An apple
代高千草
第1話
林檎が皿の上に乗っていた。
俺は、かつてそれを手掴みで食べた。そう思い出す。
やがて、フォークとナイフを握った俺は、それをどうにか脚色して、不器用ながら見れる形に成形する。暫く苦闘して、ある程度にはなったが、それで完成させるのは無理だと悟った。なので、林檎を食べることにした。
フォークで口に運び、林檎を噛む。瑞々しさの欠片もなく、なのに何故か青臭い、未熟な果実。なのにぐずぐずに腐敗していて、吐き気を抑えながらなんとか嚥下しても、舌の上に繊維が残る。ひどく苦い。なのに、時折感じる甘味が、これは林檎なのだと主張していた。俺はそれに縋ってしまうだろう。これを食べ続けていても、疲れてしまうだけだ。こんなものは食べる気にならない。どうか、柘榴を。
俺は、右手側にあったナイフを見る。
そこに、初めから柘榴はあった。俺はナイフを手に取り、おもむろに首筋に当てる。ひんやりとした金属の感触。皮の薄い部分を優しく撫でると、たらりと果汁が溢れる。それが恐ろしいほどに蠱惑的で、甘美で。俺は、ひどく恐怖した。直後に走る、声も出ない程の激痛。手が震えている。やはり、俺は柘榴を食べられなかった。
赤く濡れたナイフをクロスでそっと拭い、再び林檎のような物体を見下ろす。意識を手放したくなるような苦痛。皿の上の蛇が蠢いている。柘榴をまた手に取れば、楽になれるだろうか。そう考えてあちら側を見ると、そこには神性が転がっていた。
有翼の乙女がこちらを見ている。俺はそれから逃れようと、黄金の果実に手を伸ばす。届くはずもない醜い永遠は、彼方で残酷にも輝いていた。
An apple 代高千草 @YodaCa
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