第16話 十字架の下で

 キリスト像までたどり着いた彼女は、破れた布を纏った”彼”の胸元をなぞる。

「礼拝してるときだって、変なことばっか考えてるのに」

 石の身体にキスすると、飛び降りて来る。前のめりになった彼女の手を支える。

「アヤタカ君も来て」

 そういうと僕の手をエスコートして、祭壇に座らせる。イエスの足元。

 身を寄せて来る。

 ドレスに染みついた香水のにおいがする。

 身を寄せたばかりか、触れる腕が──僕のドレスの下腹を撫でて来る。

 そのまま下って行って──視界には彼女の上半身がすり寄っていて──手は僕のまたぐらへ。

 ドレスの上から、そっと優しく掴んできた。

「ん……」

 思わず漏れる息は、彼女の耳をそっと撫でた。

「綺麗だよ」

 今度は彼女の息が僕の耳を撫でた。

「アヤタカ君もエッチな子になりたいでしょ?」

 僕は考える──彼女は僕にどうしてほしいのかなって。

 きっと分かってほしいんだろう。そういう目で見られて、そういうことをしたいのにできなかった──やっと出会えた僕と、一緒に楽しみたいんだ。

 そこで、一つ疑問に行き当たった。

「あのさ」

「うん」

「トリオさんは観音様の餌食なったことはないんでしょ? じゃあ、なんであの日、階段を踏み外して僕の所に落ちてきたの?」

 あれは観音様の仕業だと思っていたけど、彼女は異教徒で観音の手が及ばないなら、僕の願いに彼女は巻き込まれないはずだ。

「あれはね、わざと」

「わざと?」

「うん。今日来たって言う転校生がさ、まあまあタイプだったから。私のモノにできるかなって」

「……なら、普通に声掛けてくれればよかったのに」

「でも、成功してるでしょ?」

 僕はトリオさんのモノになってる?

「うん、そうだね」

 ──話は済んだ? とばかりに、心の奥を覗くように交わしていた視線を解く。

 唇が首元を撫でた。

 掴みかけていた手が、そっと愛撫を再開する。

「ぁ……」

 普段と違う女性ものの下着の中で、熱く圧迫されていく。

 彼女の手との間で、僕自身が僕を締め付けていた。

「んふ」

 準備が終わったと、体を離した。

 祭壇を降りて長椅子に置いたカメラを持って来た。

「かわいいよ」

 イエスの足元──十字架にしだれかかった、息の荒い僕をパシャリと一枚撮った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る