第23話 叱責と処分

 司令部の天幕で僕らはきっちりと大目玉を食らう。

 これから戦いだというのに何を考えているんだ、と言われれば返す言葉も無かった。

 椅子に座るローフォーテン将軍は冷ややかな目線でひざまずく僕たちを睥睨へいげいする。

 あれ?

 なんだか既視感があるな。

 僕は将軍に叱られてばかりなことに首をすくめた。


「それで何が原因なんだ? どうせ些細なことなんだろう?」

 将軍の怒気に当てられているせいなのか、みんな声が出ない。

 ジョイス什長も頭を垂れている。

 顔を上げていた僕は将軍と目が合ってしまった。

 僕のことを穴が開くほどにじっと見つめてくる。

 凄いな。

 見ただけで僕が騒ぎの原因って分かっちゃうんだ。

 起きちゃったことは仕方がないので謝ることにする。


「将軍。僕が悪いんです。すいません」

「は?」

 将軍が虚を突かれた顔になった。

 途端にジョイス什長が口を開く。

「なあ、そうじゃねえだろ。クエル。悪いのはあいつらだろ。配給の列に割り込んできたんだがら。万死に値する大罪だぜ。しかも、それがクエルが王国軍だからってのが理由じゃ黙ってられないだろうが」

「そうなのか?」

 ローフォーテン将軍がさらに冷たさを増した声で第17軍の什長たちに問いかけた。


「我々は名誉ある帝国軍です。軟弱な王国軍とくつわをなら……」

 はあああ。

 将軍の大きなため息が響き渡る。

「お前はこの軍の指揮官か?」

「いえ。そのう、そんなことはありません」

「指揮官たる私が戦略的に考えて王国軍の参加が必要と考えたことに異を唱えるつもりか。随分と偉くなったものだな」

「いえ、そのような……」


「こう言うときはな。新入りがなんとなく気に入らないので喧嘩を吹っかけましたと言えばいいんだ。変な理屈をこねるな」

「はっ! 申し訳ありません」

 え? そんな理由ならいいんだ。

「まあ、実力も分からない友軍というのが不安というのも分からんでもない。それで、実力のほどはどう感じた?」

「少なくとも、今回参加している3名については概ね我が軍と遜色ない実力かと思います」

「なら良し。次からはティレン軍との戦いでどれだけ戦果をあげられるかで競え。直接拳を交えることは禁ずる。分かったか?」

「はい。閣下」

 なんとなく叱責が終わったかのような雰囲気になり、場の空気が緩む。


 しかし、ローフォーテン将軍は硬い表情のままだった。

「未来のことはこの程度にして、貴官らの処分について申し渡す。軍紀を乱したことは看過できん。現在は行軍中で設備がないので、モーゼルに到着後にここに集まった全員に夜間の営倉入りを命ずる。以上だ」

 落胆のため息が漏れるなか、僕たちは司令部の天幕の外に出される。

 僕たちが割り当てられた場所に戻りながらジョイス什長がぼやいた。

「あのまま、過ぎたことは忘れ、一丸となって敵と戦おうとなるかと思ったがそこまで甘くはなかったな」


「営倉入りって大変ですか?」

「お、そうか、クエルは初めてだもんな。俺はまたか、ってなもんで慣れてるが、最初は辛いかもな。狭いし寒いし腹減るしで楽じゃねえよ。俺は自発的に意識飛ばすけど」

「まあ、騒ぎを起こしたんだし仕方ないですね」

「クエルは免除かと思ったんだがな。被害者みたいなもんだし」

「でも、それだといつまでも僕が余所者のままでしょ?」

 ジョイス什長は僕の頭をくしゃくしゃにする。


「それに気がつくとは大したもんだ。まあ、これでクエルもめでたく帝国軍の仲間入りだろうな。それと、お前さんがもっと偉くなったときに役に立つだろう。兵士は営倉の辛さも知らない上官なんか信用しねえからな」

「え、僕、これ以上昇進なんてしませんよ」

「それを決めるのはお前さんじゃないからな」

「そうですね。それはともかく、什長を巻き込んですいません」

「なあに、俺は好きで巻き込まれてんのさ。楽しかったしな」

「え? 楽しかったんですか?」

「まあな。それに、これで部下からの信頼もばっちりだぜ。あそこでクエルの為に出ていかなかったら男が廃るってもんだ」

 ジョイス什長はご機嫌だったが、僕は申し訳なくて仕方がなかった。


 そして、もう1つ僕を困惑させたのが、エイラの態度である。

 お小言から戻った僕に飛びついてきた。

「伍長ってイイ人ですね。見直しました。普通は大人しくしろって言うところで、突撃を命じてくれるなんてサイコー」

 頭から飛び出た耳をピコピコと動かしている。

「あれは特別だから。毎回じゃないからね」

「うんうん。分かってるって。次を待ってるからよろしくね。そうそう、食事まだでしょ?」

 かいがいしく食事の支度を始めた。

 シモンがやれやれというように手伝いをする。


「先に食べようと言ったのにさ、エイラは伍長を待つ、って言うんだもん。お腹空いちゃったよ」

「当たり前でしょ。先に食べるなんてひどいよね。伍長は代表で怒られてるのに。あっちの人たちだって待ってるのにさ」

「待っていてくれてありがとう」

 チーズ入りの小麦粥を食べた。

 日が落ちて急激に冷え込むなか、すぐに食事ができたのはありがたい。

 鍋の大きさの都合があるのでだいたい3人ずつで一緒のものを食べているが、ジョイス什長の隊の人も今全員で食事をしている。

 食事を終えると不寝番に備えた。


 僕ら3名はジョイス什長の隊と共に今夜が当番になっている。

 4交代で僕は3番目の組に入っていた。

 みんなで持ち場に移動する。

 ジョイス什長が声をかけてきた。

「そんじゃ、後の組はさっさと寝ようぜ」

 風よけの板の横で横になると僕の毛布の中に入ってきたエイラがぴったりとくっついてくる。

「伍長は暖かくて良い」

「それを言うなら、エイラも温かいよ」


「あのな、お二人さん?」

 横になっていたはずのジョイス什長が上半身を起こしてこちらを見ていた。

 1番目の組以外の先輩たちも僕らの様子を窺っている。

「なんでしょうか?」

「クエルはそういうつもりは全くないと思うが、年頃の男女がそうやってくっついているというのは誤解を招くと思うんだよ」

「誤解って、エイラは僕の部下ですよ」

「でも女の子でもあるよな。それとも、あれか。狼憑きだから女の子としてみていないとかそういう?」


「別に狼憑きだから僕らと違うとは思ってませんよ」

「じゃあ、例えばだよ。近衛隊長とそうやってくっついて一緒に寝たりするか?」

「えーと、温かくていいですよね?」

 ジョイス什長は手で顔を覆い、親指と中指で眉をこすった。

「うん。まあ、クエルらしい答えだな。それはそうなんだが、周りは他のことを想像しちゃうもんなんだ。お前さんを連れていった店でするようなことをな」

 僕は赤い服と白い服のお姉さんたちのことを思い出す。

「伍長。なんかさらに熱くなったよ」

 エイラに言われるまでもなく、僕は頬が火照るのを感じていた。


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