導来編

第7話 電柱に登って見ていたもの

 スカートをはいた女性が、何故か電柱に登っているのを見上げる。

「一枚撮っとこう」

 トリオさんがカメラを構える。

「空も綺麗」

 電柱と電線の向こうには、雲一つない空が広がっている。

 電柱にしがみついた女性も、冒険に繰り出しているように見えないことはない。

「あの、すみません」

 僕らに気づいて声をかけてきた。首をひねって見下ろしている。

「降りれなくなったので助けてくれませんか。あと、写真に撮らないでくれませんか。恥ずかしいので」

 カメラを降ろすトリオさん。

「助けたいけど、どうしたらいいんだろう」

 工事用の足場を使って登ったみたいだ。足は棒の上、手はコアラみたいに電柱を掴んでる。登れたなら降りられないのかな? そもそも何で登ったんだろう?

「消防署とかに電話する?」

「いや、あまり大事にはしたくないです。応援だけしてもらえれば、私でも降りられると思います」

「そんなヒーローみたいにパワーアップできます?」

「がんばれ、みっちゃん、かわいいよと」

 かわいいが応援なのは良く分からない。

「がんばれー」「がんばれー」「かわいいよー、ほんとに」

「力が湧いてきました」

 すたすた降りて来る。


「ふぅ、いや、ホントに助かりました。二人の応援パワーですっ!」

 ニコニコとほほ笑む女性。

「それと、観音様のパワーのおかげですね!」

 あながち間違いでもない。ハプニングを探して、ここにたどり着いたんだから。

「なんであんなところに?」

「あの家の二階の窓を覗き込もうとしたんです。登れたんですけど、降りるのは怖くて」

 電柱の前にある家だろう。二階のカーテンは締まっている。

「安心してください私、覗き魔ではないです。あの部屋は教え子の部屋なんです。私中学校の先生をやっていて」

「生徒に恋心を抱いてしまった先生」

「恋心なんて綺麗なモノじゃないだろ」

「お二人とも、私のことどう思ってるんです? 最近あの子、学校に来てないんです。電話してもピンポンしても出ないから、話がしたくて。カーテン閉められて追い払われちゃいましたけど」

 明るく語る、体力のありそうな先生だった。

「お二人は喜連高校の生徒さんですか?」

「そうですけど」

 制服で分かったのだろう。この近くに高校は一つしかない。

「もしよかったら、教えてもらえませんか? どうやったら学校に来れるようになりますかね? 私より歳が近いと思うので、あの子の気持ちわかると思うんです。私にはもう、打つ手がないんです」

 電柱に登ってたぐらいだから、手は尽くしたんだろう。

 先生もだいぶ若そうだけど。

「んー……別に無理していかなくてもいいんじゃない?」

 トリオさんはそっちのスタンスなんだ。

「そもそも、なんで不登校になったんです?」

「あれは……二か月ほど前のことでした」

 遠い空を見上げる。なんか始まった。

「長いヤツですか? 長いのは嫌です」

「聞こうぜ」

「あの子──導来みちびきさん、他の子よりも発育が良くて」

「詳しく!」

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