ねんころり
晶月秋羅
ねんころり
大きな熊に喰われて目が覚めた。
私はもう眠りたくなどないのよ。必ず、絶対に嫌な夢を見る。それも決まって、死んだら目が覚める。恐ろしくて毎朝目が覚めるたびに、今日は寝ない。今日は寝ないと決めるけれど、座っていても立っていても。崩れるように眠りについているのです。
私は気狂いなのでしょう。賢くはないし、まともに働けやしない。兄様が働きに出ている間、私は草鞋を編むのが仕事です。眠りが悪いせいで草鞋の出来は悪い。売れても、一食も食えない程の銭にしかならない。わかっていれども、出来の悪い草鞋をゆっくりと編むのです。
兄様がさつまいもをもらって帰ってきた。嬉しい。嬉しい。けれども今日も私は死んで目が覚めた。明日も死ぬと目が覚める。明後日も死ぬと目が覚める。
もう死にたくない。もう眠りたくない。夜は寒い。寒いと嫌な事を考える。夢見が悪い。頭が重く下がってゆくと、もうどうしても起き上がれないのです。嫌な汗をかくから朝はもっと寒い。
いつからでしょう。心当たりはあれど、口にはしません。兄様には言いません。だって、知られれば私は、本当に気狂になってしまう。そうしたら仕事もさせてもらえなくなる。
母に会いたい。父は知らない。母を殺した父なんて、存在してはいけない。わたしはそんな人知らない。わたしが生まれて幼く、きっと酒に溺れて逃げてしまったのよ。嗚呼。嫌な人。いやらしく惨めで愚かな男。村の山で熊に喰われればいい。
でも知らない。何も知らない。
幼かった私は何も知らない。兄様は言います。母は病で亡くなった。父は出て行った。
嘘つき。
でも、私は何も知らない。怯えながら草鞋を編む。私は今日も可哀想な妹です。
眠る前に考える。死ななければきっと私は目が覚めなくなる。死ぬのは嫌だけれど、兄様を一人にはできないわ。私は今日も死んで目が覚める。
大きな鍬で頭をぶたれた。目が覚めると頭が痛くて。寒くて凍える。火を起こしてあさげを作る。私の下手な料理でも兄様は喜んで食べてくださる。
早くいい娘さんを捕まえてきて。兄様。そしたら私は死なずに済むのよ。
ねんころり 晶月秋羅 @AkiAki-22
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