第32話 付き合ってもいないバカップル

「やっぱうち、人ごみ苦手だなって」

「え、それだけ?」

「こう、想像してみて。ソファーにさ、ウチのベースとボーカルが座ってるの。チャラい男たちの膝の上に、で、ギャルっぽい女の子たちもいるわけ。それ見て私は思うの。あー人口密度高いなって」

「混ざっていきなよ! ギターボーカル! 一番人気あっただろ?」

「いや、私はあんまりペタペタ触られたくない」

「……分かったよ。トリオさんには体の底から映画同好会がぴったりだよ。この狭い部室には、マックスでも三人だよ」

「で、私やめるわって言って。ギターボーカルのアンタがいないと、このバンド成り立たなくなる! って。その頃にはもう、二人はバンド中毒だった。やっと手に入れた名声を手放すのが惜しかったのさ。そんな二人を見てるのもしんどかったよ。私は抜けて、人気者になった二人は──映画同好会には戻ってこなかった。二人に以前ほどの人気はないが、あの人気者としての生活の中でコミ力と友達を手に入れた」

「トリオさんは、成長しなかったんだ」

「うん。この通り。わー」

「わー」

「……じゃあ、三人目のメンバーを勧誘しに行こう」

「暗っ」

「新しいお友達に会いに行こっ!」

「きもっ」

「だるいわー」

「いったん休憩してから行こうぜ」

「ホテル休憩?」

「部室休憩」

「部室は二人の愛の部屋っ!」

「なんなん、さっきからそのアニメ声」

「声優になれるかなあ」

「画面の向こうの視聴者が皆吐くよ。録音してるエンジニアの時点で吐くかな」

「レコーディングブースがゲロで見えなくなるね。あー、ネガティブー……もっと褒めてー」

「肌綺麗だね」

「ありがとう」

「ねだ……いれき……だは!」

「何も言うことないんかい!」

「そんな急に言われてもパッとは思い付かないって」

「じゃあ五分やる」


「はい、五分経ちましたー」

「もうかー……自信ないけどなー」

「それじゃあ、発表、お願いします。撮御莉緒のいいところ!」

「話しかけたら、嬉しそうに振り向いてくれる」

「これはカワイイですねー。いいよー、次!」

「無意識にパンツの食い込みを直す」

「これはフェチですねー。いいですよー」

「よく、スマホを見ながらニヤニヤしてる」

「これは人によって評価が分かれるところですが、良いと思ってくれてる所が嬉しい」

「以上!」

「2/3が特殊性癖だったー! 何より私の中でのアヤタカ君の評価が下がったー!」

「じゃあ、今度逆ね」

 フリップボードを消す。なんでフリップボードがあるのかは置いといて。


「シンキングタイム終了でーす!」

「よし、これは良いの書けたわ。絶対、私の方がアヤタカ君よりは上」

「じゃあ、一つ目どうぞ。天高鷹のいいとろこ。ところ!」

「じゃん。そんなに悪いところがない」

「おー、一つ目から酷い。二つ目」

「たまにキモくない」

「これも逆説的だー! 三つ目」

「私のことを……好きでいてくれる」

「莉緒……」

「鷹……」

「俺らバカなのかな」

「疲れてんだよきっと」

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