魔女/スキル検証

 


 全員の祈りが終わると、神官の男がまた話し始める。


「それでは、今回はこれで終わりとなります。どうか、貴方達に神の御加護があらんことを。」


 そう神官の男が言い終わると、貴族が先に出ていく形で他の人たちも続々と帰っていく。後で父と母には結果を伝えておくとして、ファルの結果を聞きたいなと思ったが、ファルの姿は見当たらない。もう家に帰ってしまったのだろうと思い、俺は父に「ファルと遊びたい!」と頼んで、みんなでファルの家に行った。



 時刻はまだ夕方前だった。ファルの家に着くとリートが暖かく出迎えてくれる。


「よく来たな!アレック!それとエルとフリークも。何しに来たんだ?」


「やあ、リート。フリークがファルちゃんと遊びたいらしくてね。連れてきたんだ。」


「そうか!ファルなら自分の部屋にいるぞ。せっかくだから、アレックとエルも上がっていけよ!」


「ありがとう。じゃあ、そうさせてもらうよ。フリークはファルちゃんのところ行ってきていいよ。」


「ありがとね、リート。お邪魔させてもらうわ。」


「おう!じゃあ、あっちで話でもしようぜ。」


 そうして、アレックとエルは家の中へ上がっていき、俺は二人に「じゃあね!」と言ってファルの部屋へと向かった。


 ファルの部屋の扉をノックすると「だれー?」と言う声が聞こえるので、「フリークだよ!」と返す。すると、「フリーク!いまいく!」と嬉しそうな声が聞こえ、すぐにドアが開く。

 出てきたファルは、ニコニコと笑顔を浮かべている。


「フリーク、どうしたの?」


「ファルにききたいことがあってきたの!」


「なになに?なんのこと?」


 ファルは不思議そうな顔をする。


「なにもらった?さっきのばしょで。」


「ええっと……。ちょっとまってね。」


 彼女はそう言って目を瞑る。多分スキルを見てるのだろう。スキルは目を瞑って思い出そうとすると、勝手に頭に思い浮かんでくるのだ。


「ファルのぎのうは、〈魔女まじょ〉だって。」


 俺の方だとスキルって書いてあるけど、ファルだと技能って書いてあるのか。個人個人がわかりやすい文言で書いてあるのか。


「まじょ?なんてかいてあるの?」


「ええと…。特異技能とくいぎのう魔女まじょ

 すべての属性ぞくせいの、魔法まほうさいを、あたえられ、未踏みとう可能性かのうせいを、宿やどす。

 それは、まるで伝承でんしょうの、魔女まじょがごとき──だって。」


 なるほど、伝承の魔女…ね。別に、この世界で魔女は禁忌的な存在というわけではないが、あまり好まれる存在でもないだろう。おそらくその文は、おとぎ話の『勇者と魔女』のことを指していると思う。まあ、俺はこれ以外魔女の話を知らないけど。

 このおとぎ話はかなりベタな物語だ。『創造の魔女』と呼ばれた、幾つもの独自の魔法を生み出した魔女が人々に害をなすようになって、それを勇者が倒すという話だ。

 実際にあったものかどうかもわからない話だが、おとぎ話というのは普通、子供の頃によく聞かされる話だから、人々は大人になっても無意識にその物語の悪役に嫌悪感を抱いてしまうだろう。

 だから、あまり魔女というものはこの世界であまり好まれてないと思う。そして、このスキルはその魔女のような魔法が使える才能が得られるということだろう。これまた強いスキルだな。俺の〈天道無窮てんどうむきゅう〉と同じくらいの凄さだろう。

 まさか、一つだけなのか?てっきり一人につき二、三個あるものだと思っていたな。とりあえず、聞いてみるか。


「その〈魔女まじょ〉だけ?もらったの。」


「うん。そうだよ。フリークはなにもらったの?」


 まじか、どうしよう。これは俺が異常なのか?まだわからないな。三つもあるとヤバいことになる可能性もあるから、〈天道無窮てんどうむきゅう〉は隠しておくか。


「ええと…。〈思考加速しこうかそく〉と〈並列思考へいれつしこう〉だったよ。」


「二つもあるんだ!どんなやつなの?」


「〈思考加速しこうかそく〉はかんがえるのがはやくなるやつで、〈並列思考へいれつしこう〉はたくさんのあたまでかんがえられるんだって。」


「それ、すごいの?」


「わかんない。つかってみる?」


「うん!つかってみて!」


 俺も気になるし、使ってみるか。これどうやって使うんだろう。頭で唱えて見ればいいのかな。


〈思考加速〉


 あれ、何も変わってない?口に出さないとダメなのか?何も変わってないように感じたので、「〈思考加速〉」と声に出してみるも変化がないが、何か少し違和感と僅かだが頭痛がする。もしかしたら勘違いかもしれないが、少しだけ思考と声を出すタイミングが違うような気がする。俺が効果を実感できず、首をかしげているとファルが話しかけてくる。


「フリーク、だいじょうぶ?」


 そのファルの声がいつもと少し遅く聞こえる気がする。もしかして、ほんの少しだけしか思考加速してないのか?とりあえず、ファルには返答するか。


「うん。だいじょうぶ。少しだけ、ゆっくりになってるのかな?あまりわかんない。」


「そうなんだ。ファルのこえゆっくりになってる?」


「ゆっくりになってるかも。」


「へぇ〜、すごいね!」


「う〜ん、すごいかも。」


 本当にこれで発動してるのか?発動してるなら、かなり微妙なスキルだけどな。

 いったん発動止めてみるか。どうやって止めるんだろう?止めるよう考えればいいのか?思考加速を止めるよう考えても変化はあまり感じないが、力が抜けていったような気はする。これは魔力を消耗したからか?それとも、疲れたからか?どっちか分からないな。


「もうおわった?」


「うん、おわったよ。」


「もういっこあったよね?それもやってみてよ!」


「わかった!」


 思考加速は微妙だったけど、並列思考はどうだろう。ちゃんと効果がわかるといいんだがな。まあ、並列思考も気になるしやってみるか。ひとまず、頭で唱えてみるか。思考加速には少しがっかりしたが、次の並列思考にワクワクしていた俺は、魔力を消耗しているかもという心配は頭からすっかりぬけていた。


〈並列思考〉


 その瞬間、頭の中にもう一人の“俺”が生まれた。

 いや、正確にはもう一つの“思考”だ。自分とは別の、もう一人の自分が勝手に思考をし始める。

 もう一人の自分っていうとものすごく厨二っぽいけど、まさしくその言葉通りでもう一つの自分の思考は周りの状況を分析している。

 頭痛がさらに酷くなった。さっきの思考加速での頭痛が残っていたからか、余計に痛む。

 でも、これで頭でスキルを唱えるだけで発動することがわかったな。

 ほどほどに酷い頭痛に頭を抑えていると、心配そうにファルが話しかけてくる。


「フリーク、だいじょうぶ?すごくいたそうだよ。」


「う、うん、あたまがいたい。でも、これすごいよ!いっしょに二こ、べつべつにかんがえられるの!」


「すごいね!それ。でも、あたまいたいのは、やだ。」


「そうだね。あたまいたいのよくない。」


 まだまだ、並列思考を試してみたいが、頭痛が酷いからやめるか。

 そう思った瞬間、視界がぐらりと揺れて──俺は意識を手放した。


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。至らぬ点も多いかと思いますが、温かくご指摘いただければ幸いです。


 今回の魔女の説明文は読みにくいと思います。ですが、ファルの幼さと小説としての読みやすさを両方尊重した結果、ルビを全部の漢字に振ることにしました。何卒ご理解の程よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る