学園の天使姫に色んな遊びを教えて堕天させるお話

黒兎

第1話 天使姫が屋上で露〇ナしてた話




 ん? どした娘よ。

 ……母さんとの馴れ初め?


 あー。

 あーー……。

 あーーー……。

 馴れ初めかぁー。


 それを俺たち二人が揃ってる時に聞く度胸よ。

 そうさなー(チラッ)。


 強いて言うなら―――――露オナ?


 悪かったよ、謝るからポカポカすんなって。

 っていうか、俺たちの馴れ初めを知りたいなら小説サイトを見ろよ。

 そこに投稿してるから。


 え? 初耳?

 そりゃ、言ったら絶対止めるよう言うじゃん。

 だって冒頭からお前が――




◇◆◇




『――んっ。あっ、んん……っ』


 ふと、目が覚める。

 今日は寝不足だったから、いつもの執筆作業に入る前に軽く仮眠を取ったんだ。

 とりあえず三十分を目安にアラームを掛けたんだが、自然と目が覚めてしまったようだ。


 ググっと伸びをして、大きな欠伸をかます。

 普段はもう少し人目を気にするが、ここは学校の屋上だ。

 しかも授業中となれば、なりふりを気にする必要もない。

 

『はぁ、はぁ、はあ……っ。んっ、ふぅぅ……、あっ、ああぁ、ふぁぁあ』


 給水タンクを日除けに、ぼんやりと空を眺める。

 突き抜けるような青空。

 稜線なだらかな山々から吹き抜ける春風が心地良く、もう一度欠伸が顔を出した。


『ダメ……! 声、漏れちゃ……っ。もし、誰かに見られちゃったら……っ』


 二度寝を慣行したいところだが、今日のノルマがまだ終わってない。

 やっぱ新しいジャンルに挑戦となると、どうしても速度がな。

 飲みかけの生温いジュースを一口。

 うん、微妙。

 キーボード付きのタブレットを開き、指を走らせ――


『で、でも、指、止まらな……っ』


 ッスゥ~~~~~~……。

 うん、何とか聞こえない振りをしようと思ったが、さすがに限界だ。

 


 情欲に満ちた甘い吐息。

 悩ましげな、されど喜色も含んだ嬌声。

 クチュクチュと水っぽいナニカを攪拌するような音。


 校舎内は静寂に満ちており、それらの音は屋上にやけに響いて聞こえた。

 

 誰だよ、屋上で露オナなんかしてるド変態は……!


 俺がいるのは給水タンクを設えた屋上の出入口――つまり塔屋だ。

 外から見るとボックスのように見えるアレ。

 高低差を遮蔽物として利用しながら下の方を覗き込み、


「――――」


 絶句した。

 少し話が逸れるが、俺の通うこの学園――私立薄明学園には、とある女子生徒が在籍している。


 名は、天ヶ瀬シア。


 名前から察せられる通り、彼女は外国人と日本人のハーフである。

 確か北欧系だったかな。

 神秘的な白銀の長髪は、一本一本が絹糸のように繊細で、艶やかな光沢を放っていた。

 そんな美髪と対を為すような黒のカチューシャが一層際立たさせている。


 長い睫毛に縁取られた大きな瞳は、柔らかな弧を描いていた。

 シミや黒子一つない新雪のような柔肌。

 小さくもふっくらとした唇。


 ハーフと言えば、自然と日本人離れした端麗な容姿をイメージするが、彼女はまさしくその例に漏れない美少女だった。


 それも、ひと際飛び抜けた。


 今テレビで話題沸騰中のアイドルや女優ですら、彼女には遠く及ばないだろう。

 小さな唇から発せられる美声と相俟って『天使姫』と呼ばれる辺りが、その証明である。

 俺も『どこのラノベの世界だよ』と思いながら否定するつもりはない。


 世が世なら傾国と謳われてもおかしくない――

 まさに絶世という言葉がピタリと当てはまる美貌なのだ。


 しかも。

 容姿だけでも充分反則的というのに、彼女は他の部分でも何ら見劣りしないスペックを誇っていた。


 細い手足。キュッと縊れた腰元。

 そんな華奢な身体でありながら確かな膨らみを持った双丘。


 他にも成績優秀だったり、お淑やかで控えめな性格だったり、儚げで守ってあげたくなるような雰囲気だったり、所作の一つ一つから確かな気品が感じられたりと、プラス要素に関しては枚挙に暇がないほどだ。


 まさに男の理想像もかくやとばかりの存在だろう。


 そりゃモテる。

 すっごくモテる。


 余所のクラスや先輩後輩が特に用もなく彼女の在籍する教室を通るなんて序の口。

 他校からわざわざ下校姿を一目見ようとする輩もいるのだから驚きだ。

 多分、芸能人の逸話として語られるモテエピソードは、一通り網羅してんじゃねえかな。


 だからなのか、天ヶ瀬は男と接するとき、表面上はお淑やかだが、どこか一線を引いているのが何となく分かる。

 大変そうだもんな。


 まあそれが返って人気を助長させているような気もするが。

 『芯が感じられて良い……』とか『だからこそ自分にだけは甘える姿が良いんだろうが!』とか、そういうの結構を聞くからな。


 ――そんな彼女が。



「あっ、あっ、あっ! ん、くぅぅ……! はぁ、はぁ……!」


 授業中の屋上で。


「ダメなのにっ、学校でこんなの、授業中、なのにっ、絶対ダメなのにっ、ん、ふぅぅ……っ!」


 オナっていた。


 誤字にあらず。

 本当に、オナっていた。

 閉じた両脚の間に深々と手首を突っ込み、全身をピクピクと痙攣させながら快楽に酔い痴れていた。

 

 長い睫毛をあしらった瞳は涙に濡れ、小さくもふっくらとした桜色の唇から一筋の唾液が零れている。

 悩ましげにかぶりを振り、白銀の美髪が舞う様子からは隠し切れない背徳感があった。


 天ヶ瀬もコレが自らの尊厳を貶める行為だと分かっているのだ。


 だと言うのに、水音は止まらない。

 寧ろ――


「早く、早く、このままじゃ見つかっちゃうかも……っ。もっと、もっと深くっ。……ぁ、ぁぁぁああっ!」

 

 寧ろ、より深く、そしてギアが一段階上がったのは気のせいじゃないだろう。

 快楽と背徳を天秤に乗せたスリルが、彼女の情欲を煽てているのだ。


 ――そして。

 天ヶ瀬の痴態を五メートルほどの距離で目撃した俺の心情と言えば、


(いや普通に気まずいわ)


 いやね? 俺もこういうシチュは嫌いじゃないよ?

 清楚なあの子が――というのは寧ろ大好物かもしれん。

 ギャップは大事。


 でも、それはフィクションだからであって、実際に目の当りにしたら普通に気まずいんだわ。

 ノンフィクションは、バリッバリ居た堪れないんだわ。

 幾ら思春期真っ只中の男子高校生だろうと、そんくらいのモラルはある。

 ……あるよな?

 

 どうする?

 これどうすんの?

 いや、何も見なかったフリして隠れる一択だけどさあ。


 一先ずこれ以上の観察は控え、撤退。

 反対方向を見ながら溜め息を零す。


 正直、意外だった。

 彼女はそういう事とは一番無縁そうな女の子だったから。


 いつも優しげな笑顔を浮かべ、落ち着いた物腰と丁寧な口調。

 教師からの信任も厚く、優美な振る舞いからは確かな育ちの良さを感じた。


 何せ、学園の天使姫だもんな。


 何とか天ヶ瀬の気を惹こうと頑張る男子がどれほど居ただろう。

 その可憐な美貌も伴い、女子からも憧れの的だった彼女が――である。

 慰み事に夢中になり、普段からは想像も付かないほど表情を蕩けさせていた。


「最低、です……っ、最低、最低っ♡ でも、でもでもでもっ♡」


 自らの行動を罵りながらも、水音は止まらない。

 そういう気質があるのか、罵倒こそを燃料とするように、またギアが上がった。


「はぁ、はぁ、はぁ……♡ はぁー……ん、ん、ん♡」


 激しさを増す嬌声と水音。

 頭を抱える俺を余所に、天ヶ瀬の方は佳境に入っていた。


「んん、あ、あ……っ♡ 来る、きちゃう。わたひ、学校で、屋上で、ダメなのに、ダメなのに、ダメなのに……! ビリビリって♡ 手、止まらない♡♡」


 ♡マーク来ちゃったかぁー。


「来るっ、くる……! きちゃう♡ あ、ああ、あぁぁぁああ♡」


 そして。


「ンッ──、んんん~~…………───────ッッッ♡♡♡♡」


 声にならない絶頂の悲鳴。

 何が起きたかを語るのは……野暮ってもんか。

 おそらきれい。


「はぁー……はぁー……はぁーっ♡ やっと、引きました……っ。もう、もう、もう……っ。最低です……♡」


 そういう割りに随分と気持ち良さそうでしたが。

 何にせよ、終わったのなら早く屋上から出て行ってください。

 くれぐれも振り返らず、人がいないかの確認なんかせず。

 というか、後者のは最初にしといてくれ。


 とりあえず、俺は何も見なかった。

 何も見てないし、聞いてない。

 十時夜一とときよるいちという存在は今日、この時間帯、屋上にはいなかった。

 これでファイナルアンサー。

 俺と彼女は明日からも、特に親しい間柄でもない、ただのクラスメイトだ。

 クラス替えをすれば忘れられる、そんな程度の――


 ――Prrrrr! Prrrrr!


「……………」


 アラーム切るの、忘れてたー……。

 痛恨のミスに顔を顰めながらアラーム音を切る。


 訪れる静寂。

 いつの間にか天ヶ瀬の荒い息づかいすら聞こえなくなっていた。

 沈黙が重く感じる。

 風鳴りがやたら響いて聞こえた。


「だ、誰か……いるん、です、か……?」


 あまりにか細い、そして震えに震えた天ヶ瀬の声。

 多分、彼女の顔は真っ青か、真っ赤のどちらかだろう。

 その問い掛けに対し、俺の返答は、沈黙だった。


 昔、偉大な漫画家が描いたキャラも『沈黙! それが正しい答えなんだ』っつってたからな。


 そう思ってたのに、カン……カン……と塔屋の梯子を昇る音。

 クラ〇カァ!!


 全然ダメじゃん!

 普通にこっち来てんじゃん!


 どうする?

このままじゃ見つかるのも時間の問題だ。

 幸い、天ヶ瀬の動きはおっかなびっくりである。

 まだ慌てるような時間じゃない――なんてことはカケラもないが、とにかく考えろ。


 天ヶ瀬が顔を出した瞬間、塔屋から降りて出入口に直行する?

 ダメだ。そんなのが通じるのはフィクションの中だけだ。

 ピッタリとタイミングが合うわけないし、そんなすばしっこく動けるわけがない。


 反対側に飛び降りる?

 残念ながらそこにスペースはない。

 もしも飛び降りれば、地面まで一直線。グチャリと真っ赤な抱擁を交わすことになるだろう。


 …………。

 やっぱ詰んでね? これ。


 ――や、待て。

 逆に考えるんだ。

 見つかっても構わない、と。

 要は、俺は何も見てないし聞いてないという証明さえ出来れば良いんだ。


 これまた幸い、俺の首元にはヘッドホンがある。

 装着。仰向けに寝転びながらタブレットを構えた。


 これで他人から見れば、俺はヘッドホンから流れる音に夢中になっている不良生徒に映るだろう。

 天ヶ瀬に呼び掛けられても無視を続ける。

 仮にポンポンと肩を叩かれた上で呼び掛けられたなら、配信を見ていたと改めて知らぬ存ぜぬを突き通せば良い。


 はい、勝った。

 これがIQ八千億の力っすよ。


 タブレットの操作に夢中になるフリをしていると、肩先をちょんちょんと突かれる。

 予想通り。

 俺は内心不敵な笑みを、同時に安堵もしながらヘッドホンを取り、タブレットから視線を外す。


 そこには膝立ちになった天ヶ瀬がいた。

 先ほどの痴態など無かったとばかりに平静を取り繕っているのが分かる。

 だって澄まし顔とは裏腹に、小刻みに震えてるもん。


「? 天ヶ瀬か。どうしたんだ? 今は授業中のはずだろ」


 上半身を起こしながら、いけしゃあしゃあと答える。

 知らないフリ知らないフリ。

 俺はずっとVtuberの配信を聞いてたから、屋上で何があったとか知りません。

 宇宙人、ウソツカナイ。


「そう言う十時くんこそ、授業に出てないじゃないですか」


 いつもの調子だった。

 可憐で、柔らかで、控えめな、玲瓏たる響き。


「俺はいいんだよ。出席日数とか、そういうの考えてサボってっから」

「いえ、そもそもサボりがダメなんですが」

「それ、お前が言――」


「え? なんでしょうか? 私は全然サボってませんよ十時くんが心配だったから探していたのであって屋上に来たのだってつい先ほどのことなんです本当なんです嘘つきません信じて下さい私は何もしていません」


 圧。早口。


「……そっか。そりゃ悪いことをしたな」

「いえ、十時くんが悪いわけでは……すみません」


 押し切ればいいのに、ここで罪悪感を抱く辺りが彼女らしい。

 居心地悪そうに視線を彷徨わせた天ヶ瀬だったが、意を決したように、


「それで、その……十時くんは……その、見ましたか?」


 見ました。

 ハッキリと。

 それはもうズップリと(意味深)


 が、当然バカ正直に答えるわけもなく、予めて用意していた方便で誤魔化す。


「そ、そう、でしたか……」


 ほっと安堵の息を吐いた天ヶ瀬の視線が俺のスマホをロックする。

 無表情になった。


「――……十時くん。つかぬ事をお聞きしますが、十時くんのスマホは、iPhone、ですか……?」

「そうだけど、それがどうしたんだ?」

「――――、」


 筆舌に尽くし難い呻き声を上げて天ヶ瀬はピシリと固まった。

 こいつ、そんな声を上げる人種だったんだ。


「そう、ですか……iPhoneでしか。そうですか……」


 と、虚ろな様子で呟く。

 彼女の視線は俺のスマホとヘッドホンを右往左往していた。


「や、本当にどうしたんだ?」

「いえ、何でもありません。では、私はそろそろ失礼しますね」


 それから一目で分かる笑顔を装う。

 目からハイライトが消えてるように見えるのは、気のせいだろうか。


「あ、十時くん。余計なお世話とは思いますが、やっぱり授業をサボるのは良くありませんよ。青春の一ページというのは、とても得難いものなんですから。お前が言うか、と言われたら全く反論の余地はないのですが」

「天ヶ瀬は俺を探しに来たんじゃなかったのか?」

「――――、」


 さっきと同じ反応。

 思った以上に愉快なやつか?


「そ、そうでした。私は一体何を勘違いしていたのでしょう。あ、あはは……それじゃあ、今度こそ失礼しますね」


 そう言って天ヶ瀬は梯子を降りていく。

 ガチャリと屋上の出入口の扉が開き――



「ぁぁぁあああぁあぁああああああああーーーーっ!」



 絶叫が迸った。



「終わった終わった終わりました私の人生! もうお先真っ暗です! やっと学校に通えるようになったのにお終いです! きっとこれから先テストで良い点を採っても『でも屋上でオ〇ニーしてたんだよな』って思われるんです! 一生懸命良い子を取り繕っても『でも屋上でオ〇ニーしてたんだよな』って思われるんです! どう足掻いても変態すぎる! もう私はこれから一生『露オナ女』というレッテルを貼られて生きていくことになるんですぅううううううううううう~~~~っ!!」



 そんな断末魔にも似た叫びが遠ざかっていく。

 あれ? もしかして俺がウソついたのバレてる?



 ――ともかく。

 これがただのクラスメイトだった天ヶ瀬との。

 将来、嫁になるシアとのターニングポイントになったのは間違いないだろう。




◇◆◇




 な、ななな、なんてところで始まってなんてところで締めてるんですかー!

 夜くんは鬼畜です悪魔ですサディスト星の宇宙人ですーっ!


 ほ、ほら感想見て下さい!

 私の呼び名が完全に『オナヶ瀬さん』で定着してるじゃないですか!

 オナヶ瀬さんは可愛いなぁ、とか書かれてもちっとも嬉しくありませんよう!


 え? 今は十時だから良いだろ?


 そ、そそそ、それとはこれとは話が違います!

 い、いえ、そ、それ自体はとても喜ばしいことなのですが……!


 う~。


 どうしました、クーちゃん?

 え? お父さんとの恋愛を一言で表すと?

 そ、それを夜くんがいる場で言えと?


 こ、この子は間違いなく夜くんの子どもです……!

 地球人とサディスト人のハーフです……っ。


 そ、そう、ですね……。

 でも、別に特に物珍しいものはありませんよ?

 ただの世間知らずな娘が、悪い男の人に唆されてしまった話です。


 ――ええ。


 ただの世間知らずな娘が、悪い男の人に唆されて――とっても幸せになったお話です。






――――――――――



 宜しければフォロー、高評価よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る