こんにちは!さとるくん!

他称ポメラニアン

こんにちは!さとるくん!

さとるくんは、元気いっぱい、小学三年生!

これは、さとるくんのなんてことない普段のお話。


〈93日目〉

「おかーさん、おはよ〜。」

「おはよう、さとるちゃん。」

「“ちゃん”はやめてって言ってるでしょ!」

「はいはい。」

今日は土曜日、学校はお休みです。

でも、さとるくんのお母さんは朝から大忙し!さとるくんに朝ご飯を食べさせて、お仕事に行かなければなりません。

「さとるちゃん、お母さん今からお仕事に行かなきゃいけないから、もし外に遊びに行くなら、お家の鍵を持って戸じまりして、帰ったらちゃんと鍵を閉めるのよ。」

「はーい。っていうか、“ちゃん”はやめて!」

「はいはい、行ってきます。」

「いってらっしゃい。」

玄関の戸を閉めると、扉が軋む嫌な音がします。そして、カチャンと短い音がして向こう側から鍵が閉められました。

今、さとるくんはお家に一人です。

「…おかーさんは仕事に行ったし、ゲームしちゃお!」

あれれ?さとるくんはお母さんとした、宿題をやるまで遊んではいけないというお約束を破ってしまうようです!静かな部屋に、ただピコピコと愉快な音が響きます。

3時間ほど経った頃、さとるくんはゲームをやめて、お母さんが用意してくれていたご飯を電子レンジで温めて、アニメを見ながらお昼ご飯を食べ始めました。

「あはは、やっちゃえ炭太郎!」

アニメを見ていたためか、さとるくんの昼食はたっぷり一時間かかりました。お腹がいっぱいになったさとるくんは、今度はお外に遊びに行きます。不快な音を立てて、さとるくんは元気いっぱいに玄関の戸を開きました。

現れるは、お気に入りの青いTシャツと半ズボンを身に纏い、サッカーボールを脇に抱えた小さな男の子!そんな彼を歓迎するように、外は晴れ渡っています。

さとるくんは家の鍵を閉めると、マンションの外階段で下の階へ行き、ある一室のインターホンを鳴らしました。どうやら、お友達のだいちくんを遊びに誘うようです。少し待つと、だいちくんが出てきました。二人で楽しく駆け出し、向かったのは公園でした。そこにはすでに少年少女が集まっており、優しいさとるくんは一人一人に声をかけ、サッカーに誘いました。

さとるくんはお空がオレンジ色になった頃、お家に帰りました。ちゃんと鍵も閉めます。手を洗い、うがいもします。その直後、カチャリと鍵の開く音の後に、嫌な音。お母さんが帰ってきました。

「さとるちゃん、ただいま!お母さん今からご飯作るからね。」

「おかーさん、今日のご飯何?」

「今日は焼き魚よ!さとるちゃん、ちゃんと宿題やった?」

「…ちょっとやった!」

「そう?月曜日にちゃんと宿題出せるようにするのよ!」

「はいはい!」

今日も、楽しそうな声が聞こえます。


〈94日目〉

「おかーさん、おはよ〜。」

「おはよう、さとるちゃん。」

「“ちゃん”はやめてってば!」

「はいはい。」

今日は日曜日、学校はお休みです。でも、さとるくんのお母さんは今日も朝からお仕事で大忙し!

「さとるちゃん、今日も、もし外に遊びに行くなら、お家の鍵を持って戸じまりして、帰ったらちゃんと鍵を閉めるのよ。」

「はーい。“ちゃん”って言わないで!」

「はいはい、行ってきます。」

「いってらっしゃい。」

玄関の戸を閉めると、嫌な音がします。そして、カチャンと短い音がして向こう側から鍵が閉められました。

今、さとるくんはお家に一人です。

「…ゲームしちゃお!

…でも、おかーさんもせんせーも怒ると怖いし……やっぱ宿題やろう…。」

お昼になった頃、さとるくんは宿題をちゃんと終わらせました。偉い!

昨日のように、母さんが用意してくれていたご飯を電子レンジで温めて、アニメを見ながらお昼ご飯を食べ始めました。

「六条先生つえ〜!カッコイイ!」

そんな調子ですから、今日もお食事時間は一時間かかりました。

お腹がいっぱいになったさとるくんは、今日は近所の児童館に遊びに行くようです。

今日も快晴!白いTシャツを着たさとるくんは鍵を閉めると元気いっぱいに駆け出して行きました。児童館に着くと、職員のおばさんが挨拶をし、さとるくんも大きな声で挨拶しました。


さとるくんはお空が少し暗くなった頃にお家に帰りました。お家に帰ると、すでに帰っていたお母さんがさとるくんを叱ります。

「さとるちゃん、帰ってくるのがちょっと遅いわよ!暗い時に出歩いちゃ、危ない目に遭うかもしれないでしょ!」

「…はーい、ごめんなさぁい…。」

「さ、手洗いうがいして!ご飯もうすぐできるわよ!」

「うん…。」

さとるくんの声に元気はありません。怒られて落ち込んでしまったようです。

頑張れ!さとるくん!


〈95日目〉

「さとるちゃん!起きて!遅刻するわよ!」

「…あと五分…。」

「ダメよ!ほら、起きて!顔洗って歯磨きして朝ご飯食べなさい!」

今日は月曜日、学校に行く日です。朝の支度を済ませると、下の階のだいちくんのお家へ行きます。だいちくんと一緒に登校するのが朝の日課です。

校門では体育の先生が生徒のみんなに挨拶をしていました。

「「おはようございまーす!」」

「おはよう!元気があってよろしい!」

さとるくんは教室に着くとクラスメイトとアニメや漫画の話をし始めます。さとるくんはクラスの人気者です。

チャイムが鳴り、担任のおおしま先生が宿題を集めます。もちろん、さとるくんはちゃんと提出しました。おおしま先生は適当な一、二言でホームルームを閉め括り、授業を始めるのでした。


学校での時間はあっという間に過ぎ去り、終礼を告げるチャイムが鳴りました。おおしま先生は朝礼と同様、掃除について連絡するとさっさと帰りのホームルームを終わらせ、日直の生徒に帰りの挨拶をさせます。

「起立。気をつけ。礼!さようなら!」

「「さよーなら!!」」

大きな挨拶の直後、教室がざわざわと騒がしくなります。

「さとる!今日もサッカーしようぜ!」

「いいね、やりたい!」

さとるくんとだいちくんは走ってお家に帰り、ランドセルを放り投げサッカーボールを持っていつもの公園に遊びに出かけました。

しばらく遊んで少し空が赤らんできた頃、さとるくんはだいちくんと別れて先に帰りました。手を洗ってうがいをして、ランドセルをガサゴソと漁ります。宿題をやるようです。カリカリと鉛筆を走らせる音だけが聞こえます。

「ふぅ〜終わった〜!」

さとるくんが鉛筆を置いたとき、ちょうどカチャリと鍵が開きます。お母さんが帰ってきました。

「おかーさんおかえり!」

「ただいま〜。さとるちゃん、今日シチューにしようと思ってるんだけどいい?」

「おれシチュー好きだよ!」

「じゃあ今から作るね。宿題やった?」

「やった!」

「お、えら〜い!この調子で頑張れ〜。」

今日も、この家は楽しそうです。


〈96日目〉

「さとるちゃん!さとるちゃん!ほら!起きて!」

「ん〜…おはよお」

「おはよ、顔洗って歯磨いておいで!」

今日は火曜日。さとるくんは朝に弱いです。いつもお母さんがさとるくんを起こしてくれるので、さとるくんは遅刻したことがありません。今のところは。

身支度を済ませ、だいちくんのお家へ行きます。しかし出てきたのはだいちくんのお母さんでした。

「ごめんねぇ、だいちは寝坊しちゃって…遅刻すると思うからさとるくん先に行ってちょうだい。」

「わかった!」

今日は一人で登校しなければなりません。さとるくんは少し寂しそうです。

教室に着くと、だいちくんがさとるくんと一緒でないことに気づいたお友達が話しかけます。

「だいちは?」

「寝坊だって。後から来ると思うよ。」

「ふーん…ところで、昨日の破滅の刃見た?」

「見た!青辰がめっちゃかっこよかった!」

さとるくんがお友達と盛り上がっていると、おおしま先生が教室に入ってきました。

「朝の会やるぞー、席につきなさーい。日直さん挨拶して。」

「起立、気をつけ、礼。おはようございます!」

「「おはようございます!!」」

「着席。」

「…えー、今日だいちは遅れて来るから、だいちが来たら、前の授業のこととか配布物のこととか教えてやってくれ。じゃ、最初の授業の準備しろー。」

結局だいちくんが学校に来たのは二限目でした。


そしてまた、終礼の時間です。先生は

「生活リズムに気をつけろよー。」

と言い、さっさと終礼を終わらせておしまいになりました。

さとるくんは今日はお友達と遊ばず宿題をやるようです。お家できっちり宿題をして、ゲームで夕方まで遊びました。

カチャリ。鍵が開く音の直後、金属の軋む音。お母さんが帰ってきました。

「ただいまー、さとるちゃん。あら、ゲームしてるの?宿題はやった?」

「やったよー」

「偉い!今日はさとるちゃんの好きなハンバーグにするからね。ゲームもほどほどにしてやめなさいね。」

「え!ハンバーグ!?やったぁ!」

よかったね、さとるくん!


〈97日目〉

「おはよう、さとるちゃん。今日はちゃんと起きれて偉いね!」

「おはよー…あ、“ちゃん”って言わないでってば!」

「はいはい。」

今日は水曜日。さとるくん、今日は早起きです。身支度をして、朝ごはんはいつもよりゆっくり食べます。だいちくんも朝ちゃんと起きれたようで、今日はだいちくんがさとるくんのお家を訪ねました。二人一緒に学校に行くと、体育の先生と大きな声で挨拶し合います。

「「おはよーございます!!」」

「おぉ、おはよう!!今日は二人とも早いな!感心、感心!」

褒められて二人はニヤニヤ笑顔が収まりません。この一日、二人はずっと絶好調でした。授業中に先生が出した問題も答えられましたし、給食のデザートじゃんけんでも二人の勝ちです。学校が終わるとサッカーで泥んこまみれになるまで遊びました。お空が赤くなっても二人は帰りたくなさそうでしたが、明日も早起きしようと約束して別れました。さとるくんはお家に帰ると、手洗いしてうがいをして、宿題をやり始め、お母さんが帰ってきた頃に終わらせました。

カチャン、キィィィ。

「ただいま!さとるちゃん、宿題はちゃんとやった?」

「やった!今日、すっごいいい日だったんだよ!」

それからさとるくんは、お母さんに今日どんな素敵なことがあったのかを語りました。

幸せな笑い声が外まで聞こえてきました。


〈98日目〉

「さとるちゃん、おはよう!今日も早起きできたのね!偉い!」

「おはよー。っていうか、“ちゃん”って言わないで!」

「はいはい、ごめんね。」

今日は木曜日。だいちくんとの約束通り、さとるくんは早起きしました。身支度して、ご飯もしっかり食べて、お家を出ます。

だいちくんは、すでに玄関でさとるくんを待っていました。

「うわっびっくりした!」

「へへっ行こうぜ!」

二人は学校へ向かいます。あれ?今日は登校路のあちこちに先生達がいます。交通安全のおじさん達も、今日はなんだかちょっと怖いです。

ただ唯一、校門に立っている体育の先生は変わらなくて安心しました。

「「おはよーございます!」」

「おう、おはよう!今日も早起きしたのか?偉いぞ!」

二人は褒められてまた嬉しくなりました。いつもの学校でした。おおしま先生の朝の会は短いし、授業はちょっと難しいし、給食も美味しいです。

ただ、帰りのホームルームがいつもとちょっと違いました。

「はーい皆!先生のお話聞いてねー!」

おおしま先生が大きな声で呼びかけます。いつもホームルームを手短に済ませるおおしま先生の珍しい様子に、子供たちは素直に静かになりました。

「今朝、学校の近くをうろつく不審者がいたと学校に通報があったから、今日からしばらく集団での登下校になるぞ!家の近い人たちで集まって帰るように!外で遊ぶ時も気をつけて、人が多いところで遊ぶように!

それじゃあ日直さん!挨拶して!」

「きりーつ。気をつけー。礼!さよーなら!」

「「さよーなら!!」」

さとるくんとだいちくんは今日も一緒に帰ります。

「フシンシャだって!」

「フシンシャって、どんなのだろう?」

「きっとハゲたおじさんだよ!」

「うわ〜!」

「あははは!」

「だいち、今日はじゅく行くんだっけ?」

「おう!また今度サッカーしようぜ!じゃーな!」

「うん!またね!」

さとるくんはお家に帰ってきました。手を洗って、うがいをして、宿題をちゃんとやってからゲームをします。夕方にはお母さんが帰ってきました。

「ただいま、さとるちゃん!今日学校の近くで不審者が出たって聞いたよ!怖いねぇ…。さとるちゃんもよくよく気をつけて、危ない時は防犯ブザーを鳴らしてね。」

「大丈夫、わかってるよ。」

「そう?今日はグラタンにしようと思ってるの!さとるちゃん好きでしょ?」

「好き!」

「お母さんすぐ作るから、ちょっと待っててね。」

「はーい!」

幸せな家庭。


〈99日目〉

「さとるちゃん!起きなさい!さとるちゃん!」

「…おはよぉ…。」

「はい、おはよう。さとるちゃん、しばらくはドアチェーンかけてお家で過ごすのよ。鍵もちゃんとかけなさいね。」

「わかってるよ…。」

今日は金曜日。さとるくんは身支度を済ませ、ご飯も食べてだいちくんのお家へ向かいました。インターホンを押そうとしたとき、玄関のドアが開いてだいちくんが出てきました。

学校までの道には、やっぱり先生達や交通安全のおじさんがいます。そして、やっぱり校門には体育の先生がいます。

「「おはよーございます!!」」

「おはよう!!今日も元気だな!」


さとるくんはお家に帰ると鍵を閉めてドアチェーンをかけて、手を洗って、うがいをして、宿題をしました。宿題が終われば、ゲームをしました。

カチャリ、キィィィといつもの音がします。お母さんが帰ってきました。

「ただいま、さとるちゃん。ドアチェーン外してくれる?」

「おかーさんおかえり!」

さとるくんがチェーンを外します。

「ありがとうね。今日はカレーにしようかと思うんだけど、どう?」

「カレー!やった!」

「ふふ、今作るからちょっと待ってね。」

もうすぐです。


〈100日目〉

カチャリ、キィィィ。玄関の戸を開けると、若干耳障りな音に顔を顰めてしまいました。しかし、私の心は幸せな気持ちで跳ね踊っています。

「おかーさん、わすれものー?」

今日は土曜日、学校はお休みです。そして、お母さんも朝からお仕事でいません。

さとるくんは、鍵をかけませんでした。神様が私にチャンスを下さった。

邪魔なドアチェーンは、ホームセンターで買った番線切りでバイバイキン☆

「あれ?」

いつ会いに行こうかな、いつ迎えに行こうかなと考えながら、さとるくんの生活を、ずっと、ずっと…ずぅ〜っと見てきました。どこぞのクソどもが通報しやがったときは焦りましたが…まあ、神様が私たちへ与えた試練だったのでしょう。それよりも今は、証拠をできるだけ残さないように、これからのお家に帰ることが大事です。

「おねーさん、だれ?」

やっと!やっと会えたね!!


さとるくんは、元気いっぱい、小学三年生!

これからは、私とさとるくんの、幸せな普段のお話。


「こんにちは!さとるくん!」




《…速報です。四日前行方不明になった、〇〇県△△市在住、三上聡くん八歳が、本日午後1時頃、市内在住の二十代女性の自宅で死亡している状態で発見されました。警察は誘拐殺人事件として、家主の二十四歳女性無職への事情聴取を行っています。また、警察が三上さんの自宅を捜査したところ、コンセントや家具、ランドセルから盗聴器が見つかりました。警察は、計画的な犯行と見ており…》



※この作品はフィクションですが、誰も無関係ではありません。次はあなたかもしれません。

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