第10話 繋がる真実

 リョウコを抱きかかえ、俺たちは研究所の奥にある、まだ電気が通じている研究室へとたどり着いた。


 リョウコは、その部屋の隅にあるベッドに、まるでぬいぐるみを置くように、そっと寝かされた。


「ひどい傷だ…」


 ユキが、リョウコの身体を見て、悲しそうに呟いた。 


 リョウコの白衣は所々破れ、露出した柔らかな肌には、ウォーカーの爪痕らしき傷がいくつか見受けられた。


 しかし、それ以上に目を引いたのは、白衣の破れ目から覗く、豊満な胸と、肉感的な太ももだった。


 その身体は、ユキの可憐さとも、ミサキの引き締まった強さとも違う、母性的な豊かさを感じさせた。


「ウォーカーの群れに囲まれてたのに、噛まれていないなんて…」


 ミサキが、不思議そうにリョウコを見つめている。


 俺の【危機感知】も、そのことに違和感を覚えていた。


 俺は、リョウコの身体を注意深く調べた。


 すると、彼女の白衣のポケットから、一枚のIDカードと、小さなUSBメモリが見つかった。


 IDカードには、リョウコ・アサノという名前と、主任研究員という肩書きが書かれている。


「主任研究員…ってことは、こいつは、この研究所のトップだったってことか」


ミサキが、俺の言葉に息をのんだ。


そのとき、リョウコの意識が戻った。


「う…ん…」


 彼女は、ゆっくりと目を開けると、俺の顔を見て、驚いたように身体を起こした。


「あなたは…?」


「俺はタクヤ。こっちはユキとミサキだ」


 俺の言葉に、リョウコは、警戒しながらも、ゆっくりと状況を理解していった。


「…助けてくれたのね。ありがとう。私…」


 リョウコは、自分の名前を言おうとして、頭を抱え、苦痛に顔を歪めた。


「どうした、リョウコ?」


 俺が尋ねると、彼女は、涙を流しながら、俺の顔をじっと見つめた。


「…ごめんなさい。私…この世界のことを、何も覚えていないの…」


 リョウコの言葉に、俺たちは息をのんだ。


 記憶喪失…なぜ、彼女は、この世界のことを覚えていないのか。


 そのとき、ユキが、そっとリョウコの手を握った。


「大丈夫です。

私たちも、タクヤさんに会うまで、一人で生きてきました。これから、一緒に頑張りましょう」


 ユキの言葉に、リョウコは、安心したように、涙を流した。


 その夜、俺たちは、リョウコのUSBメモリを、研究室のパソコンに差し込んだ。


 パソコンの画面が立ち上がると、そこには、いくつものファイルと、一つの音声ファイルが残されていた。


「これ、もしかして…」


 ミサキが、音声ファイルを再生する。


『記録開始…

「プロジェクト・ジェネシス」は、最終段階へと移行した。』


それは、リョウコの声だった。


『ウォーカーを兵器として利用するため、我々は、被験者から採取した特別な因子を、ウォーカーに移植する実験を繰り返してきた。』


「ウォーカーを、兵器に…?」


ユキが、恐怖に顔を歪める。


『しかし、被験者の身体に、予想外の能力が発現した。

ウォーカーを圧倒する、超人的な身体能力。そして、驚異的な再生能力。』


 俺は、自分の能力と、ウォーカーの身体に刻まれていたタトゥーを思い出した。


『この因子を持つ被験者は、一人ではない。

彼らは、我々の管理下を離れ、この世界を彷徨っている。我々は、彼らを捕獲し、その能力を解析する必要がある。』


「被験者…」


ミサキが、俺の顔をじっと見つめた。


 その目は、俺が、この音声ファイルの被験者であることを、すでに理解しているようだった。


『特に、

強力な能力を持つ「アルファ」と呼ばれる被験者が、この世界のどこかに存在している。この計画の責任者として、必ず、彼らを確保しなければならない。』 


音声は、そこで途切れた。


俺たちは、言葉を失っていた。


 この世界のウォーカーは、何者かによって生み出された兵器だった。


 そして、俺は、そのウォーカーと戦うために、特別な能力を与えられた被験者だったのだ。

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