第9話 襲撃
その後、二人はこれからのことを話しあう。
やはり、アナの先程の覚醒のこと。
覚醒に対する対策は必要だ。
まさにいつ起きてもおかしくはないのだから。
「結局あれは」
「ええ、あれはたぶん怒りによるものだと思います」
やはりだ。感情の高ぶりに呼応して封印が解かれるのだ。
シドを助けたい。その気持ちがアマスターを呼び起こしたのだろう。
「そこでだが、今幸か不幸かアマスターのせいで国は半壊滅状態。おそらく俺たちを追うための戦力はそこまでは出せないだろう……何しろ兵を使いすぎると国が攻められるからな。だからこの隙に遠くに行く。だけど、このままだとじり貧だ。だから、アマスターの力からお前を解放する必要がある。そこで今から向かうのは、神聖都市、ロームだ。あそこなら何か手がかりがみつかるかもしれない」
「そう……じゃあ行きましょう。私たちの平穏のために」
そして俺たちは必死に歩いて、目的地に向かう。だが、一つ簡単にロームに向かうとは言っても、その距離は恐ろしいほどだ。
徒歩で三ヶ月ほど。一応馬で行けばかなりの時間を短縮できるが、あいにく二人は馬など持っていない。
そもそも、訓練された馬は、軍しか持っていないし、そもそも馬の維持費もたいそうなものになる。普通に現実的ではない。
その道中、平和な旅が続く。何も敵も来ない、平和な旅が。
そんな状況にシドは不穏だな、と思った。
流石に前のゾルティアみたいにアマスター関係の魔物が出るかもしれない。
そんな中、アナがふと思いついたかのように言う。
「移動手段だけど、竜使えばいいんじゃない?」
「竜?」
シドは不思議そうな顔をした。
「そう、竜。実は私竜を従えているんだ」
「はあ!?」
竜は太古の生物で、幻の生物だ。アマスターが従えていたという事が有名である。
当時はアマスターどころか、その配下の竜にさえ、単体で国を亡ぼす力があったとされている。つまり厄災の右手だ。
「でも、お前ならあり得るよな。てか、もっと早く言ってほしかったな」
「ごめん忘れてた」
「まあ、いいよ」
そして二人は竜に乗る。竜は速く、数百キロの速度で走る。これは人間の100倍の速度だ。これだと、想像以上に早く着くなと、シドは思った。
そしてしばらく飛んでいると、竜が疲れたそぶりを見せ始めた。
「流石に疲れちゃったのかな?」
「そうかもな」
そしてシドは竜を軽く人なでする。
「私に触っていいのはアナ様だけです」
そう冷たい言葉が返ってきてシドは軽くショックを受けた。
そして次の町で降り、宿に泊まる。
「今日もかなりの距離を移動しましたね」
「そうだね。とはいえ、最後の方は竜に助けてもらっていた気がするけど。……ところで、今竜はどうしているんだ?」
「えっとね。小さくなって、私の髪飾りの中に入っている」
そう言ってアナは自分の髪留めを外し、シドに見せる。なるほど、確かにその中に小さな竜が眠っている姿が見えた。
「その髪留めにも意味があったんだな」
「そういう事。……この調子でいけば明日にはもう着いちゃうかな?」
「流石にそれは速いだろ。まだ二日間くらいは移動しなきゃならない」
「そっかー」
そう、アナは苦い顔をした。
その瞬間、地面が揺らいだ。
「何だ一体」
シドは走って宿から出る。するとそこには一つ目の巨人が暴れながら、アナを出せ! アナを出せ‼ と、叫んでいる。
「お前は誰だ」
「お前こそ誰だ。アナを出せ」
「それは断る。抜刀シドノツルギ」
そしてそのツルギは自由自在に動き、巨人に向かって伸びていき、巨人の体に突き刺さる。
だが、ダメージはない。
(筋力か!?)
そうツルギは巨人の筋力によって、そこまでダメージを与えられていない。
シンプルだが、手ごわい相手だ。
耐久性が鬼のようにある。
「っくそ、もう少しだっていうのに!」
そうシドは呟く。流石にまたあの技を使うわけには行かない。あの技は寿命を大きく削るのだ。使いすぎると、身体能力まで落ちていしまう。
「ならば!」
祖度は炎を剣にまとった。その炎で、巨人に斬りかかり、そしてその傷口から、炎を流し込む。
こうすることで、うちから破壊してしまおうという事だ。
これで終われ! そうシドは祈る。だが、巨人は。
「思ったよりも効くなあ」
と言って、倒れるそぶりを見せない。
「ねえ、シドさん。何があったの?」
二階からアナが下りてきた。それを見てまずいと思ったシド。
「お前かあ」
そう巨人はアナ目掛けて走っていく。
「くそ、行かせるか」
そう言ってシドは必死に巨人の攻撃を防ぐ。だが、それも時間の問題だ。いつこの件が吹き飛ばされるか分からない。
そうだ。
「アナ! 僕のを剣狙って炎をぶつけてくれないか?」
さっきの剣は炎の威力が足りなかっただけかもしれない。
アナが「分かった!」と言って、剣を狙って炎の魔法を唱えた。
「ばっちりだ」
そうシドが言う。
「ブレイズソード!」
シドは叫び、その剣で敵を斬る。すると巨人の体に初めてまともな傷が入った。
「よし!」
だが、その瞬間シドの顔に巨人の拳が思いっきり入る。
「っくそ」
シドはその場を転々と転がる。
「お前!!」
「おではアナを連れ出すのが役目、お前らには邪魔させねえ」
目がマジだ。そう、二人は思った。
これは本気でやらなければ一瞬で連れ去られるとも。
「アナ、竜は?」
「だめ、今寝ちゃってます」
「だめか」
この状態の巨人には先程の手は通じそうにない。
詰みか……。
「シドさん! 私守られてばっかじゃいやです」
そう言ったアナは巨人に単身向かって行く。
「ん? お前おでのもとに来る気になったか?」
「そんなの嫌です!」
そしてアナは拳に炎を纏った。
「シドさんは私が守ります。守られるべきなんです!」
そして舜神、巨人の腹が大きくへこんだ。
「まさか、アナ、また暴走するなんてないよな」
「大丈夫ですよ! 私は強いですから」
シドはそう言う穴の顔を見て大丈夫だなと、思った。
そしてアナに任せようと。
「おりゃあ!!!」
そうアナは顔に見合わないような声を出し、巨人の腹を何発も殴り、そして5発目のパンチで巨人はその場に倒れた。
「やった! やりましたシドさん!」
そう叫ぶアナ。それに向かって「油断するな! アナ」そうシドが叫ぶ。するとアナが即座に後ろを振り返る。
すると巨人が向かってきてた。とりあえずその拳をアナの拳で受け取める。
「っしつこいですね」
「しつこいのがおでら巨人の長所だからなあ」
しかもそれだけではない、巨人の力が先ほどよりも大きくなっている。これでは、アナの手も限界だ。シドは起き上がろうとしたが、その瞬間に痛みが体に走る。
「くそ、俺は無力だ」
シドはそう叫ぶ。実際アナと巨人があそこで戦っているというのに。
「動け、俺の体!」
そうシドが叫んだ。そして痛みを我慢して何とか立ち上がる。
(そうだ、こちらから痛い体を動かさなくても)
そしてシドは剣を伸ばす。
「アナ、この剣に炎を与えてくれ」
「はい!」
そしてアナは一瞬手を剣の方に向け、剣に炎を与える。
そしてその剣は巨人の体を突き刺す。それにより巨人の体が一瞬崩れた。
「いまだ、アナ。行けえ!」
そして、アナの拳が巨人を今度こそ行動不能の状態に追い込んだ。
「やったのか?」
だが、
「魔物だああああ!!」
村人が叫ぶ。シドとアナがその方向を見ると、多数の魔物が向かっていた。
「マジかよ」
シドは呟く。まさか今まで平穏な旅が出来ていたのは、シドたちの油断を誘うため? そう考えると恐ろしく感じて来た。だが、今はこの村を守らなければならない。
やるしかない。
その魔物達をシドは剣を自由自在に伸ばし、遠隔で斬っていく。
アナも、炎の魔法で丁寧に一体ずつ焼き払って行き、時には魔物の集団の密集地帯を狙い、効果力の炎球を放ち焼き払っていく。だが、そんなものではなかなか魔物の群れは消えてはいかない。
「アナ! いったん村を離れろ」
シドは叫ぶ。魔物の狙いはアナ、つまりアナが言ったん村から離れたほうが、守りやすくなる。
「分かったわ!」
アナはそう叫び、ひたすらに走り、村から離れる。だが、魔物達は皆、村を襲う事をやめなかった。
「まさか……」
そう、魔物達にとっては村を壊滅させることなどたやすいことだ。村を滅ぼしてからアナを狙えばいい。もしも、アナを逃したとしても、アナの片割れのシドを殺せる。どう転がっても魔物達にとっていいことになる。
シドにとってこの村の人は今日あったばかりの人だ。だが、この村の人達を見捨て得t逃げることは、シドにはできない。
「うおおおおお!!! かかってこい!」
最悪アナさえ逃がせればそれでいい。
シドは力いっぱい敵の襲撃を食い止めていく。
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