【羊女とテニス】眠れる彼女を起こしたら、テニス人生が変わり始めた話

已己巳己

角を掴む彼と眠る彼女

「白石さん。あんまり、動かないで」

「一ノ瀬さん、くすぐったいです……あっ」

「くそっ、どうして抜けないんだ……」


こんな会話が、テニス会場の隅っこで交わされていたら――

誰だって“いちゃついてるアホなカップル”だと思うだろう。


だが俺たちは、やましいことなんてしていない。


「この角、やっぱり頭から生えてるみたいです……」

「嘘だろ……」


現在の時刻は午前十時半。

ここは日本。異世界でも夢でもない、現実のはずだ。


けれど目の前にいるのは、

羊のアモン角みたいな渦巻きを、

頭の両側に生やした――少女。


――白石結晶しらいしゆき――



テニスウェア姿で、少し恥ずかしそうに俯いている。

それが今の俺の目の前にある、現実だった。


……なぜ俺はこんなことをしているんだっけ。

確か30分前までは――

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