ニ 実践
確か言い出しっぺはアヤカだったと思う。それにユウリもノリノリで賛同し、わたしはそれほど乗り気ではなかったものの、二人の勢いに流されてなんとなく…という感じだった。
いくらハードルが低いとはいえ、さすがに実際やってみようというような物好きは、わたしの知る限り他にはいなかった。アヤカもユウリもヲタ気質のくせして、意外とそうしたアクティブな面を持ち合わせていたりもする。
土曜日、わたし達は最寄りの百均で手袋と綿と赤い糸、紙製の頑丈そうな小箱を購入し、続いて駅前のゲームセンターへ行くと、一人づつ証明写真のようにプリクラを撮った。もちろん手袋の人形に入れるためのものである。
それから土日を使って各々に家で準備を進め、週明けの月曜、手袋人形入りの箱を携えていつもより早くわたし達は登校した。
箱を隠す場所に選んだのは、今は物置として使われている学校の空き教室だった。嘘か
まあ、いかにもな話だし、ガセな可能性の方が高いのだが、そんなウワサのせいでほとんど人も寄りつかないし、反面、通っている学校内という行き易さからしても絶好の隠し場所である。
まだ登校する生徒もまばらな朝の静かな校舎内。それでも人目を気にしつつ、わたし達は空き教室へと忍び込む……忍び込むとはいっても、鍵がかけられているわけではないので入るのは簡単だ。
「ほんとに幽霊見えるかな? 見えなくても声とか聞こえたらスゴイよね」
「せめてラップ音くらいは起きてほしいよねえ」
予備の机と椅子が積み上げられた埃っぽい迷路を掻い潜り、掃除用具入れのロッカーに三つの箱を隠し終えると、アヤカとユウリが期待に眼を輝かせている……二人の左手の人差し指には小さな絆創膏が貼られており、おそらくは人形に入れた自身のプリクラに血を塗るためにつけた傷だろう。
「う、うん。そだね……」
そんなハイテンションの二人に対して、オカルト好きだけどけっこうビビリなわたしは、表向き生返事を返しつつも、もし本当に怪異が起きたらと考えると今さらながらに効果のないことを願っていた。
それから自分達の教室へ戻り、しばらくすると他のクラスメイト達もやって来て朝のホームルームが始まる……続いて、いつも通りに一時間目、二時間目…と授業が繰り返されてゆき、気づけば特に何事もないまま、この日は放課後を迎えてしまっていた。
二人には申し訳ないが、わたしの密かな願い通り〝ロクブテさん〟の効果は期待外れだったみたいである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます