Friendshipenis
Fuc休
夢想の終わりとオム・あわりさんラヴワールド
唐突に目が覚めた。
窓の外は既にぼんやりと青白いがこの時期は油断ができない。まだ、志していた起床時間より幾ばくかの猶予がある可能性が素粒子のように存在しているからだ。
僕は、そんなシュレーディンガーじみた現在時刻を確定させるため、スマホを手にとる。
AM4:30…
なんてことだ。惰眠を貪る余裕が十分に存在することが観測された。
人は決断を強いられることにストレスを感じる有機物である。本能のままに…、いや、怠惰な生活といったほうが適切であろうリズムで、半年という期間を僕は生き抜いた。適切な判断を行うためのニューロンが適切に退化しているという漠然とした確信を僕は習得している。
僕に与えられた選択肢は2つ。
「このまま2度寝する」か
「与えられた休日の余裕を神に感謝し、それを活かす」か…。
僕は1つ目の可能性について、独自のブレインストーミングを行った結果、当初の目覚めを実現できない確率をぼんやりと浮かばせていた。
30%
これは、カップ焼きそばにお湯を入れ、タイマー無しで適切な時期に湯切りのできる確率に近似している。ソースは僕の感覚だ。カップ焼きそばなだけに。リスクは低そうだ…。
しかし、この時、僕の魂に力強く植えられた”この木なんの木気になる木”に稲妻が走った。
「降水確率…」
気怠さを込めた声で、そう呟いた。コイツの30%はとてもリスキーだった。
僕は、カップ焼きそばにお湯を入れ、タイマー無しで適切な時期に湯切りのできる確率に、そこはかとない矜持を持っていた。しかし、今、鳥取砂丘に地盤改良を行わずに建築された物見やぐらが、ゆらゆらと揺れている…そんな情景を僕は見てしまったような気がした。“揺れる想い”を“体中に感じる”とはこのような気持ちなのであろうか。実際、今僕はまさに夢の中にいるようなものであった。
余談ではあるが、鳥取砂丘は”緑化問題”に悩まされているらしい。
本来砂丘に生えない外来植物が繁殖し、砂の移動を抑制することで美しい風紋や砂簾が失われ、景観が損なわれる問題だ。これは、戦後に植えられた防砂林が砂の固定化を招き、外来種が定着しやすい環境を作ったことが原因で、1970年頃から問題となり、一時は砂丘の半分近くが緑に覆われたこともあったらしい。現在も緑化は進行しており、砂丘の約2割に外来植物が定着しているため、ボランティアによる除草活動が行われている…。
昔、いや、昔というほど昔ではないかもしれないが、今は昔、ということにしておこう。青い春を謳歌していた17歳、退屈な授業で聞いたことがあるようなフレーズだ。その時にググった鳥取砂丘の緑化問題に幹をなす思い出が、僕の胸のうちにほんのり蘇生した。
僕のインスパイヤーはネクストステージに駆け上がったような気がしたが、それは杞憂であった。
降水確率30%…。
カップ焼きそばにお湯を入れ、タイマー無しで適切な時期に湯切りのできる確率のせいで、僕は何度ずぶ濡れになったことであろうか?本能はけたたましく警笛を鳴らす。
“僕の感覚”というソースを絡めたカップ焼きそばは、少々気まずい味がしそうなのである。
このようなシチュエーションでは降水確率について、いくらかの考察を加える必要がありそうだ。
降水確率とは、どのようなソース(カップ焼きそばのものではない)に基づいて測られた確率なのであろうか…?天気に詳しい人ならば知っているのかもしれない。
天気に詳しい人、あるいは天気に詳しい職業とは…?
「船員…」
自然と声が出た。出てしまった。
またの名を”船乗り”。航海の良し悪しは海の状態に左右される。海の状態は天候に左右される。きっと彼らなら天気に詳しいのかもしれない。
しかし、僕は船員という職業について「船の乗組員」であるという知識しか持ち合わせていなかった。ネット社会であるこのご時世、わからないことがあるときは“ググる”という術がある。だが、生憎、僕は今夢うつつの状態にあるのだ。どんなに便利なツールがあったとしても、それを用いるという気は毛頭ない。
ちなみに僕はスキンヘッドだ。
実家が寺ということで、このような髪型にしているが実家を継ぐ気は毛頭ない。スキンヘッドなだけに。叔父が税理士事務所を開業しており、僕に実家を継ぐ気がないのであれば、彼の事務所の後継者にしたいと住職を営んでいる兄、つまり僕の父に申し出たことがあった。父はそれを了承したため、僕は強制的に税理士試験の勉強をさせられたのであるが、数字に滅法弱いオツムのせいで、簿記3級を取得するのがせいぜいであった。苦学に耐え切れなくなった僕は、父と叔父の前で土下座しながら、税理士になることを断念する旨を伝え、それを認められたのである。それ以来父からは、「寺も継がない、税理士にもならない。ただの穀潰し」と、言葉にすることはないにしろ、そのような眼差しでみられることとなった。
思えば、僕の心にある“就職するという意思”が脆弱なのは、このトラウマが原因なのかもしれない。
とにかく、今の僕には起床し、PCに電源を入れ、ググるという行動をおこそうという気は毛頭なかったし、実際にリアルで毛頭なかった。
仕方がないので、僕は船員について、架空の人物を頭の中ででっち上げ、彼に船員ライフを送ってもらうことにした。
僕は夢想した…。
境港の空はクリアーに近い透明を思わせる蒼だった。“青”ではなく、“蒼”だった。“碧”でもなかったし、もちろん“藍”でもなかった。RGB値で例えるなら、おおよそ (0, 80, 120) や (50, 100, 150)で指定した色彩に透明感を加えたような感じの、そんな感じの“蒼”だった。「黄金の鉄の塊」という言葉があるが、この空を例えるなら「紺碧のクリアーに近い透明な蒼」といったところか。「白は200色ある」と主張する人がいるが、そんな人がこの空色を答えるなら、「何ちゃらホワイト」とでも称すのであろうか…。
境港は、その名の通り港町である。漁港が有名であり、海の幸を満喫できる観光地としても有名である。特にズワイガニが有名だ。
ズワイガニは10脚の蟹であり、深海に生息する蟹である。日本では高級食材と思われることが多いが、ズワイガニに限らず蟹という食材はすべからず高級食材と思われることが多い。しかし、食材という意味で蟹として扱われるタラバガニは、厳密にいえばヤドカリである。通常、蟹は10本の脚、つまり2本のハサミと8本の脚であるが、タラバガニは8本の脚で、ハサミ2本と脚6本である。これは、カーシニゼーション(蟹化現象)と呼ばれる収斂進化の結果である。蟹の形態が深海での生息に適しているため、蟹ではない生物も蟹のような形態に進化するのである。イルカやクジラといった海洋哺乳類が魚のような形状をしているのと同じ理屈である。話を戻すが、ズワイガニは漁獲される地域や時期でその名称が異なる。”越前ガニ”、”松葉ガニ”、”ベニズワイガニ”などである。
また、境港は”ゲゲゲの鬼太郎”の作者である水木しげる氏縁の地であることでも有名だ。
JR米子駅から境線に乗車し、終点である境港駅で下車すると眼前に”水木しげるロード”が広がっている。水木しげる氏の作品に登場する妖怪の銅像が点在しており、これを眺めるだけでも楽しい時間を送れる。道を往くとまさに“水木しげるショップ”とでもいうべき店舗が延々と立ち並び、様々な鬼太郎グッズを購入できる。鬼太郎グッズの他にも特筆すべき点がある。地酒を楽しめるということである。ロード沿いに“千代むすび酒造”という酒屋があり、ここで購入できる地酒”千代むすび”が逸品なのである。是非、一度お楽しみ頂きたい地酒だ。ロードの終端付近では”水木しげる記念館”が、何でもないような日々を幸せに思っていそうな観光客を出迎える。何年か前にリニューアルされ、それまでの妖怪メインであった展示から、水木しげる氏の足跡を辿る展示へと重点がシフトされることとなった。太平洋戦争を生き抜いた氏の体験に触れることで、日本人は大切な何かを取り戻すのであろう。記念館内にはショップも設けられており、他では購入困難な水木しげる氏の作品を購入できるのでお勧めである。
船が着岸すると船荷の積み降ろしが始まる。
私の仕事は船の航行に関することであるため、この時間は暇を持て余すことになる。そんなとき、私は喫茶店巡りをするよう習慣づけている。淹れたてのコーヒーの香りに包まれながら、紫煙をくゆらせるのが心の底から好きなのだ。
最近の喫茶店は、全席禁煙の店が増えた。とはいえ、境港のような地方で営んでいる個人経営と思われる喫茶店では、まだまだ喫煙可能なところも多い。
私好みの喫茶店を求めて街を彷徨っている間、なんとなく、船員という道を選んだ理由を思い出していた。
「ポチョムキン」
懐かしい単語がつい口に出てしまった。
ポチョムキンとは映画「戦艦ポチョムキン」のことである。1925年に公開されたソビエト連邦の白黒サイレント映画だ。小学生の頃、近所に「面白じいさん」と呼ばれる老人が住んでいた。面白じいさんの家へ遊びに行くとお小遣いやおやつをくれるので、悪友たちと何度も訪れた。面白じいさんは、私たちをリビングへ案内すると、必ずこの「戦艦ポチョムキン」をテレビで上映するのだ。なんでも、面白じいさんの曾祖父にあたる人が日露戦争への従軍経験があり、その縁で彼の家系はロシアやソビエトびいきなのだそうだ。当時でも既にテレビや映画には当然のように色がついていたため、白黒映画を見たのはこの映画が初めての経験だった。しかもサイレント。物珍しさから私はこの映画を非常に気に入り、次第に船や船員への興味を募らせていった。余談だが、面白じいさんが提供してくれるおやつはソーセージであることが多く、下半身すっぽんぽんの状態で「儂のソーセージもどうぢゃ?」と言われたことも多々あったが、あれはどういった類のギャグだったのだろう…。
独り言を誰かに聞かれていないかと顔を赤らめていた時、昭和の時代からこの地域に根を張っていたであろう外観の喫茶店を見つけた。駐車場には、味のある色褪せ方をしたベンツが停まっていた。
「こういうのでいいんだよ、こういうので」
これは独り言ではない。言ってみたくて口にしたのだ。
扉を開けるとドアベルが鳴る。いや、これはドアベルなのか?聞きなれたドアベルの調べではなく、どちらかというと風鈴のような音質に違和感を覚えるが、「風鈴を英語にするとウィンド・ベルということになる。ベルというカテゴリーにおいては大差ないのではなかろうか。」という妙な理論に納得した。
店に入ると奥のカウンターでは、愛を止めないで欲しいと懇願する主題歌で有名な都市の狩人に関する物語に登場する人物のような体格に恵まれた控えめにいって大男が、皿を拭いていた。私はこの大男を”海坊主”と心の中で呼ぶことに決めた。
そこはかとなく、ジャズの音色が漂う。この音はレコードか?私の期待が有頂天になるのを感じる。
カウンターにほど近い席に腰を下ろした。テーブルには灰皿が置かれている。
「ご注文は?」
背後から海坊主がオーダーを要求する。
「紅茶…」
コーヒーの淹れたての香りは好きだが、飲料としてのコーヒーはあまり好きではないのだ。
煙草にマッチで火をつけ、立ち昇る紫煙を眺めながら心地よい空間を堪能する。
海坊主がティーカップを私のテーブルに並べるのと同時に、風鈴のような音質が再び店内に響き渡った。
長く、ほんの少しだけ色抜きした暗めの髪を携え、色白で絹糸のような肌をした所謂“薄幸の美人”と称されるような女性が、大きめで少し切れ長な瞳をこちらへ向けて入口に立っていた。大学時代にタレント事務所にスカウトされ、モデルやレースクイーンを経てミュージシャンとして再デビューしたところ、ヒット曲を連発し、イメージ戦略としてその素性を出来る限り隠したところ、一流アーティストの仲間入りを果たすというシンデレラ・ストーリーを成し遂げるも、若くして病に侵され悲劇的な最期を迎える…、しかし、そんな彼女の歌声は、彼女がいなくなった後も沢山の人達に愛され続けている…。例えるなら、そんな人物の雰囲気を彼女は纏っていた。
「珍しいじゃん?客がいるなんて…」
容貌とは正反対の話し方をする女性だった。海坊主は女性に目を向けるが、言葉を発することはなかった。女性は私のいる席に近づき、対面に腰を下ろした。
「アンタ、この辺の人じゃないね?」
漫画やアニメで稀によく聞く台詞に心がどよめいた。自分は船員をしており、船荷の積み降ろしが続いている間に来店した旨を彼女に伝えた。
「へぇー。外国とか行ったりする?」
「…そうですね…。」
私は国内貨物船の船員だ。しかし、彼女の顔立ちが何かしら私の琴線に触れたのかもしれない。不本意ながら虚言を吐き出してしまう。
「一番面白かった国のことを教えてよ。」
「…」
言葉に詰まってしまった。変に名の知れた国のことを話すとボロが出る。
「バヌアツ…なんてどうですか?」
バヌアツの法則。それは南太平洋のメラネシア地域に存在するバヌアツ共和国、もしくはその近辺で、比較的大きめの地震が発生すると日本でも大きな地震が発生するというものである。科学的根拠が薄いとされ、どちらかというと都市伝説のような扱われ方をする法則であるが、何故か心惹かれる語感のせいで、昔ネットでバヌアツ共和国を含めて調べたことがあった。
「それ、どこにあるの?」
彼女の眉が少しだけ吊り上がったような気がしたが、目論見通り、彼女はバヌアツという国を知らないらしい。しかし、知識量という点では私も大差ないのである。
「ニュージーランドの北のほうで、オーストラリアの東のほうにある島国ですよ…」
私は即興で“バヌアツ体験記”を捏造することとなった…。
ポートビラの空はクリアーに近い透明を思わせる蒼だった。“青”ではなく、“蒼”だった。“碧”でもなかったし、もちろん“藍”でもなかった。RGB値で例えるなら、おおよそ (0, 80, 120) や (50, 100, 150)で指定した色彩に透明感を加えたような感じの、そんな感じの“蒼”だった。「黄金の鉄の塊」という言葉があるが、この空を例えるなら「紺碧のクリアーに近い透明な蒼」といったところか。「白は200色ある」と主張する人がいるが、そんな人がこの空色を答えるなら、「何ちゃらホワイト」とでも称すのであろうか…。
バヌアツは、正式名称を「バヌアツ共和国」と称し、南太平洋のメラネシア地域に存在する島国である。島の数は83。そのうち65島が有人島である。主な島にはエスピリトゥサント、マレクラ、エファテなどがある。首都はポートビラで、エファテ島にある。公式言語はビスラマ語、英語、フランス語。ビスラマ語とは、英語をベースに現地語やフランス語の要素が混ざった言語である。通貨はバツ(VT)。2025年9月のレートでは1バツ=1.24円くらいである。バンジージャンプは、バヌアツの「ナンゴル」と呼ばれる儀式が起源とされる。あの「エロマンガ島」はバヌアツにある島である。日本では「バヌアツの法則」が有名であるが、これはバヌアツ、もしくはその近辺で、比較的大きめの地震が発生すると日本でも大きな地震が発生するというものであるが、科学的根拠が薄いとされ、どちらかというと都市伝説のような扱われ方をする法則である。
船が着岸すると船荷の積み降ろしが始まる。
私の仕事は船の航行に関することであるため、この期間は暇を持て余すことになる。
この仕事を始めた頃は、訪れる国がどんな国なのかネットで軽く調べるくらいはしていたが、船員として“慣れ”のようなものが自分の中で出来上がるにつれ、そのような行動を起こすことは少なくなっていた。
「さて、どうやって暇を潰そうか…」
心の中で独り言ちると背後に気配を感じた。振り返ると南国っぽく日焼けした男性が立っていた。
「コニチワ!!」
私と同年代らしい男性がそう言った。
「ワッターシ、ココデ、ハタラテマス!アタナ、ニッポディン?」
「イエス アイアムジャパニーズ」
バヌアツでは、英語が結構通じるらしい。同僚がそう言っていた。
「タイチョーブ、ワッターシ、ニッポゴ、シャベレマス」
怪しい日本語ではあるが、なんとなく彼の言わんとすることはわかるので、彼の厚意に甘えることにした。
「ワッターシ、ニッポノ、マヌガ、シュキデス、エロマヌガー、ディァ、ナイヨッ!」
彼は日本の漫画が好きらしい。日本の漫画やアニメが世界中で愛されていることは知っていたが、まさか日本から空路でフィジー経由で約10時間もかかる遠く離れた南太平洋の島国にまで影響を与えているとは思わなかった。
「どんな漫画が好きなの?」
彼の好きな漫画がどのような作品なのか興味を持った。西遊記と里見八犬伝が元ネタの漫画か、忍ばない忍者の漫画か、そのどちらか、またはそれらに近しい漫画であろうと高を括っていた。
「のらくろ、デース!」
オウフwww予想もしてなかった変化球な回答キタコレですねwww
おっとっとwww私『キタコレ』などとついネット用語がwww
まあ私の場合漫画好きとは言っても、いわゆる娯楽としての漫画でなく
メタSF作品として見ているちょっと変わり者ですのでwwwダン・シモンズの影響がですねwwww
ドプフォwwwついマニアックな知識が出てしまいましたwwwいや失敬失敬www
まあ萌えのメタファーとしての赤塚不二夫は純粋によく書けてるなと賞賛できますがwww
私みたいに一歩引いた見方をするとですねwwwポスト手塚治虫のメタファーと
商業主義のキッチュさを引き継いだキャラとしてのですねwww
楳図かずおの文学性はですねwwww
フォカヌポウwww私これではまるでオタクみたいwww
私はオタクではござらんのでwwwコポォ
知らねーよ!全っ然知らねーよ!!ちょ、待って!今調べるからっ!!
「のらくろ」についてスマホで調べた。日本の漫画界における物凄く偉大な作品であることは理解できたが、Wikipediaに記載された精密かつ膨大な情報のせいで立ち眩みを覚えてしまった。私はこれ以上理解することを諦めた。
「ごめん。私はのらくろのことを詳しく知らないんだ…。」
「ソー、ディスカ…、ザーメン、デース…」
人当たりの良い彼の笑顔が、少しだけ…、ほんの少しだけ曇った。申し訳ない気持ちが次の言葉を私に言わせることを後押しした。
「バヌアツ、良いところだね。よかったら色々と案内してくれないか?」
「ワカリマスタ!ドンナバッショイ、キタイー、ディスカ?」
少しだけ…、ほんの少しだけ曇った彼の笑顔が、少しだけ…、ほんの少しだけ晴れ渡ったような気がした。
マウント・ヤスール火山
タンナ島にあるこの火山は、「世界で最もアクセスしやすい活火山」として知られ、圧倒的な自然の力を体感できる場所であり、約800年間、ほぼ継続的に噴火を続けている。
彼の運転で麓まで赴くこととなった。車内では彼と日本の漫画やアニメの話をした。
「朝比奈みくる、ニョ、文学性、ハディスニェwwww」
彼は、のらくろ以外の日本の漫画やアニメについても造詣が深かったので、私が知っている作品についても語り合うことができた。楽しそうに語る彼を見ていて、私は暖かい気持ちになった。彼は火山ツアーガイドの資格を持っているようなので、現地でのちょっとした手続きをスムーズにこなすことができた。火口付近までのちょっとしたハイキングでは、「ダン・シモンズの影響」について、ちょっとした議論に花を咲かせていた。
目的地へ到着すると、早速私は火口の淵に立ってみた。急に脚の筋力が衰えてしまったような感覚がした。
生き生きと噴石を吐き出す火口を尻目に
「タイチョーブ、イスィコ、ヌァイ!」
と、彼は笑って言ってたけど、私は気が気ではなかった。
シャンパンビーチ
彼がシャンパンビーチまでのツアーをセッティングしてくれた。
エスピリトゥサント島の白い砂浜と輝く青い海で、世界屈指の美しさを誇りつつ、海底から気泡が湧き出す現象が名前の由来であるこのビーチで、シュノーケリングに興じてみた。海の色は青かった。“蒼”ではなく、“青”だった。“碧”でもなかったし、もちろん“藍”でもなかった。RGB値で例えるなら、おおよそ (135, 206, 235) で指定した色彩だった。「黄金の鉄の塊」という言葉があるが、この海の色になぞらえてみる気など毛頭なかった。この圧倒的な“青”の中では、「白は200色ある」と主張する人でも、”白”や”ホワイト”といった表現は慎むのではなかろうか。
彼がセッティングしてくれたツアーでは、夕暮れ時にBBQをすることとなっていた。
網の上に乗せられたプーレ魚は、私のこれまでの人生で嗅いだことがない美味しそうな臭いを漂わせていた。同じ網に乗せられたロブスターも香ばしさを漂わせているようだった。”ようだった”と感じたのは、私にロブスターの正確な香りについての記憶が付随していなかったからである。しかし、確実に、これも美味しいという確信を持っていた。
エロマンガ島
彼と日本の漫画の話をしていると、所謂”大人の”漫画の話になった。
「バヌアツ、エロマヌガー、シマ、アルヨ」
エロマンガ島…。日本人男性の約80%(私の頭におぼろげに浮かんだ割合)が聞いたことのあるその名称に俄然興味が湧いた。
滞在しているポートビラからエロマンガ島までの渡航手段は限られている。国内便は週に1~2便しかなく、他の渡航手段だと費用がかさむこととなる。エロマンガ島旅行の難易度を日本国内の観光地で例えるなら“屋久島”くらいであろうか。私に残されているバヌアツ滞在期間を考慮すると更に難易度は跳ね上がる…。
「ワッターシタチモ、アマリ、イカナイネー」
彼のこの言葉でエロマンガ島上陸作戦を断念することにした。
ポートビラ
私の乗る船が、明日出航することとなった。彼にその旨を伝えると、
「ディヤァ、ポートビランオ、オシシイミッセ、オンスエルョ!」
とのことだった。
彼の日本語にもだいぶ慣れることができたこのバヌアツ珍道中、その最終章はポートビラ観光となった。
バヌアツグルメとして外すことができないのは「ラップラップ」である。すりおろしたタロイモ、ヤムイモ、キャッサバ、またはバナナをココナッツミルクで混ぜ、バナナの葉に包んで地下オーブンで焼くプディング状の料理だ。豚肉、鶏肉、魚、または野菜をトッピングして食すのが一般的である。ねっとりした食感とココナッツの甘みが南国の味覚の極みを連想させる。彼に連れてかれた店のラップラップは本当に美味しかった。
彼との“最後の漫画談義”を存分に堪能した後、彼は小腹が減ったと言い出した。では、何かを食べようということになったのだが、彼は、
「バヌアツ、ビィフュ、ウマイ」
と言い放った。実は、バヌアツは牛肉も有名らしい。化学肥料や抗生物質をほぼ使用しない自然環境で育てられた牛のビーフは世界的な評価を得ているとのことだった。間食で牛肉を食すことに躊躇いを覚えたが、バヌアツ最後の思い出作りだと思い彼に主導権を渡すことにした。ポートビラマーケットに赴くと、彼は親戚がやっているという屋台に私を案内した。ブロック状にカットされたビーフの串焼きを提供している屋台だった。美味しかった。とても美味しかったが、“夢を沢山詰め込めることが可能である”ことに定評がある私の頭脳に似通った私の味覚が導き出した結論は、「オージービーフみたいだな」であった。
彼と過ごしたバヌアツの日々は、まるで水木しげる氏とトライ族との交流を思わせるようなものだった。私は彼に、再開した暁には「のらくろ」について思う存分語り合おうと約束した。
甲板にいた私は、エファテ島の島影が見えなくなると空を見上げた。空はクリアーに近い透明を思わせる蒼だった。“青”ではなく、“蒼”だった。“碧”でもなかったし、もちろん“藍”でもなかった。RGB値で例えるなら、おおよそ (0, 80, 120) や (50, 100, 150)で指定した色彩に透明感を加えたような感じの、そんな感じの“蒼”だった。「黄金の鉄の塊」という言葉があるが、この空を例えるなら「紺碧のクリアーに近い透明な蒼」といったところか。「白は200色ある」と主張する人がいるが、そんな人がこの空色を答えるなら、「何ちゃらホワイト」とでも称すのであろうか…。
私は即興で捏造した“バヌアツ体験記”を彼女へ語り終えた。彼女は私の話に少しむっとしたように唇を尖らせた。数秒後、三度(みたび)風鈴のような音質が店内に響き渡った後、入店した二名の男性が私達にほど近い席へ着いた。
「あたいに学がないからってバカにしてるでしょ?」
その声にかぶさるように、四度目の風鈴のような音質が店内に響き渡り、初老の男性が姿を現した。
「お!忍者キッドさんとレオンさん!奇遇ですね!」
初老の男性が二人組に声をかける。すると二人組の片割れが応じる。
「おお!そういう貴兄はキュンポ氏ではないか!敬礼!」
彼女の言葉と三人組の会話が平行して店内でスウィングし始めた。
「煙草、吸ってもよろしいですか?」
「あたい、なんか賢そうに思われることが多いんだけど、中卒だかんね!高校中退だよ、こ・う・こ・お・ちゅー・た・いっ!!」
「いいよー。キュンポ氏、一日に何本くらい煙草吸ってるの?」
「ふた箱くらいですね。」
「喫煙年数はどれくらいですか?」
「30年くらいですね。」
「あたいがバヌアツのコト、なんも知らないだろうと思ってテキトーなこと言ってんでしょ!」
「そーなんだー。ところで店の前にベンツが停まってたよね?」
「停まっていましたね。」
「もしキュンポ氏が煙草を吸ってなかったら…」
「あたいのおばーちゃん、バヌアツ人なんだよっ!!!」
「ちくわ大明神」
「バヌアツくらい買えてたんだよー。」
私は限界だと思い、海坊主へ紅茶の代金を支払うと足早に店を出た。
船へ戻るまでの道中で見上げた境港の空は、クリアーに近い透明を思わせる蒼だった。“青”ではなく、“蒼”だった。“碧”でもなかったし、もちろん“藍”でもなかった。RGB値で例えるなら、おおよそ (0, 80, 120) や (50, 100, 150)で指定した色彩に透明感を加えたような感じの、そんな感じの“蒼”だった。「黄金の鉄の塊」という言葉があるが、この空を例えるなら「紺碧のクリアーに近い透明な蒼」といったところか。「白は200色ある」と主張する人がいるが、そんな人がこの空色を答えるなら、「何ちゃらホワイト」とでも称すのであろうか…。
僕は船員についての夢想の物語が終わってしまったことに気づいた。空の色に関する件(くだり)は擦りすぎかな、と反省した。そんなことを考えたり、こんなことも考えた。「お巡りさん、こっちです!」という言葉があるが、「お巡りさん」を「オムあわりさん」に変換し、「オムあわりさん、こっちです!」とすることでラヴが注入されるような気がするのである。199x年に地球は愛の炎につつまれて、とげとげしい肩パッドを装着したモヒカンの男性たちが「オイ!ジジィ!農業大変だろ?オレらがやってやっから、すっこんでろっ!!」という風景が日常の、そんなパラレルワールドについて想いを馳せてみるのも良いのかもしれない。これには常々「愛をとりもどせ!」と訴え続けていたクリスタルキングもニッコリである。さしずめ、今の僕の心境を告白すると「夢想の終わりとオム・あわりさんラヴワールド」といったところか…。
「地球は…」
僕は言葉を発していた。地球は“球体”である。物心がついた3年後くらいに習得した概念である。しかし、この概念を理解できず地球は平面であると信じている人が、世界にはそれなりの人数存在するらしく、そのような人々を「フラットアーサー」と呼ぶらしい。漢字で表記すると「地球平」である。海に関する一家の大黒柱の父であり、財布を忘れただけでバキバキにキマってしまうエキセントリックな主人公にとっては祖父にあたる。嘘である。フラットアーサーには以下のような心理的特徴があるとされている。
・権威への不信
公的機関に対する強い不信感を持ち、これらの機関が真実を隠していると信じ、公式の科学情報を「洗脳」や「陰謀」とみなす。
・確証バイアス
地球が平らだという信念を裏付ける情報だけを受け入れ、反証する証拠を無視する。
・単純化志向
複雑な科学的説明よりも、感覚的・直感的な“地平線が平らに見える”などの説明を好む。
・自己効力感の追求
“真実を発見した”、“目覚めた”と感じることで、特別な知識を持つという自己肯定感を得る。
・懐疑的思考の極端化
科学や権威に疑問を持つことは健全な心理的傾向ではあるが、それが極端になり、すべての科学的証拠を否定する方向に思考が進んでしまう。
フラットアーサーが好みそうな陰謀論を考えてみたところ、“世界の裏の支配者”系が妥当であった。今、一番熱い裏の支配者は、洋風花札大統領が継続戦闘中で有名な「DS(ディープステート)」である。政府や国家の公式な構造の裏で実権を握り、政策や世界情勢を操る非公式なエリート集団(官僚、軍、情報機関、財界、メディアなど)を指す。「闇の政府」とも言われており、日本では財務省や厚生労働省がDSの手先であると考える人が多いようだ。また、頑張っている人達の足を引っ張ることが“平等”や“公平”であると考えがちな大二病患者達がDSと“国際金融資本”を結び付けて陰謀論を語ることもある。陰謀論上での国際金融資本とは、以下の集団や機関を指すとされる。
・銀行家一族
ロスチャイルド家、ロックフェラー家などの歴史的に金融業で影響力を持った一族。
・国際金融機関
国際通貨基金(IMF)、世界銀行(World Bank)、連邦準備制度(FRB)、欧州中央銀行(ECB)など。
・経済フォーラム
世界経済フォーラムが、グローバルエリートの集会として「陰謀の司令塔」とされることが多い。
・多国籍企業
世界的な銀行やIT企業、軍需産業や製薬会社を指すことが多い。
DSと国際金融資本関連の話題で外してはいけないのが「新世界秩序(ニューワールドオーダー)」(以下、NWOと称す)である。秘密のエリート集団が単一の世界政府を樹立し、監視社会やグローバル支配を実現しようとする計画である。以下、NWOの概要を紹介する。
・単一世界政府の樹立
国家主権を廃し、国連や世界経済フォーラムを基盤とした世界政府を設立。民主主義や個人の自由が抑圧され、エリートによる全体主義を実現させる。
・人口削減計画
ワクチン、5G、気象兵器等を駆使することで世界人口を削減し、エリートによる資源の独占を実現させる。
・監視社会とデジタル統制
デジタル通貨、社会信用システム、キャッシュレス社会を通じて、個人の行動を監視・統制する。
・経済危機の演出
国際金融資本が経済危機や戦争を意図的に引き起こし、NWOの必要性に関するプロパガンダを展開する。
DS、国際金融資本及びNWOに関連する文脈には、イルミナティやフリーメイソン、三百人委員会など、馴染みのある名称もちらほら散見することができるため、初心者にも安心してお勧めできる陰謀論である。
他にも、初心者用オススメ陰謀論に”予言界隈”がある。2025年7月5日の件で常識人界隈でも一定の市民権を得た印象のある界隈である。気象庁が「デマに踊らされないで」という旨のメッセージを報道したり、日本への航空便が減便されるなど、ネット上だけでなくリアル社会にも多大な影響を与えた。2025年6月頃になると、YouTube上では「大災難、2025年7月5日ではなかった!!」系の動画がワラワラと雨後の竹の子のようにアップロードされ始めた。節操の無さに基づく滑稽さと商魂の逞しさがブレンドされ、アーモンドをローストしたときの匂いに近い雰囲気を漂わせていた記憶がある。2025年7月5日に大災難は発生しなかったが、予防線を張っていた香ばしいインフルエンサー達は何食わぬ顔で「2025年8月15日」、「2025年8月28日」、「2025年8月30日」、「2025年9月」と、「滅亡の日」をクリエイトし続けているのである。ここで、予言界隈のカテゴリーをいくつか紹介したい。
・メジャー系予言者
ノストラ先生の愛称で親しまれるノストラダムスを始めとした名の知れた予言者たちである。以下に有名どころを紹介する。(敬称略)
たつき諒、ババ・ヴァンガ、ベラ・コチェフスカ、エドガー・ケイシー、ルドルフ・シュタイナー、出口王仁三郎、岡本天明(日月神事)、冝保愛子、松原照子、ミシェル・ハーイク、アビギャ・アナンド、ジュセリーノ・ノブレガ・ダ・ルース、アトス・サロメ、クレイグ・ハミルトン・パーカー、ジーン・ディクソン
・インディーズ系予言者
主に匿名掲示板へ予言を投稿している人達。メジャー系とは違い、自ら名乗りをあげることはなく、スレ民からの愛称で呼ばれることが多い。有名どころは以下のとおり。
よーさん、伊勢女、隣家のおばあちゃん、臨終予言
・未来人系
ジョン・タイターに代表される現代へやってきた未来人たちの予言である。彼らにとっては予言ではないため、あくまで過去の出来事を我々に教示するという体を取っている。彼らが元にいた時代の西暦から「20xx年未来人」や「20xx年氏」のように呼ばれることが一般的である。オススメの未来人は、2062年未来人、未来人原田である。
・三上編集長
言わずと知れた月刊ムーの5代目編集長。予言者ではないが、予言者みたいな人である。
スマホのアラームが鳴り、僕は、僕に戻っていたことに気づいた。
AM8:00…
なんてことだ。惰眠を貪ることもなく、与えられた休日の余裕を神に感謝し、それを活かすこともできず、ただただ下らない妄想に3時間以上も費やしてしまった。しかし、不思議と罪悪感はなかった。僕はニート。就労意欲が僕の胸の内で激しく燃え上がるまで、もしくは両親が元気なうちは、時間は腐るほどにある。
「Welcome to Underground」
僕はささやいた。自分の身の上を思って。
シャワーを浴びると、神棚に向かって手を合わせた。今、この瞬間を生きていることの感謝を神に捧げる。自堕落な生活を送っているという自覚から、少しは贖罪のようなことをしてみたい気持ちがあるからである。神前に立つための禊の意味合いを込めて毎朝シャワーを浴びることにしている。頭の中で謎のリセットがなされて何となく、その日の調子が良くなるからである。
AM8:30
ちぬ子タソの朝配信の時間となった。
「ちぬ子タソ」とは、「頻縫ヶ谷ちぬ子(ひんぬうがたにちぬこ)」という名の登録者700人台の駆け出し個人系VTuberである。長く、ほんの少しだけ色抜きした暗めの髪を携え、大きめで少し切れ長な瞳が特徴的で、色白で絹糸のような肌をした所謂“薄幸の美人”と称されるようなアバターは、大学時代にタレント事務所にスカウトされ、モデルやレースクイーンを経てミュージシャンとして再デビューしたところ、ヒット曲を連発し、イメージ戦略としてその素性を出来る限り隠したところ、一流アーティストの仲間入りを果たすというシンデレラ・ストーリーを成し遂げるも、若くして病に侵され悲劇的な最期を迎える…、しかし、そんな彼女の歌声は、彼女がいなくなった後も沢山の人達に愛され続けている…、そんな人物に似た雰囲気を纏っている。“清楚系お姉さん”を自称しているが、所々に育ちの悪さが垣間見え、そんなところが妙に僕の好奇心を惹きつけるVTuberだ。
ちぬ子タソが、最近あった出来事を僕らに教えてくれた。カップ焼きそばを作れるようになったらしい。上手に湯切りができるようになり、所謂“麺だばぁ”をしなくなったとのこと。
「かやくを麺の下に入れてー、お湯を入れるとー、湯切りのときにねっ、とじ蓋にかやくがくっつかないんだよっ!!」
ちぬ子タソは楽し気に、そして誇らしげにカップ焼きそばのライフハックを語っていた。
しばらく経って話題が変わるとリスナー達はコメント欄で、相も変わらずちぬ子タソの年齢をいじっている。ちぬ子タソは27歳の妙齢の女性として扱われたいらしいのだが、ところどころで、昭和末期から平成初期に物心がついていないと整合性のとれない体験談を話すことが多いため、リスナー達から「アラフォー疑惑」を向けられているのである。
「私はアラフォーぢゃなーいー!」
いつものように含みのある猫撫で声でちぬ子タソが叫ぶと、僕は胃がひりつくのを感じた。
実は前回のちぬ子タソの配信で、僕はちぬ子タソに「アラフィフじゃないの?」とコメントしてしまったのだ。その時のちぬ子タソは、5度下の音に転調させた声で
「はぁぁぁっ?私がアラフィフなワケないでしょーっ!何いっとんじゃ、ゴルァァ!!」
と、僕のコメントに対し、髪が天を衝くような怒気を含んで遺憾の意を表明したのである。僕は今日の配信で、投げ銭機能であるスーパーチャットを用いて謝罪の意を示したいと考えていた。1万円以上の所謂「赤スパ」というもので、ちぬ子タソに僕の押し付けがましい贖罪を注目してもらいたかったのだ。しかし、ニートの僕には少々お高い買い物になってしまう。そんなことをぼんやり考えながら、最後の一歩を踏み出せないまま時は刻一刻と流れていった。
ちぬ子タソの配信が終わった。ちぬ子タソは僕のスーパーチャットを読上げてくれなかった。僕はスーパーチャットを投げなかったのだから当然だった。
AM10:48
僕は近所のコンビニにいた。買い物かごにはストロングスタイルの500ミリリットル缶チューハイ2本とカップ焼きそばが収まっていた。この時期は塩焼きそば系が幅を利かせているため、いつものソース系ではなく塩系で攻めることにした。自室でカップ焼きそばをかき込んでいたら、今日の夕方に友人と飲みに行く約束があったことを思い出した。
僕の名前は「光宙」と書いて「みつそら」と読む。いかにも寺の息子っぽい名前なのであるが、小学生時代から高校入学直後くらいまでの間、黄色くて愛らしい電気ネズミに因んだニックネームで呼ばれ続けていた。小学生時代は僕もまんざらでもなかったのだが、顔面にニキビが増えるのと反比例してこのニックネームへの好感度は下がっていき、高校入学時には“嫌だ”と思える水準になっていた。そんな僕に気を使ってくれたのか知らないが、高校生活最初のゴールデンウィークに入ろうかという時期に、隣の席であった彼が突然、僕に向かってこんなことを言った。
「君、滝廉太郎に似てるね?」
この時から僕のニックネームは「レンタロウ」となった。
僕は丸眼鏡を愛用しているが、髪型と同様に当時からそれは変わらなかった。どうも彼の命名理由はそれらしい。いつぞやに「滝廉太郎 画像」でググってみたけど、僕に似ていなかった。だけど、少年期ならまだしも思春期真っただ中の男子高校生には少々不適切なあだ名よりこっちの方がよかった。
それ以来彼との交流が続いている。奇しくも東京の同じ大学へ進学することとなり、一緒に上京して親交を温めた。僕は“就職するという意思”が脆弱なので就職活動を断念に近い形で失敗し帰郷したが、彼は東京の企業に就職しそのまま東京に残った。
ゴールデンウィークには帰郷しなかった彼が、祖父の新盆を迎えるからという理由で大学卒業後初めて帰郷することとなった折に、「それでは一緒に飲もうか」と、そういうこととなっていた。
そこで僕は重大なことを思い出す。無駄に自尊心の高い僕は、彼に「小学校の教員」に就くと嘘をついて帰郷していたのだった。無駄に自尊心の高い僕は、このことを重大に受け止め、無駄なことをし始めるのだった。
PCに電源を入れる。ググるという手段もあったが、せっかくなので今話題のAIを活用して小学校教員の実態に迫ろうと考えた。
「小学校教員の実態を教えてください。」
“教員不足の深刻な現状”などをAIは教えてくれた。AIって凄い!素直にそう思えた。しかし、違う、そうじゃない。僕は質問を変えてみた。
「小学校教員の生態を教えてください。」
すると、こんな回答を得ることができた。
小学校教員の生態について、簡潔かつ実際的に説明します。日本の小学校教員の生活や特徴を、日常業務、役割、働き方の観点からお伝えします。
1. 日常業務とスケジュール
・授業準備と実施
小学校教員の主な仕事は授業。1日4~6コマ(1コマ45分)の授業を担当し、教材作成や授業計画に多くの時間を費やす。黒板の板書計画、ワークシートの準備、ICT機器の活用(タブレットや電子黒板)も増えている。
・生徒対応
授業外では、児童の生活指導(ケンカの仲裁、悩み相談)、保護者対応(電話や面談)、学級経営(教室環境の整備、行事企画)を行う。
・事務作業
成績処理、通知表作成、校務分掌(委員会やクラブ活動の指導)、地域連携業務など、授業以外の業務が多岐にわたる。
・勤務時間
公式には7~8時間勤務だが、早朝や放課後の会議、部活動指導、持ち帰り仕事で実質10~12時間労働も珍しくない。特に新任教員は準備に時間がかかる。
2. 教員の特徴と生態
・コミュニケーション力
児童、保護者、同僚、管理職、地域住民と幅広い層と関わるため、高い対人スキルが求められる。保護者対応ではクレーム処理能力も必要。
・忍耐力と柔軟性
児童の突発的な行動や予定変更に対応するため、臨機応変な対応力がある。感情労働(笑顔や前向きな姿勢を維持)も多い。
・学習意欲
教育法や指導技術の変化に対応するため、研修や自己研鑽を続ける。ICT活用やインクルーシブ教育の知識も求められる。
3. 生活リズムとプライベート
・繁忙期と閑散期
学期末(通知表作成時期)、学校行事(運動会や学芸会)、入試・進級シーズンは特に忙しい。夏休みも研修や補習で完全な休みは少ない。
・プライベートの影響
長時間労働や精神的負担から、プライベート時間が削られがち。特に若手教員は仕事量に慣れるまで趣味や休息が後回しになることも。
・やりがいとストレス
児童の成長や感謝の言葉にやりがいを感じる一方、保護者対応や業務過多によるストレスも大きい。近年はメンタルヘルス支援も注目されている。
4. 最近のトレンドと課題
・働き方改革
文部科学省の推進で、業務効率化(ICT導入や分業化)が進むが、現場では依然として負担が大きい。教員不足も深刻で、1人当たりの業務量が増加。
・多様化する役割
特別支援教育や外国籍児童の対応、プログラミング教育など新たなスキルが求められる。地域との連携強化も進む。
・若手の離職問題
過労や理想と現実のギャップから、若手教員の離職率が課題。サポート体制の充実が求められている。
素晴らしい回答だった。これには鈴木雅之氏もニッコリだ。きっと逃がしてくれるし、愛も渡してくれると思う。小学校教員エアプの僕でもこの文章を暗記することができれば、想定された彼からの「レンタロウは、仕事もう慣れた?」という問いにも自然に回答できるような気がした。なので、僕はこの回答を暗記してみることにした。
一通り暗記を試み終えた僕の脳裏に1つの格言が浮かんだ。
「大事なことなので3回言いました。」
これは、「大事なことなので3回暗記しました。」に変換することが可能なのではないだろうか?飲酒した状態の現在の僕は、1回の暗記で想定された質問に対する回答を適切に導き出せるのか…?僕は、あと2回、暗記を試みた。
小学校教員の生態について、簡潔かつ実際的に説明します。日本の小学校教員の生活や特徴を、日常業務、役割、働き方の観点からお伝えします。
1. 日常業務とスケジュール
・授業準備と実施
小学校教員の主な仕事は授業。1日4~6コマ(1コマ45分)の授業を担当し、教材作成や授業計画に多くの時間を費やす。黒板の板書計画、ワークシートの準備、ICT機器の活用(タブレットや電子黒板)も増えている。
・生徒対応
授業外では、児童の生活指導(ケンカの仲裁、悩み相談)、保護者対応(電話や面談)、学級経営(教室環境の整備、行事企画)を行う。
・事務作業
成績処理、通知表作成、校務分掌(委員会やクラブ活動の指導)、地域連携業務など、授業以外の業務が多岐にわたる。
・勤務時間
公式には7~8時間勤務だが、早朝や放課後の会議、部活動指導、持ち帰り仕事で実質10~12時間労働も珍しくない。特に新任教員は準備に時間がかかる。
2. 教員の特徴と生態
・コミュニケーション力
児童、保護者、同僚、管理職、地域住民と幅広い層と関わるため、高い対人スキルが求められる。保護者対応ではクレーム処理能力も必要。
・忍耐力と柔軟性
児童の突発的な行動や予定変更に対応するため、臨機応変な対応力がある。感情労働(笑顔や前向きな姿勢を維持)も多い。
・学習意欲
教育法や指導技術の変化に対応するため、研修や自己研鑽を続ける。ICT活用やインクルーシブ教育の知識も求められる。
3. 生活リズムとプライベート
・繁忙期と閑散期
学期末(通知表作成時期)、学校行事(運動会や学芸会)、入試・進級シーズンは特に忙しい。夏休みも研修や補習で完全な休みは少ない。
・プライベートの影響
長時間労働や精神的負担から、プライベート時間が削られがち。特に若手教員は仕事量に慣れるまで趣味や休息が後回しになることも。
・やりがいとストレス
児童の成長や感謝の言葉にやりがいを感じる一方、保護者対応や業務過多によるストレスも大きい。近年はメンタルヘルス支援も注目されている。
4. 最近のトレンドと課題
・働き方改革
文部科学省の推進で、業務効率化(ICT導入や分業化)が進むが、現場では依然として負担が大きい。教員不足も深刻で、1人当たりの業務量が増加。
・多様化する役割
特別支援教育や外国籍児童の対応、プログラミング教育など新たなスキルが求められる。地域との連携強化も進む。
・若手の離職問題
過労や理想と現実のギャップから、若手教員の離職率が課題。サポート体制の充実が求められている。
あと1回。
小学校教員の生態について、簡潔かつ実際的に説明します。日本の小学校教員の生活や特徴を、日常業務、役割、働き方の観点からお伝えします。
1. 日常業務とスケジュール
・授業準備と実施
小学校教員の主な仕事は授業。1日4~6コマ(1コマ45分)の授業を担当し、教材作成や授業計画に多くの時間を費やす。黒板の板書計画、ワークシートの準備、ICT機器の活用(タブレットや電子黒板)も増えている。
・生徒対応
授業外では、児童の生活指導(ケンカの仲裁、悩み相談)、保護者対応(電話や面談)、学級経営(教室環境の整備、行事企画)を行う。
・事務作業
成績処理、通知表作成、校務分掌(委員会やクラブ活動の指導)、地域連携業務など、授業以外の業務が多岐にわたる。
・勤務時間
公式には7~8時間勤務だが、早朝や放課後の会議、部活動指導、持ち帰り仕事で実質10~12時間労働も珍しくない。特に新任教員は準備に時間がかかる。
2. 教員の特徴と生態
・コミュニケーション力
児童、保護者、同僚、管理職、地域住民と幅広い層と関わるため、高い対人スキルが求められる。保護者対応ではクレーム処理能力も必要。
・忍耐力と柔軟性
児童の突発的な行動や予定変更に対応するため、臨機応変な対応力がある。感情労働(笑顔や前向きな姿勢を維持)も多い。
・学習意欲
教育法や指導技術の変化に対応するため、研修や自己研鑽を続ける。ICT活用やインクルーシブ教育の知識も求められる。
3. 生活リズムとプライベート
・繁忙期と閑散期
学期末(通知表作成時期)、学校行事(運動会や学芸会)、入試・進級シーズンは特に忙しい。夏休みも研修や補習で完全な休みは少ない。
・プライベートの影響
長時間労働や精神的負担から、プライベート時間が削られがち。特に若手教員は仕事量に慣れるまで趣味や休息が後回しになることも。
・やりがいとストレス
児童の成長や感謝の言葉にやりがいを感じる一方、保護者対応や業務過多によるストレスも大きい。近年はメンタルヘルス支援も注目されている。
4. 最近のトレンドと課題
・働き方改革
文部科学省の推進で、業務効率化(ICT導入や分業化)が進むが、現場では依然として負担が大きい。教員不足も深刻で、1人当たりの業務量が増加。
・多様化する役割
特別支援教育や外国籍児童の対応、プログラミング教育など新たなスキルが求められる。地域との連携強化も進む。
・若手の離職問題
過労や理想と現実のギャップから、若手教員の離職率が課題。サポート体制の充実が求められている。
「仏の顔も三度まで」という諺があるが、酔っぱらった状態であるとはいえ3回も暗記した僕は、小学校教員に成りすますことが可能であることは確定的に明らかだった。なので、昼寝した。
PM16:41
昼寝を終えた。僕は身支度を整え外出した。
PM17:07
友人が待ち合わせ場所にやって来た。
「久しぶりだな!!」
そういう彼の右手首を僕は掴み、僕の僕へと誘(いざな)いながら言った。
「ともだちんこ!!」
顔面を思い切り殴られた。
Friendshipenis Fuc休 @Fuc_Kyou
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