〜闇姫編〜 第15話 大型の小動物

 6月初旬、1学期中間テストが終わり、返却されるテストの点数にみんなが一喜一憂する時期…


「恵梨香ー、数Ⅱ…終わった…」


 放課後、綾が私の机で突っ伏している。先ほどの授業で数学Ⅱのテスト返却が行われ、私と違って、文理系科目には弱い綾は、点数が低かったのだろう。


「はいはい…来年から数Ⅱとはおさらばだからね〜頑張って…」


「でも数学からは逃げられない運命…この世は残酷だ…」


 私も数学じゃなくて、文系科目なら同じようになるから気持ちはわかる。

 

 そんなやり取りのさなか、私の右側からエラちゃんが飛び込むように抱きついてきた。


「エリー!今日、部活ないんだよね、遊ぼう!」


「ぐふっ!う、うん…良いよ…どこ行く?」


 エラちゃんと仲直りできたのは嬉しいけど、なんか前より愛情表現が激しくなったような気がする…そう思っていたのは私だけではないようで…


「あのさ…エラ、ちょっとくっつきすぎじゃない…」


「何よ、別に良いじゃん」


「仲直りしたのは私も嬉しいよ…でも…恵梨香の一番の親友ポジションは譲るつもりないからね!」


 綾が立ち上がってビシッとエラちゃんの方を指差す。一体何を言っているのだろうと呆れていると、エラちゃんも立ち上がった。


「ふーん、それコッチのセリフだから」


「じゃあ、勝負するしかないね…カラオケで勝負だ!」


「望むところよ!」


 何で私は取り合いされているんだろう…どっちが一番とかないのに…


 睨み合いながら教室を出ようとする二人の背中を追っていると、何だか足早で前見てないから危ないなあと思った。すると案の定、教室からでた直後、一人の女子生徒とぶつかった…


「キャ!」


「ごめん…大丈夫?」


 二人がその女子生徒に謝り、一足先に立ち上がったエラちゃんが、手を差し伸べる。


「わ、私の方こそ…ご、ごめん…なさい」


 そうして立ち上がった女子生徒を私は見上げる…倒れている時も薄々感じてはいたけどこの娘…

 

「でっか…」


 また、やってしまった…気にしているかもしれないのに、この口は…


「あっごめん!その…」


「い、いえ…大丈夫…です」


 にしてもこの娘、本当にいろいろでかい…身長180cmはあるだろうし、たわわなメロンが二つ実っている。なのに不思議と、まるで小動物のような愛らしさを感じる…

 話したのは今日が初めてだけど、私はきっと、この娘のことを知っている。

 

「それにしても珍しいね、塔子ちゃんが他のクラスに来るなんて…もしかして、私に用事?」


 綾が呼んだ名前で確信する。この娘は、空やエラちゃんと同じ四姫、茨野塔子ばらのとうこさん。通称、闇姫。

 高身長で、ボサボサの髪が膝下まで伸びるスーパーロング。

 長い前髪は目元をすっぽりと覆っているけど、噂によると、この前髪を上げると…めちゃくちゃ顔が良いらしい…

 綾とは去年同じクラスだと聞いている。二人の距離感を見ていると仲の良い友達なのだろう。


「う、うん…そうなんだけど…この後…遊びに行くんだよね…私は…また…こ、今度で良いから」


「何言ってるのー、塔子ちゃんも行こう!良いよね?二人共」


「うん良いよ」


「アタシも構わないけど…今から行くのカラオケなんだけど、塔子さんはカラオケ苦手じゃない?」


 確かに先ほどから、かなりおどおどしているし、初対面の人とカラオケなんてあんまり好きそうじゃない印象を受ける…


「お、お二人が良ければ…ご、ご一緒したい…です」


「よし、じゃあ行こう!」


 こうして四人でカラオケに行くことになった。ここで一つ私には今日中に達成したい目標ができた。

 その前髪を上げて、めちゃくちゃ良いと噂の顔を、必ず拝む…

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