微睡みのなかで
詠暁
微睡みのなかで
「天国ってあると思う?」
狭いひとり用のベットの、ふかふかの毛布の中であなたがそう口にしたとき、これで最後だと悟った。
「天国なんかあったら、みんな死んじゃうじゃんか」
だからわたしは笑ってそう答える。いつもみたいに自信満々、わたしがこの世の真理だって顔をして。
「じゃあ、死んだ人はどこにいるの?」
あなたはわたしといるときだけ、見た目よりも幼い喋り方をする。手繰り寄せるように言葉を紡ごうとする姿はかわいらしくて、すごくかわいそうだ。
「痛みと一緒に心の中で生きてるんだよ、きっと」
「あなたみたいに?」
あなたはわたしを不安そうな顔で見上げていたけれど、上手いことを言うなあって思ったらおかしくって、肩をふるわせた。
「そうね、わたしとはちょっと違うけれど」
やっぱりわたしはもうあなたには必要ないみたい。微笑もうとしたら透明になってしまいそうで、これが痛みかと思った。
初めて会った日のようにそのやわらかい頬をそっと撫でると、あなたの身体からとろとろと力が抜けていくのがわかった。
――いいこね。
あなたが目覚めてすぐにわたしを探さないよう、まつ毛の先にちいさな魔法をかけて囁く。
「もうおそいから、ほら、明日の朝ごはんはフレンチトーストにでもしよう」
おやすみ。あなたはもう大丈夫。あなたがわたしを望むなら、きっとまた会えるから。
そのときまで、あなたの心にいさせてね。
微睡みのなかで 詠暁 @yoniakewo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ボトルメール/小野飛鳥
★24 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます