今日も電話が鳴っている―ゴミ捨てコメディ―

kirigasa

第1話 ペットボトルのキャップ事件

午前十時。

課内の電話が鳴った瞬間、誰もが一瞬だけ視線をそらした。

受話器を取ったのは、運の悪かった新人の佐藤だった。


「はい、環境課でございます」


受話器の向こうは元気な女性の声だった。


「ペットボトルのキャップって、燃えるゴミ?それともプラスチック?」


佐藤は一瞬固まる。隣の先輩が小声で「プラだ」と囁く。


「はい、キャップはプラスチックですので、プラの資源ごみに出してください」


「でも汚れてたらどうするの?」


「えっ……」

マニュアルには「汚れがひどいものは燃えるごみ」とある。


「はい、その場合は燃えるごみにお願いします」


「じゃあ“ひどい汚れ”って、どのくらい?」


佐藤は口ごもった。再び隣の先輩を見たが、先輩は目を逸らす。

結局、机の端に貼ってある「分別マニュアル一覧」をめくる羽目になった。

そこには『油汚れが付着していて落とせない場合は燃えるごみ』とある。


「えっと……落ちないくらいの汚れでしたら燃えるごみに……」


「落ちるかどうかは、洗ってみないとわからないでしょ?」


会話がループし始めた。課内にじわじわと笑いが広がる。

上司が気を利かせて代わろうとするが、受話器を渡すタイミングを逃す。


「つまりですね……」と佐藤が必死にまとめる。

「洗って落ちればプラ、落ちなければ燃えるごみ、でお願いします」


「なるほどね!でもねぇ、もう昨日の分は燃えるごみに出しちゃったのよ」


ツーツー……。

通話終了。


課内に静寂が戻る。

佐藤はゆっくり受話器を置き、天を仰いだ。


「……それなら最初から聞くなよ」


笑いをこらえていた先輩が、ついに机に突っ伏して爆笑した。







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