微睡みのなかで

詠暁

微睡みのなかで

「天国ってあると思う?」

 狭いひとり用のベットの、ふかふかの毛布の中であなたがそう口にしたとき、これで最後だと悟った。

「天国なんかあったら、みんな死んじゃうじゃんか」

 だからわたしは笑ってそう答える。いつもみたいに自信満々、わたしがこの世の真理だって顔をして。

「じゃあ、死んだ人はどこにいるの?」

 あなたはわたしといるときだけ、見た目よりも幼い喋り方をする。手繰り寄せるように言葉を紡ごうとする姿はかわいらしくて、すごくかわいそうだ。

「痛みと一緒に心の中で生きてるんだよ、きっと」

「あなたみたいに?」

 あなたはわたしを不安そうな顔で見上げていたけれど、上手いことを言うなあって思ったらおかしくって、肩をふるわせた。

「そうね、わたしとはちょっと違うけれど」

 やっぱりわたしはもうあなたには必要ないみたい。微笑もうとしたら透明になってしまいそうで、これが痛みかと思った。

 初めて会った日のようにそのやわらかい頬をそっと撫でると、あなたの身体からとろとろと力が抜けていくのがわかった。

――いいこね。

 あなたが目覚めてすぐにわたしを探さないよう、まつ毛の先にちいさな魔法をかけて囁く。

「もうおそいから、ほら、明日の朝ごはんはフレンチトーストにでもしよう」

 おやすみ。あなたはもう大丈夫。あなたがわたしを望むなら、きっとまた会えるから。

 そのときまで、あなたの心にいさせてね。

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微睡みのなかで 詠暁 @yoniakewo

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