんは血まみれで横たわる私にしがみついて泣いた
夕焼け色を通した大粒の涙が手に伝わる
上手く言えたか、聞こえていたかは分からない
「さようなら、リンちゃん・・・私の大親友。」
それから私が目を開けることは無かった
──ホライゾン・トワイライト・完──
ホライゾン・トワイライト @tetugensou
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