第21話

冬休みを目前に控えた教室には、独特の緊張が漂っていた。

 どの顔も試験のことを考えているのが見て取れる。ノートを抱えて歩く者、過去問を小声で回す者、誰もが少し尖った雰囲気を纏っていた。


 そんな中、PBLの討論授業が始まった。課題は「微熱と咳を訴える患者の鑑別診断」。

 颯真のグループは8人。若い学生5人と、30代と思しき男女2人。そして颯真を加えた顔ぶれだった。


 議論が始まると、若い学生たちが次々に声を上げた。

「風邪じゃないかな」

「でも、咳が長引いてるってことは……」

「肺結核もありえるでしょ」


 声は熱を帯びていくが、方向性は定まらない。紙に走り書きされたメモは線が入り乱れ、議論は散漫になる一方だった。


 颯真は静かに全員の言葉を拾い上げ、淡々と口を開いた。

「咳の期間に注目する視点は大切ですね」

「熱の程度から見れば、感染症の可能性が高いでしょう」

「では、これまで出た意見を合わせると……肺炎が候補に挙がるのでは?」


 誰かの意見を否定するのではなく、すべてを材料にして組み立てる。

 落ち着いた口調に、ばらばらだった流れは次第にまとまり、最後には全員が「なるほど」と頷いていた。


 討論が終わり、机を片づけながら、若い女子学生が笑顔で言った。

「颯真さんって、教授みたいです!」


 他の学生たちもつられて笑う。

 颯真は軽く手を振り、苦笑で受け流した。


 だが、同年代と思しき男性が真顔で言葉を添えた。

「いや、本当にそう思います。落ち着いて導いてくれて……教授そのものですよ」


 さらに女性の同年代も続ける。

「わかります。私なんて、学生同士で話してる感覚じゃなくて、先生の横で講義を受けてる気分でした」


 一瞬、空気が止まった。

 若い学生たちは「やっぱりそうなんだ」と妙に納得顔で頷く。


(……いや、同年代ぐらいは、せめて同じ立場でいてくれてもいいだろう)


 颯真は内心で小さくため息をついた。

 教授扱いが悪いわけではない。だが、距離感を縮めるどころかますます遠ざかっていくような気がした。


 それでも表情は崩さず、彼は静かにノートを閉じた。

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