消えた一番星を探せ!

 令和日本に似た箱庭世界、幻想怪異発生特別区――通称「特区」。その治安を守る西地区警備署遺失物課に今日も事件が降りかかる――!


 ある夜、新人警備署員の当直の日。四月に入職を果たしてから既に九か月。あっという間に今年最後の月になってしまった。特区の不可思議な事件と向き合い、職務に慣れて気が緩む、そんな中での出来事である。


「こんばんは」


 うとうとと舟を漕ぐ職員に、話しかけてくる者がいる。夢、あるいは現実か。響くような高い声に思わず返事をしてしまう。


「……こんばん、は?」


「こんばんは、警備署員さん。私は一番星。訳があって、今年は特区のクリスマスに参加することができません」


 星か……。そう言われれば、確かに目の前にいる者はなんだかキラキラ輝いて見えるな。クリスマスに参加できない? どうしてだ?


「もしかしたら、デコレーション仲間が探しに来るかもしれません。心配しないでとお伝えください。探さないで大丈夫だ、と」


「……うーん、……わかった」


 デコレーション仲間……? そんな疑問も浮かびつつ、新人署員は一番星と無責任に約束をしてしまったのだった。


 気が付けば、朝。夜間に何も起こらなくて本当に良かった! とおしかりを受けたには言うまでもない。


 それを横目に、遺失物課のカウンターには特区の奇妙な住人達が集まっていた。緑色の木、もしゃもしゃしたモール、困った顔のジンジャーブレッドクッキー、ふわふわの綿。


「今日はどうされました?」


 怪異たちの登場に物ともせず、ベテラン署員が依頼の対応をする。


「一番星が無くなったんです」


 木――どうにも、形がクリスマスツリーに似ている――がてっぺんを指さして(?)、わさわさと話す。


「一番星?」


「そう。ツリーの一番上に飾る星です。今日、飾りつけのために集まってみたら、星だけがどこかへ行ってしまったんです!」


 どうやら、ここにいる付喪神たちはクリスマスの飾りつけのために押し入れから出された、クリスマスの道具達らしい。


「わかりました。依頼を受理します。なにか、心当たりは……」


 飾りたちから事情を聞こうとするベテラン署員の後ろ。署長からおしかりを受けている当直の署員が聞き耳を立てていたらしい、小さくあっ、と声を漏らす。


「どうしたの?」


「俺、昨日見ました!」


「何を?」


「一番星です!」


「どこでよ」


「ここにきて……、旅に出るから探さないで、って」


 什器たちから驚きの声が上がった。


「クリスマスツリーの上に、一番星がいないなんて考えられない」


「いったいどこへ行っちゃったのかしら。何か聞いていませんか?」


「探さないでなんて、そんな事できません。我々にとって一番大事な星なのですから」


 飾りたちからの強い要望で、依頼は受理されることとなった。


 クリスマスシーズンのこの時期、特区には星が所狭しと溢れている。アドベントカレンダーの模様や、星形のクッキー、プレゼントの入浴剤やパーティーのためのプロップス……。


 しかし、どこを見渡しても見つからなかった一番星。街を捜索した署員二人は肩を落としつつ、一度警備署へと戻ることに決めた。


 辺りはうっすらと暗い。逢魔が刻の怪しい色合いの空には冬の星座がずらりと現れている。


 その中の一つが怪しい動きで揺れた。


「あ! 一番星!」


 後輩署員が指さした先にオリオン座の三つの星がある。その隣で彷徨っている見慣れない星は、まぎれもなく、深夜に現れた一番星である。


 ようやく見つけた捜索対象。このまま逃すわけにはいかない。ゆらゆらどこかへ行きそうな星を、慌てて大声で引き留める。新人署員の声に気が付いて、一番星がこちらにきらきらと手を振ってきた。


「待ってくれ! 君はどこへと行くつもりなんだ!」


 新人署員の問いかけに応えて、輝く星が一層煌めいた。


「ツリーの一番上にいて、空を見上げると、もっと広い世界を見たくなったんです。今日は空で迷ってしまいましたが、明日にはもっと遠く、宇宙へと言ってみたいと思います!」


 そのまま、流れていきそうな星に、新人署員がなおも叫ぶ。


「せめて、クリスマスまで特区の空にいてはくれないか! 君がいるクリスマスをみんな楽しみにしているんだ!」


 ――。


 空に輝く一番星を見上げて、良い位置を探す。メインストリートの真ん中ではなくなってしまったが、角のカフェの屋上がその最適なスペースだった。


 ツリーがその上に乗る。そうするとちょうど空にいる一番星が、ツリーのてっぺんにあるように見えるのだった。飾り付けられたクリスマスツリーに、広場から歓声が上がる。


「どうにか、クリスマスツリーに星を掲げることができましたね!」


 新人署員が、明るい声で言った。一番星が今年の間だけ特区の空で輝いてくれるよう引き留めたのは、新人署員の功績である。


「一番星と同じように、俺も特区の平和に貢献できるよう頑張ります!」


 その言葉に答えるように、一番星がきらりと輝いた。

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