第4話 『炙りカルビ浴びるほどアビゲイル』

「トリックオアトリート!」

「おぉ、いらっしゃいませでござる、お二方!」


 菓子袋の詰まったかごを持ち店の前で客引きをしていた狼男にお決まりのセリフをぶつける。


「化けたな、タキザワ氏!」


 もふもふミトンにつけ耳&尻尾、おまけにどうやってつけているのかマズルまで。どこからどう見ても立派な狼男である。少々むちっとしたボディも相まって、かなりの似合いっぷりである。


「はっはー。どうでござる。この完璧な狼男!」

「いやぁ、すごいすごい」

「さよ香殿からも大層好評でござってな。もふもふで可愛いと! ははは、拙者、本日は可愛い系でござるぞ」

「いや、タキザワ氏はいつも可愛い系ですよ!」

 

 ひょこりとひゃくたん魔女が割り込む。


「おお、こちらは何と麗しい魔女っ娘であろうか! よくお似合いですぞ、ひゃくたん殿!」

「えへへ、ありがとうございますー」

「喪神殿? 喪神殿の反応は如何に?!」

「それはそれはもう、『よく似合ってる』とお褒めの言葉をいただいて」

「ふほう! それは何よりでござる!」

「い、いや、俺はその……」

「それに、喪神殿のミイラ男もすごいでござる! 喪神殿とわからないくらいに包帯ぐるぐるなのに、隠しきれない強者感!」

「強者感の意味はわからないけど、でも、すごいだろ。これなら知り合いに見られても大丈夫だ」

「その辺の配慮がさすがでござるなぁ、ひゃくたん殿は」


 うんうん、とタキザワ氏が頷くと、ひゃくたんは少々不服そうな顔をして、「でも本当は」とスマホ画面を彼に見せた。


「こういうドラキュラとかが良かったんです」

「おお、これは色男イケメェンにしか許されないやつ!」

「ミトコンウォリアさんに似合いそうだと思いません?」

「うむ、間違いないでござるな。喪神殿はシュッとしてござるし」

「おいおいおいおい、待て待て待て待て。こんなの絶対駄目だろ! 顔丸出しじゃないか!」


 などと店先で盛り上がっていると――、


「いらっしゃいませ~」


 店の中からさよ香さんが出て来た。さすがに飲食物を扱う店員が毛足の長い動物系の仮装をするわけにはいかないのだろう、彼女はタキザワ氏と併せての狼女ではなく、シスターの格好をしている。成る程これなら髪の毛もベールの中に全部しまえるし、衛生面の観点からも問題ない。


「わぁ、さよ香さん! 可愛いシスターですね!」

「うふふ、ありがとうございます。カオルさんも素敵な魔女さんで」


 どうやら彼女から『カオルさん』と呼ばれているらしいひゃくたんは、「写真撮っても良いですか?」とはしゃいでいる。そんな二人を菩薩のような顔で見つめるタキザワ氏である。


「タキザワ氏」

「みなまで言わずともわかるでござる。あいや、絶景。そうは思わぬか?」

「いや、俺は」

「そろそろ素直になってもよろしいのではござらんか?」

「その、なんていうか」

「なかなかおらぬでござるぞ? オンの喪神殿を知りながら、HONUBEの姿を見てもドン引きしないのは」

「それな、さっき本人からも言われたよ。だから、どっちにしろ自分を選ぶだろう、みたいな」

「ほほう、さすが強気でござるな。その上、シゴデキなのでござろう?」

「それはもう」


 シゴデキである。

 それはもうシゴデキである。

 自慢の部下なのだ。


「喪神殿のドストライクではござらんか」

「それはまぁ……そうなんだけど。そうなっちゃうんだけどさ」

「まぁ、拙者はどちらにしても応援してござるから」

「ありがとう、タキザワ氏」


 さて、いつまでも長居はしていられない。

 タキザワ氏の目論見通り、俺達が立ち寄ったことで良い客寄せパンダになったらしく、可愛らしい仮装をした幼児連れのママさんやら、自撮り棒片手にそろいの仮装でキメてきたJKやらで店は大盛況である。俺達はさよ香さんからお礼としてジャックオランタンを模したクッキーをもらい、BAKERY・FUJIKAWAを後にした。


 それで。


「ここで会ったが百年めぇぇぇぇ!」


 絡まれている。

 なんか小洒落た格好のヤングマンである。

 

「急にそんなことを言われても」

「日和ったか、ミトコンウォリアぁぁぁ!」

「いや、声デカいって」

「可愛い彼女まで連れやがって貴様ぁぁぁ!」

「彼女ではないかな」

「それはそれでむかつくんだよぉぉぉぉ!」

「声デカいって」


 完璧なミイラ男であるはずなのに、なぜバレてしまったか。

 それは俺達がプレイヤー名でお互いを呼び合ってしまったのが原因だ。レンタルスペースで着替えやらメイクやらをしていた時は『課長』、『百田君』と呼び合っていたのだが、いざタキザワ氏のもとへ参らん、ということでスイッチを切り替えたままだったのだ。帰りの道中でも話題はミトコンだったし、そうなれば当然呼び方も『ミトコンウォリア』、『ひゃくたん』だ。で、レンタルスペースに向かっている途中で、後ろから肩を叩かれて――、というわけだ。


 ここで会ったが百年目と言われても、正直なところ、こいつがいつ戦った相手なのかさっぱりである。何せ俺は日常的に色んなやつに対戦を申し込まれているからして。だから、恥を忍んで「すまんが、お前どちらさん?」と尋ねたところ、返って来たのは、


「『炙りカルビ浴びるほどアビゲイル』だ!」


 というプレイヤー名。


 あー、はいはい、成る程成る程。

 

 えっと、ごめん。

 記憶にない。

 ていうか、そのプレイヤー名、よく嚙まずに言えるな?

 そして俺もこんなインパクト大のプレイヤー名、よく忘れられたな?! 己の衰えが恐ろしい。


「ていうかな、受けてやりたい気持ちはあるんだが、俺はカードを持ち歩いてないぞ」

「何だって?! ミトコンウォリアともあろう者がカード不携帯だと?!」

「だって今日はプライベートだし」

「クソッ、リア充アピールしてんじゃねぇぞ! そんな可愛い魔女を連れやがって!」

 

 俺なんか! 俺なんか! こないだ振られたばかりなのに! と言って、『炙りカルビ(以下略)氏』はがくりと膝をついた。そんなこと俺に言われても。


「うう、あんなに『ナオきゅん♡ナオきゅん♡』って俺にべた惚れだったのに……」


 ナオきゅん――――――!


 思い出した! お前、ナオきゅん(本編1話参照)か! お前ナオきゅんか! 久しぶりだな、ナオきゅん! いや、お前あん時プレイヤー名なかっただろ! フツーに『ナオきゅん』で挑んで来ただろ! そりゃ知らねぇはずだわ! さすがの俺だって『炙りカルビ(以下略)』なら忘れねぇよ!


「大丈夫です、ミトコンウォリアさん!」

「えっ何が?」


 そこへ突然ひゃくたんが割り込んできた。この子カットイン癖があるな。カットインの星のもとに生まれたのかな。


「カードなら私が持ってます」

「何で持ってんの君もさ」

「ミトコンバトラーの嗜みです!」

「だとしたら昨年覇者である俺、全然嗜めてなくない?」


 それにこんなところでバトルは無理だぞ?


 別にバトル自体は全然かまわないのだが、さすがの俺だってこんなところでストリートでファイトしたくない。


「大丈夫です、ちょうど良いところにカラオケ店が!」

「何でちょうど良くあるかなぁ」


 とにもかくにもそんな経緯で、『炙りカルビ(以下略)氏』とのバトルが決定した。

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